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009 撤退からの落下

「静かに……かなり数が多い……」


 2階層に降りてすぐ、大きな空間が広がっていた。

 大量の狼たちが、仕留めた猪の肉に群がっているのが見える。


「おかしいですぞ……あれはシルバーウルフでしょう……。なぜこんな上層に……」

「しかも、死骸がそのまま残ってる……。何か良くないことが起こってる気がする……。中止だ。引き返すよ」

「……仕方ありませんな」


 不可解な状況から撤退を選択。

 現在優先すべきはこの異常事態の報告。

 そして万全の態勢を整えての調査だとフィオは言う。


 こういう時、調査のために深入りするのってよく見るけど基本ろくなことにならないよね。

 結局死んで情報も持ち帰れなかったりするし、私も撤退には賛成。


 事実、フィオの判断は正しかった。


 帰りの道中、2階層へ戻る途中の斥候と遭遇したのだ。

 10階層以上で出現するシルバーウルフだが、1匹程度ならフィオたちの敵ではない。

 だが、もう少し遅かったのなら背後を取られ、広間の狼たちとの戦闘になっただろう。

 目算で30匹。

 見えるだけでそれなのだから、恐らくはもっと多かったのだろう。


 その数との戦闘になれば、いくら彼らでもひとたまりもない。


「よし、無事に出られたね。僕は見張りの人たちに警戒するように伝えてくるから、少し待っててくれ」

「了解した」

「はい」


 報告を受け、見張りの職員が知らせ鳥を飛ばす。

 それを見送ったフィオが戻ってくる。

 

「じゃあ僕たちも戻ろう」


 来た時の馬車がまだ残っていたので、それに乗って戻ることになった。

 





 もう少しで街というところで、兵士や冒険者たちの混成部隊とすれ違う。


「ちゃんと伝わったみたいだね」

「あ、あのフィオさん。あの人たちは……?」

「彼らはダンジョンの周辺の警備増強人員だと思うよ。あのままだとダンジョンから魔物が溢れてきそうだったから、救援要請を出しておいたんだ」

「なるほど、それで……」


 ギルドの仕事は相変わらず早いようで、ダンジョンを出発してからまだ20分ほどしか経っていない。


 すれ違った混成部隊は大体30人くらい。

 それも青プレートが目立っていた。

 けっこうな事件になりつつある?


 そんなことを考えていたら、いつの間にかギルドの前に到着していた。





 ◆





「そうか……2階層は既に溢れかえってると考えるべきだな……。ザミ、何人送った?」

「黄プレートが8人。青プレートが15人。赤プレートがひとり。それと街の守備隊から10人ほどお借りしました」


 クライムさんとザミさん、そこにフィオさんたちが混ざって話し込んでいる。

 私はその間、ソファに座って出されたお茶を飲んでいた。


「現場の指揮は誰が?」

「ザックスだ」

「分かりました。では我々はもう一度向かいます」


「ああ、頼む。迅速な対応で助かった。それとローズを無事に連れ帰ってくれたこともな」

「いえ、大したことでは……」


「相変わらず謙虚な奴だな。……方針が決まり次第通達する。それまでダンジョンの外に魔物が溢れないよう頼むぞ」

「はい!」


 フィオ、ミランダ、ゲイルの3人は足早に扉まで歩いていく。


「またねローズちゃん」

「またですぞローズ殿」

「またね」


「は、はい! 頑張ってください!」


 軽く手を振り返す3人は、そのまま部屋から出ていった。


「ふぅ……、ダリア、もう出てきていいよ」

 

 腰のポーチからダリアがニュルニュルと這い出てくる。


「ピッ!」

「ごめんね、狭かったでしょ?」

「ピピィッ!」


「秘密にしろとは言ったが、まさかそんなとこに入れてるとはな……」


 ダンジョンに向かう前、クライムからダリアのことは極力黙っておくようにと注意されていた。

 神話級の魔物が街の中にいるなんて知れたら大事になる。

 普通に生活している分にはちょっと白いスライムで通せるが、戦闘するところは絶対に見せるなということだったのでポーチに隠れてもらっていた。


 でも正直、触腕と捕食しか見たことないからバレないと思うんだけど。


「しかし初めてのダンジョンが台無しになっちまったな」

「あ、いえ。平気です。1階層だけでしたけど、しっかり勉強にはなりましたから」

「そうか、ならまぁいい。俺はこれから中央に向かう。ザミ、後を頼むぞ」

「承知しました……」


 クライムさんはちょっと怖い顔のまま、部屋を出ていく。

 扉が閉まるのを確認してから、ザミさんが目のまえのソファにどさっと座り込んだ。


「じゃあローズちゃん! これからについて説明するね!」






 ◆






「ふぅ、けっこう取れたかな。ダリアはどお?」


 その体の中には、3匹ほどのウサギが飲み込まれているが、そうなったばかりのようで必死にもがいている。


 ダンジョンが封鎖されてから3日が経った。

 ザミさんの話では、しばらくは冒険者らしく依頼をこなしてていいとのことだった。

 

 ベテランの冒険者は全員ダンジョンの方でかかりっきりになる。

 そのため、依頼をこなしてくれる冒険者はひとりでも多く欲しいからとか。


「私も何か手伝えたらいいのになぁ……」


「ピィ! ピィ!」


 ん?

 なんだろ、ダリアが呼んでる。


 傍まで寄ると、不自然な穴が地面に見える。

 覗き込んでみたが、暗すぎてどうなっているのかよく分からない。


「なんだろうこれ、どう思う? ダリア」

「ピィ~?」


 穴の横で、ふたりで首を傾げていた。

 それがいけなかった。


 突然、地面が激しく揺さぶられる。


「え……!? 地震!?」

「ピピィ!?」


 周囲の景色がブレるほどの震動。

 とても立っていられない。


 ダリアが私の体に飛び込んでひっついている。

 スライムでも地震は怖いようだ。


 10秒……20秒……。

 まだ地震は収まらない。

 その場に座り込んで必死に耐える。


 私は地震の恐怖に頭が回らず、そこから移動しなかった。

 不自然に空いた穴の横で座り込んでしまったのだ。


 地面に亀裂が入っていく。

 ビキビキと不安を駆り立てるような音を立てながら大地が軋んでいる。


「な、なになになになに!?」


 岩が砕ける音がそこら中から聞こえてくる。

 私の座り込んでいた地面が消えたのは、そのすぐあとだった。

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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