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014 ダリアの本気

 武器を仕舞い、地面に着地する。


 そこへダリアが駆け寄ってきた。


「ピッピピィ~!」

「やったよダリア! やったやった!」


 ダリアを抱きかかえたままクルクルと回るローズ。

 倒せたことも勿論嬉しいが、隠し玉が有効だったことのほうが嬉しかった。


 その隠し玉とは、腰に付けていた鞭。

 魔物の皮を剥ぎ、それを細かくしたうえで結い合わせた丈夫な鞭だ。

 先端には武器から取り外した重みのある装飾品を付けてある。


 以前戦った際には、切り崩す要素が無く膠着状態が続くばかりだったが、鞭による一撃がその膠着を打ち破る切っ掛けとなったのだ。 


 意識外から飛んでくる鞭。 

 厄介なことこの上ない武器となるだろうが、腰を起点にした鞭攻撃故に、使用難度は極めて高いと言える。

 適性があったからこそ使いこなせたようなものではあるが、それでもローズのセンスの高さが窺え知れる。


 そしてこの鞭、使用していない時は腰に巻き付けておき装飾の飾りがワンポイントアクセとして機能する。

 装着時の見た目に大きな影響を与えないどころか、オシャレ感アップ間違いなし。

 完璧である。



「ピ! ピッピピィ!」

「え? どしたのダリア」


 ローズの戦闘に触発されたのか、ダリアは興奮しながら体を引っ張り始める。


「ちょ、ちょっと、どこに行くの!?」


 半ば引きずられるかのように向かった先は、あの液状の竜のいたフロアだ。

 到着したフロア内では、あれがうろうろしているのが見える。


「え……。まだ無理じゃない? さっきの骸骨騎士くんよりも物理攻撃が効かない相手だと思うよダリア……」

「ピ~ピピ!」


 なにやら自信たっぷりの様子。

 うーん、まぁどこまで通用するようになったか試してもいいか。


 前に脚を出すと、ダリアが通せんぼするように立ちふさがった。


「え?」

「ピピ! ピーピキィ!」


 どうやら任せろって言ってるみたい。

 ダリアなら死んじゃうことはないと思うけど……。


「大丈夫なの?」

「ピィ!」


 引き下がる様子もない。

 ここは任せて観戦することにしよう。


「じゃあ、ここで観てるからね!」

「ピ!」


 ずりずりと、ダリアはあのスライムのもとまで行く。


 スライム対決……!

 本当にあれがスライムなのかは正直疑わしいけど、初期の見た目はスライムなんだからきっとスライムに違いない!


 

 残念ながらローズの安直な考えは大いに間違っていた。

 考えと言うほど考えてはいないかもしれないが、あれはスライムではない。


 ウォータードラゴンと呼ばれる、大陸産の竜種だ。

 主にダンジョンの中層から下層に生息し、その不死性で冒険者の脅威とされる存在。


 液状型不老不死という特性を持つウォータードラゴンを倒す術は現在知られておらず、青プレートどころか赤プレートですら通常であれば逃げることも叶わない。

 そんな相手に2度も逃げられたのは、ひとえにダリアがいたからと言えるだろう。

 

 スライムという種族は、その基礎ステータスも将来性も圧倒的に竜に劣る。

 だが既に、ダリアはスライムではない。

 種族名こそスライムと付いてはいるが、レクティ・スライムとはもはやスライムではなく神に分類される。


 ローズは勝手に『スライム』対『スライム』の構図を頭に描いているが、実際のところは『神』対『竜』だ。

 これが地上であれば、大事件になるほどの戦闘が起きようとしている。


 それに気づかないローズは能天気に声援を送っていた。


「がんばれー! 負けるなダリア―! そんな奴やっちゃえー!」



 ダリアに気づいた液状の魔物が、その姿を竜へと変えていく。

 以前見た竜の姿もかなりの威圧感があったが、その比ではない。

 翼を大きく広げ、体中の鱗が逆立っている。

 頭部は鋭く細長い形状で目がどこにあるのか分からない。

 たまに光を反射して波打つ瞬間が無ければ、液体だというのを忘れるほどの存在感。


 恐らくこれが本来の完全形態。

 今まで、どんな相手だろうとまともに戦闘に参加していなかったダリアが、初めて戦意を持って前に立った瞬間だった。

 その戦意を感じ取ってか、初めから全力ということなのだろう。


「グオオオオオオオ!!」


 ウォータードラゴンが咆哮を放つ。

 風圧で辺りの物が吹き飛び、ダリアの体はぶよぶよと波打つようにさざめいている。


「わわわ……!」


 ローズは風圧に負けて岩陰へと身を隠した。


 一通り咆哮が終わると、ダリアがその体を大きく膨張させていく。

 まるで怪獣映画が始まりそうな雰囲気だ。


 増えた質量分、触腕をいつもよりも多く作り出しダリアが先に攻撃を開始した。

 

 竜は迫りくる触腕を尻尾で叩き落とし、翼で払い除ける。

 だが全ては防ぎきれず、体を部分的に掴まれてしまう。


 それが癇に障ったのか、口を大きく開き何かを圧縮し始めた。

 そしてそれを一気に解き放つ。


 口から放たれたそれは、ダリアに一直線に向かい直撃する。

 ウォータードラゴンが持つ最も強力な攻撃、ドラゴンブレスだ。

 水を射出しているわけではなく、圧縮した魔力を光線状に照射し続ける大技。


 熱量で周囲の岩をドロドロと溶かしながら、延々とダリアを焼き続ける。


「うひぃ!」


 熱風と衝撃で、ローズはフロア外へと飛ばされる。

 すぐに戻ろうとしたが、向かってくる熱風が熱くて進めない。

 本能的に呼吸するのをやめた。

 肌がチリチリと焼け付く感覚、これを吸い込んだら肺が焼けてしまうかもしれない。


 横にある岩場に退避して身を隠し、熱風が治まったタイミングですぐにダリアの様子を見に走った。


「ダリア!」


 ダリアの体はいつもどおりそこにあった。

 ダメージを受けている様子もない。


 あれを受けてなんともなかったの?


 ウォータードラゴンは再度、口に魔力を溜め始める。


 もう1回あれをやる気だ。

 何度もあれを食らったらいくらダリアでも……。



 体を小さく膨張させ始めるダリア。

 その体の上方、恐らく口と思われる部分に魔術陣が複数、複雑に展開し始めた。


 しかしそんな陣の構築よりも早く、ウォータードラゴンの2射目が発射される。

 激しい熱線をその身に受けながら、数舜遅れてダリアがそれを放った。


「ピッ!」


 一瞬だけ轟音が響き、その後すぐ周囲から音が消える。

 分かるのは凄まじいまでの衝撃で目を開けていられないということのみ。

 

 ダリアが放ったそれはドラゴンブレスだった。

 本家のドラゴンブレスよりも数倍太い光の筋が、ウォータードラゴンもろともダンジョンを破壊していく。


「グガ……ガ……」


 光に包まれながらウォータードラゴンはその体を蒸発させられ、ついには全ての質量を失って消えていった。


 衝撃が治まり、目を開くとフロアよりも大きい穴が眼前に広がっている。

 その穴の先には、途中途中横や下に抜ける穴が見えている。

 一定以上奥になるとライトパルスの効果が届かないのか、暗闇で確認できない。


「え、え~~~…………」


 すぐにいつものサイズに戻ると、ダリアはローズの元へと駆け寄っていく。


「ピピ~」


 その動きは喜びを表しているのか、右へ左へとぴょんぴょん飛び跳ねている。


「す、すごいねダリア……ハハ……」


 すごいスライムだってのは、何度も何度も思ってきたことだったけど。

 なにこの穴、先が見えないじゃん……。

 

 スライム恐るべし。


 もうダリアひとりでいいんじゃないかな……。

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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