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011 誰かの生きた跡

「ダリア! 右!」

「ピィ!」


 ワラワラと動き回る蜘蛛たち。

 次々と向かってくるそれを、剣で払い、槍で突き、ダリアが薙ぎ払う。

  

「ぐうぅ!」


 1匹へと突き刺した剣が抜けない。

 だが蜘蛛たちはそんなことはお構いなしに向かってくる。


 武器から手を離し、新しい剣を発現させて戦闘を継続する。

 ダリアがかなりの数を引き受けてはくれているが、それでも数が多い。


「こんな時、魔術が使えれば……!」


 無いものねだりをしている場合ではない。

 ともかくこの状況を切り抜ける必要がある。


 疲労か、油断か。

 集中力は長く続かず、蜘蛛が吐き出す粘着性の糸が右のブーツに付着する。


「しまっ――」


 凄まじい力で引っ張られ、空中へと放り投げられた。

 恐らくこのまま落下するであろう場所には、白い地面が広がっている。


 糸だ。

 蜘蛛の糸を折り合わせた糸の塊だ。

 差し詰め、蜘蛛糸のベッドと言ったところか。


 あそこに落ちたら身動きが取れなくなるのは明白。


「あ、足場を……!」


 霊装化していた武器たちを一気に発現させる。

 重い刃部分を下に、それらは次々と落ちていき、眼下の蜘蛛たちを串刺しにしていく。


 だが、肝心の蜘蛛糸のベッドには数本の剣が刺さっただけ。

 

「いや、いける……!」


 中央に突き刺さる槍の柄の上に着地する。

 鋭い衝撃が脚へと伝わってくる。


 ブーツの底が鉄板でなければ、脚でちゃんと捉えていなければ、槍は体を下から貫いたかもしれない。

 しかしそんなことに思考を割いている暇はない。

 

 武器の散布により怯んでいた蜘蛛たちが、一斉に糸を吐き出してくる。


「ッ!」


 糸を躱すように飛び上がり、蜘蛛糸のベッドから離れる。

 着地点に居た蜘蛛が、そのグロテスクな口を剥き出しにして待ち構えている。


「――ふんっ!」


 発現させた斧を叩きつけ、着地と同時に体勢を立て直した。


「ダリア!」


 声に反応したダリアが、いつの間にか大きく膨れ上がったその体をこちらに移動させ始める。

 高さ4メートルほどになったダリアは、少し動くだけで周囲の蜘蛛たちの動きを制限していた。


「合流すれば……!」


 


 ――トカゲを倒した後、先を進んだふたりは大きく広がった空間に出た。

 そこにあったのは大量の卵。

 

 気持ち悪い粘性の糸がそこら中に広がり、さながらエイリアン映画のようだった。

 不用意にも、ダリアが卵を飲み込んでしまったのだ。


 そこからは地獄絵図。


 あらゆる方向から現れる蜘蛛たちに囲まれ、今に至る――。



「いいぞー! やっちゃえー!」


 ダリアが作ってくれた触腕の上で、眼下を見下ろしながら小躍りをする。

 初めからこうすればよかったかも。


 その巨体をうねらせ、蜘蛛たちを次々に飲み込んでいく。

 その中には大量の卵も含まれていた。


 卵を取られたからだろうか。

 蜘蛛たちは引き下がることもなく猛然と向かってくる。

 しかし悉くがダリアの体の中に納まっていく。


 気づけばその空間の蜘蛛たちは皆、スライムの中で溶け始めている。


「お、終わっちゃった……」


 さすが神性を持ったスライム……。

 けっこうな戦闘だと思ったけど、通常運転だ。


 ダリアがゆっくりと地面に下ろしてくれた。


「ありがとねダリア」


 しかし、随分と綺麗になったものだ。

 糸でべちゃべちゃだった場所も、すっきり綺麗になっている。


 もうダリアだけでいいんじゃないかな。


 いやいやダメでしょ。

 ダリアにばっか頼っちゃダメだ。

 私もここで成長しなくちゃ。


 大量の魔物と卵の消化を終え、ダリアはいつものサイズに戻る。

 いったいあの体積はどこに消えてるんだろうか。


「よし! もう少し進もうダリア!」

「ピィ!」



 蜘蛛たちの産卵場所を抜けると、すぐ分岐点があった。

 

「うーん、どうしよう」


 悩んでいると、ダリアが左の道へと進みだす。

 

「あ、ダリア!」


 追いかけるように左の道を進むと、そこには下を続く階段があった。


「か、階段だ。でも降りるほうか……」

「ピ! ピッピィ!」


 何故かダリアは嬉しそうにその階段を降りていく。


「え、ちょっと待ってダリア!」


 地上に戻りたいのに、下に降りてどうするの!


 かなり長い階段だ。

 転げ落ちていくダリアに追いつけない。


 仕方なく下まで辿り着くと、そこには目を疑う光景が広がっていた。


 一面を覆う緑。

 空が見える空間に、草木が生い茂っている。

 その奥には民家と思しき家屋がひとつだけ建っていた。


「え……。なにここ……」


 ダンジョン内だと言うのに、明らかに異質な空間。

 一応の警戒をしながら家へと近づいていく。


 家の周りには、蒔き割りをする場所や、外付けの竈などがある。

 つい最近まで生活していた様子が見受けられる。


「もしかして人がいるのかな?」

「ピ?」


 周囲に危険は無さそう。

 後は家の中だけ、誰かいるかな……。


「お、お邪魔しまーす……」


 扉を開け、中へと足を踏み入れる。

 少し埃っぽく、空気が淀んでいるように感じる。

 

「……」


 奥の方には、別の扉がある。

 扉の前に行く前に、軽く屋内の様子を見て回った。


 軽く埃が見えるが、それほど長い間放置していた感じではない。

 テーブルも椅子も、食器類や調理道具も使われていた形跡がある。

 確実に誰かが生活していたという気配がある。


 ダリアと顔を見合わせ、先ほどの奥の扉へと手を掛ける。


 ゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりとそれを開いていく。


「…………!」


 そこは寝室だった。

 ベッドの上には、人の形をした何かが横たわっている。

 その体はところどころが崩れて黒く変色しており、生きているとは思えない。

 頭に当たる部分に至っては、顔が丸々崩れて無くなっている。


「……この人、こんなところにずっとひとりで暮らしてたのかな……」


 誰にも看取られることなく、ひとりで息絶えたのだろうか。

 その死に方はどう見ても人の死に方ではないが、襲われたような形跡はない。

 だがその形は、明らかに人間だった。


「ピィ!」


 ダリアの声に振り向くと、そこには何かが砕け散った欠片が散乱していた。


「……?」


 拾い上げてみるが、それはパラパラと更に崩れ掴むことができない。

 

「ガラスっぽいけど……なんだろう」


 すぐ横には台座のような物があり、そこには小さな座布団が敷いてあった。

 恐らくここに乗っていた何かの欠片だろう。

 落ちて砕けてしまったのだろうか。


「水晶玉とかかな……」

「ピィ……」


 欠片の一部をダリアが取り込もうとしたが、触れた時点で塵へと変わってしまう。

 

「ダリア、この人を弔ってあげよう……」

「ピキィ……!」


 




 ダリアに手伝ってもらい、家の裏手へと死体を運び出す。

 幸い、この人の体は触っても崩れなかった。


 用意されていた蒔きを並べ、その上へと寝かし火を付ける。

 小さな火はやがて大きくなり、死体を燃やしていく。


 この世界に火葬の概念があるのかは分からないが、これが私にできる弔い。

 誰だったのかは分からないけど、せめて最期くらいは……。


 全てが燃え尽きるまで、私はここで故人の安らかな眠りを祈り続けた。






「さぁダリア! ちょっと掃除するよ!」

「ピィ!」


 今日のところはこの家で休むことにしよう。

 幸い、生活に必要そうなものは揃ってるし、近場には水が湧いている。

 魔物とかもこのフロアには入ってこないみたいだし、休むには絶好の場所だ。


「お借りする以上、綺麗に使わないとね!」


 といっても、私が落としていった埃を、ダリアが床を滑って綺麗にしていく。

 ただのそれだけの作業だ。

 元々片付いていたのでその程度で済んだ。


 そして今度は調理道具を洗う。

 一番助かったのがこれだ。

 調理道具を借り、台所で料理ができる。

 

 勿論簡単な物しか作れないが、それでも持っていた肉類をどう焼くか困っていたから本当に助かった。


 一通り掃除を済ませ、調理を開始する。


「まずはお肉を叩きます! 叩けばお肉が柔らかくなるそうです! 何故か!」

「ピピ!」


 お肉は叩いて柔らかくするもの。

 肉の筋、繊維を断ち切って柔らかくするのだが、それを理解していない。


 タンタンと音を立てながら、発現させたこん棒で叩いていく。

 

 この霊装化、戦闘以外にも便利な点があった。

 どれだけ使用して汚れても、一度引っ込めてから出せば元の通り綺麗な状態になるのだ。

 

 恐らく霊装化される対象が武器のみだからだろう。

 そのおかげで肉を叩くこん棒から、蜘蛛の体液とかが混ざる心配をしなくていい。


「次は味付けをします! なんと! 塩コショウがありました!」

「ピピピィ~」

「すみません、お借りします」


 軽くお辞儀をしつつ、柔らかくした肉へと振りかけていく。

 今目の前にあるのは、落ちる前に取ってあったホーンラビットの肉だ。

 ちょうど依頼のついでに入手したものだったが、取っておいてよかった。


 ある程度振りかけたら今度は手もみをする。

 塩コショウの風味を馴染ませていく。


「はい! じゃあ一旦肉を置いておいて! サラダを作ります!」

「ピピ~……」


 ダリアは野菜があまり好きではないらしく、あからさまにテンションが低くなった。


「ダメだよダリア。ちゃんと野菜も食べないと!」


 スライムに栄養素の偏りとかを気にして意味があるのか分からないが、一緒にいるうちは同じものを食べていただきます。


 家から少し離れたところにあった畑から、野菜類を拝借し丹念に洗ってきた。

 レタスと思われる野菜と、見るからに玉ねぎな丸い野菜。

 それらを発現させたナイフで切り刻んでいく。


「あぅ~……。やっぱりこれ玉ねぎだった~……」


 目を赤く腫らし、涙を流す。

 玉ねぎを切ると涙が出るって言うけど、こんなに出る!?


「はい……じゃあこれを炒めていきます……」


 止まらない涙を堪えながら、洗ったフライパンに火をかけて炒めていく。

 火加減が難しいため、少し苦戦したがまぁまぁのアメ色になった。


 火の通りが悪かったため、多少焦げてしまったが……。


 置いてあった皿にレタスを敷き、その上に炒めた玉ねぎを乗せる。


「本番だよ! いざ! ウサギ肉へ!」

「ピッピキィ!」


 熱したフライパンに、ウサギ肉を敷いていく。

 ジュワジュワと小気味いい音が響き、すぐに肉の焼ける良い匂いが立ち込め始める。

 先ほどの玉ねぎの匂いも相まって、もうお腹が反応しっぱなしである。


 ウサギ肉から大量の肉汁が出始める。

 それを器に移し、更に熱し続け十分に火が通ったところで、さきほど盛り合わせたレタスと玉ねぎの上へと乗せる。


「完成!」


 出来上がった料理は、用意したものを全部重ねるという非常にシンプルなものだったが、匂いが強烈に食欲を刺激してくる。

 そしてそれはちゃんとふたり分ある。


「あ、ダリアのは先にこれをかけちゃうね」


 器に寄せてあったウサギ肉の肉汁を、全体にかけていく。

 この肉汁は、熱を保つ性質があり、掛けられたレタスがパチパチとほんのり焼けていっている。


「じゃあいただきまーす!」


 まずはお肉を玉ねぎと一緒にレタスで包みます。

 これをさっきの肉汁に付けます!


 すると、ジュゥという音と共に香ばしい匂いが強くなる。


 それを今度は口へと運んでいく。


「ん~! おいしぃ~!」


 満面の笑みで肉と野菜を噛みしめる。


「ダリアも美味しい?」

「ピ?」


 横を見ると、全ての肉と野菜を一緒くたに体の中に飲み込んでいる姿が映る。

 いつもと変わらない捕食風景だが、味わって食べているようだ。


「ふふ、良かった!」

「ピピィ~」


 笑うローズに答えるダリア。

 ここがダンジョンの下層だということを忘れさせてくれる食事だった。

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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