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戦え! プリンセス  作者: 井川林檎
第一部 マジカルジョークワールド
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マジカルジョーク

 部屋にあった古テレビは、五年くらい前から調子が悪くなって居間から追い出され、捨てる位ならとわたしがもらった。

 その頃は、わたしはまだ働いていたんだよ。

 小さい編集プロダクションでね、あれで激務によく耐えていたと思う。時には朝まで頑張ってたもんだ。


 うちはオトンがずっと昔に亡くなってて、オカンが女手一人でわたしを育て上げてくれた。

 その恩を返したいという気持ちと、どうせ母子家庭の子という周囲の目が小さい頃からずっと悔しかったのとで、我ながら必死だったんだよ。




 お紅茶がうまい。

 啜っている横では、えんじ色の制服のメイドさんが、生真面目な顔で控えている。

 

 それにしても、だ。

 本当に、一体、なにがどうしてこうなった。


 (昨日の晩は、テレビのリモコンで遊んでいたんだよな……)

 

 ぽちぽちでたらめにリモコンのボタンを押して、画面に一体なにが出るのか、だらだらした気分で遊んだ。

 いつもと違うことと言ったら、それくらいしかないんだよ、本当に。

 ざーっと画面が砂嵐になって、ちょっと焦ってリモコンを操作しているうちに寝ちゃって。


 (なんで砂嵐、直らなかったんだろ)

 

 ざー、ざー、ざー。


 画面から響いてくる陰気な砂嵐の音が、妙に不気味でね。

 なにか出てきそうな気がして余計に焦った。

 (やばい壊したか)


 

 古ぼけたテレビで、オカンはいつでも捨てる気だった。

 だけど、無職の身には貴重なテレビだったんだよ。あれが壊れたら、何を見て過ごしたらいいんだ?


 (もともと電気屋さんで、考えられない位安売りしていた、怪しげなテレビだったもんな……)

 あのテレビを買ったのは八年くらい前。

 そうだよ、わたしが買ってやったんだ、オカンに。

 就職して最初にもらった給料でね。


 「見れりゃあいいよね」

 とか思って、もう残り一個だった、ヤケクソな特売品を買った。

 その時、売り子のお兄ちゃんが、やけに念押し顔でこう言ったっけ。


 「これ、何の保証もできない商品ですよ。いえ、有名メーカーの商品なんですが、ちょっと問題があって、本当は全て引き下げるはずの品なんですが、うちはちょっと手続きが遅れちゃって、処分するために期間限定で特価で販売させていただいてるんです」

 ええ、今日までの特価です。

 売れなかったら、処分するつもりの商品なので、お勧めできませんよ。


 それでも宜しければ、お求めくださいませ。




 


 ああ、あの時分からわたしは向こう見ずでいい加減で、地に足がついていないご都合主義だったんだよな。

 今さえ良けりゃいい、みたいな。


 何の保証もついていない、処分前提の特価品を買うなんて。

 「大丈夫、そう簡単には壊れない。テレビだもん、見れれば問題ないって」

 位に思って、考えられない位安いお値段でそれを買って、オカンにプレゼントした。


 オカン、嬉しそうだったな。

 涙を流して喜んでた。

 「やっとアンタも一人前になった」

 とか言ってさ。



 だけど、テレビはたった3年でおかしくなった。

 何がおかしいと、はっきり言えないけれど、オカンが、このテレビ見ていたら頭がぼうっとしてくると言い出して。


 「なんだろね。画面が何か変なのかもしれない。ちかちかするというか、ぼうっとするというか」

 とにかく、見ていると変になりそうだから、新しいテレビにしようと思うの。

 アンタが買ったやつだから、申し訳ないんだけどさ。



 「いいよ。どうせ、特価品だったんだし。わたしが貰うよ」

 と言って、テレビはわたしのものになり、オカンは自前で新しいテレビを買った。


 古いテレビも、わたしは別に不便を感じなかった。

 (オカン何を言ってたんだろ。贅沢もんが)



 


 あのテレビ、有名メーカーなんだよ。

 引き下げられるほどの問題って、一体なんだったんだろうな。

 えっと、あのメーカーは。

 



 ああそうだ。

 お紅茶の最後のひと口を飲み干してから、わたしは頷く。

 

 「マジカルジョーク社」


 日本だけではなく、全世界でも有名な、一流企業だ。

 今や最新式の技術を誇る家電メーカーである。

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