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恐怖! 「ミノムシ事件」 幼少期の思い出

作者: いまっく

 私が通っていた保育園は、自宅から結構離れた山の上にあり、お寺に隣接したこじんまりとしたところであった。

園の建物の周りは通路状になっており、ぐるりと一周できるのだが、園児の足ではずいぶん長い距離に感じられた。

その建物の裏道には細い木々が立ち並び、秋になるとその葉の裏や枝に、カマキリの卵やミノムシや、よく分からない小さな虫などが、寒さをしのぐようにくっついていた。

ある日私は、友達と一緒に虫を捕まえようということになり、すぐさま園の裏道へと行き、みんなで木の枝をかき分けながら虫を探した。

その日はもう秋も終わりになる頃で、したたかに肌寒くなってきた時期でもあり、なかなか虫が見つからない。そうこうしているうちに、私は小枝にくっついている小さなミノムシを見つけた。

「あーっ! なんかおったよー」と声を上げると、友達が集まってきた。

「こいは、なんやろか?」

「ミノムシばい」

などとはしゃぎながら、枝からミノムシをむしり取りプニプニともみ始めた。

オチンチンみたいだなーと思いながらいじっていたら、なんだか、だんだん柔らかくなってきた。

指の感触が気持ちいい。ミノムシの頭がミノから出たり入ったりする。

友達がその様子を面白がって覗き込んでいる。

何を思ったか私は、ミノムシをつまんでいた指に力を入れ、思いっきり摘まんでみた。

すると、プチッという不気味な音とともにミノムシが潰れ、その先端から黄色ともオレンジ色ともつかぬ液体が、友達の顔を目掛けて勢いよく飛び出した。

その液体は、見事に友達の顔を斜め一文字に彩った。

まるで、真っ白なキャンバスに絵の具の原液を一直線に絞り塗ったかのようだ。

しかし、その液体は絵の具ではなく、ミノムシが潰れたものであり、辺りにヤギのゲロのような異様な匂いが漂いだした。

ミノムシの体液で描かれた一文字は、友達のおでこから鼻すじをへだて口元までにも達した。

体液が少しその子の口に入ったらしく、それがよほど苦かったのであろう、ぺっぺっと吐き出していた。

ミノムシは、煎じて飲めば心臓病や肺病に効果があるとされている。(出典:「昆虫本草」)

しかし、もう、それどころではない騒ぎだ。

周りにいた友達は、その子の顔をギョッと目を丸くしながら見た。

みんな一斉に、「うわー! なんねこいはー。気持ちの悪かねー」と騒ぎ出した。

私はしばらく、黄色いようなオレンジ色っぽいようなどどめ色のすじが付いた友達の顔をボーと眺めていたが、その顔がだんだん険しくなっていくのが分かった。

目が三角形になったなと思った瞬間、その眼から涙があふれ出し、どどめ色の絵具のようなミノムシの体液と涙が混ざりだし、更に異様な風貌となってきた。

そして次の瞬間、「なんばすっとーっ!?」と大声を出しながら、こっちに向かってきた。

その顔があまりにも怖かったので、身が凍る思いで一瞬足がすくんでしまったが、その時は兎にも角にもただ逃げるしかなかった。

周りの友達も一緒になって逃げだした。


「わー、ミノムシが来たー!」

「顔にミノムシのウンコが付いついとるー!」

「わー、助けてー! ミノムシ怪人ばーい!」


子供は残酷である。

園の周りを何週走っただろうか? 血相を変えて逃げていたのだが、段々疲れてきて足が絡みだした。

ヨタヨタになりながらも走っていたら、園の裏道にある焼却炉をすぎたところで、地面から少しはみ出している木の根につまずき転んでしまった。

そしてとうとう、ミノムシ怪人に捕まってしまった。


「もー、なんばすっとねー」

「ごめーん。わざとじゃなかとー」


ミノムシ怪人に腕をつかまれ、立ち上がろうとしたが、先ほど転んだ拍子に膝を擦り剥いてしまい、膝小僧がジンジンと痛んできた。

見ると、少し血が滲んでいる。私はそのまましゃがみ込み、膝を抱え少しぐずついた。

膝は大した怪我ではないのだが、土と血が滲んだ擦り傷が痛々しい。

今まで怒っていたミノムシ怪人なのだが、心配そうに血の滲んだ私の膝を覗き込んだ。

私は、転んだ事の恥ずかしさと、ミノムシ怪人からの逃走が終わった事の安堵感と、ジンジンする膝の痛みとが入り混じった複雑な感情が噴出してきて、思わずワンワンと泣き出してしまった。

するとミノムシ怪人は、焼却炉の横の花壇に群生していたヨモギの葉をおもむろにむしり取り、両手でもみだし、

「この葉っぱ(ヨモギ)は、怪我した時に付けたらよかとよ。血の止まるけんね」

と言いながら、もんで軟らかくなったヨモギを、擦り剥いた膝にそおっと塗り付けてくれた。(実際、ヨモギには止血効果があるそうだ)

私は、ミノムシ怪人の優しさに思わず笑みがこぼれた。

『なんて優しいんだろう、このミノムシ怪人は悪者じゃないんだ。本当は正義の味方なんだ』

などと心の中でつぶやきつつ、ミノムシ怪人を見つめたのだが、その顔にはまだ、ヤギのゲロのような異様な匂いのするどどめ色のミノムシ体液絵の具が付いたままであった。


気がつくと、周りに人気がなくなっていた。

すでに休み時間が終わり、給食の時間となっていたのだ。

みんなはとっくに園内に戻り、「いただきます」の挨拶も終わっていた。

ミノムシ怪人と私は、先生に気がつかれない様にそーとドアを開け、しゃがんだ状態での低姿勢でゆっくり自分の席へと前進したのだが、そのような作戦も虚しく破れ、園で一番怖い魔女のような先生に見つかってしまった。

そして、遅刻したバツとして二人は、教室の奥にあるステージの上の両端に並んで立たされた。

みんなの視線が痛々しい。

僕らは照れくさそうにお互いをチラチラと横目で見ながら、なんだかとても長い冒険の旅から帰ってきたような気分がしてきて、思わず笑みがこぼれてきた。




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