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ある王国の物語  作者: 梓乃
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曙光の伝達者

 ――話に聞いていたのとは、違うようだ。

 以前自分の住まう森の長から聞かされた話。それはもう“伝承”や“御伽話”と言っても差し支えないほど遠い昔にあった出来事であり、また真実でもある話。

『喚ばれて来てみれば、あの驚きよう…。しかも“名告の儀”もないということは…』この身に起こるまでは他の者達同様“御伽話”だと思っていたが、実際喚ばれたと言う事は真実ではあったのだろう。


 ――ただし、自分の住まう世界だけ。


 経緯は判らないが、何らかの事情でこちら側にあった術自体失伝してしまったのかもしれない。それならば本来行われるべき手順も、真実が御伽話に変わるほど長い時間喚ばれた者が出なかった説明もつく。

 年若い人の子が住んでいる場所では澱みの酷さもあって掴みづらかったが、同胞の気配も感知できず、『あちら側』からの来訪者は己のみ。

『こちら側』に来てから、それとなく周囲の状況を観察して判った事と言えばその程度で“名告の儀”も済んでいない身では、問いただすことも出来ず思考を重ねるくらいしか出来ることはなかった。


 そんなもどかしい思いを抱えたまま人の子の側で過ごし、行動に制限をかけられるばかりの日々に飽いた頃決まった突然の外出。纏わり付く様な澱みからの解放に心が浮き立ち、初めて見る『こちら側』の世界はより一層新鮮でもあった。人の子と共に箱型の物体に乗せられての移動ではあるが、徐々に慣れしたんだ軽やかな空気に飛び立ってしまいたくなる程気持ちは晴れていく。同乗の人の子もどこか楽しげで目的地に着くのを心待ちにしているようでもあった。

 それもそのはずで、辿り着いた場所に待っていたのは人の子の同胞の許。今までは気難しい村の長のような顔だったが、伸び伸びと同じ年頃らしい同胞達と声を上げ笑い転げている。澱みの酷かった彼の場所にも幾分年の離れた同胞も居たようだが、ここに居る者たちのような気安さも無く、話しかけても会話が続くことはなく距離を置かれているのを感じて項垂れている姿を何度か見ていた。

 側にいても意思を交わす手段も無くもどかしい思いばかりではあったが、この滞在は人の子にとって相応の感情を取り戻す良い機会である。大人しく、感情を口にするのが稀だった年若き者が悪態をつきながら、書き損じた紙を腹いせに丸めて後ろに放り投げるなど『お行儀の良さ』を押し付ける彼の場所では見ることができなかっただろう。


 目の前で意識を失うようにベッドに倒れこんでしまった年若い人の子を見れば、安寧の時間である睡眠中にも関わらず眉間に皺が寄っている。

 こちらに顕現した瞬間の唖然とした顔は年相応で微笑ましくもあったが、まさか喚んだ本人に知識も無くここまで不自由と焦燥を感じることになるとは予想外である。


 ――だが悪くはないな。


 変わり映えしない向こうに居たのでは味わうことが出来なかったであろう“未知の世界”への興味。

 ドゥクスと呼ばれた時に感じた新しい何かが始まる予感めいた気持ち。

 偶然でも重なったのか語り継がれた御伽話を真実に変えたとは微塵も思っていないであろう年若い人の子の“名”を聞くのが楽しみだ。


 ――暫くは退屈とは無縁だな。


 飛び立ちそうな感情を宥めつつ、人の子が目覚めるのを見逃さぬよう枕元で羽根を休めるのだった。


未熟なままの公開も心苦しく、ここで一度完結扱いにさせて頂きます。


世界を描ききれない歯痒さばかりなり…。

それでもお付き合いくださった読み手の皆様、評価を下さった方に感謝を捧げます。

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