夏
「なぁ恵梨、自転車で日本1周してこない?」
学校の帰り道いきなり声をかけてきたのは1個上の良平先輩だ。彼は言動からわかる通り頭がおかしい。
そんな彼に、恋心を抱いたもっと頭がおかしいのが、加野恵梨だ。
出会いはそんなに綺麗な話でもなくただ同じ原井沢高校に通っていてただ同じ映画研究部っていうだけだ。
「えぇ?先輩、全く理解が出来ないんですけど!」
「どうよ、興味ない?」
「興味ならありますけど…」(主に先輩に)
「なら行こうぜ!いい映画を作るきっかけになるかもだし!」
「いろいろと質問があるんですけど…」
「質問なら明日聞くよ!それじゃね!」
「えっ?ちょ、せんぱい!行っちゃた...」
太陽はアスファルトを焦がし、蝉の鳴き声が夏の暑さを助長させるいわゆる真夏日というのに元気な先輩はあっという間にいなくなってしまった。
「また、あの先輩ねぇ」
その光景を見ていた、恵梨の友人の悠莉が、呆れた顔で話しかけてきた。
「めぐって凄い美人なのになんであんなモブ男に惚れたの私はわからないわぁ」
と悠莉が言うことはもっともで、恵梨はとても美人で現代のクレオパトラとも言われていた時期もあった。しかし、そのあだ名は恵梨が校内1イケメン男子に告られた時に「ごめんなさい、私良平先輩が好きだから」と断ってイケメン男子を不登校にさせた事件からクレオパトラからイケメン殺しの恵梨様と呼ばれるようになった。また、一部の残念男子達は恵梨様があんな変人男子に惚れるならわんちゃん俺達もいけるんじゃね?と希望を与え、残念男子達を恋の海へと駆り立たせ、高校内にちょっとした大航海時代を築いた事は有名な話だ。
「一緒にいれば悠莉だって先輩の良さにきずくよ」
「まぁ確かに悪い人では、無いとは思うけどね...」
そんな恵梨とは違った方面で有名なのが良平先輩だった。
映画のワンシーンで使いたいがために、校庭に巨大なサークルを石灰で描いて本気でUFOを呼ぼうとしたり、みんなのリアルなリアクションを見たいが為にわざわざテロリストに扮したエキストラ(校長)を授業中投入したりした事がある。そんな映画研究部を廃部にしない学校側はアホなのかと思うかもしれないが廃部したくても出来ない理由が実は合ったりする。
それはとてもシンプルな理由だった。
良平の創る映画は、とても面白いのだ。
ホラー、コメディー、アクション、
どんなジャンルも面白く創れてしまうのだ。
良平はある動画サイトでチャンネルを持っているがそのチャンネル登録者数は世界で3番目を記録している。良平が動画を上げれば必ず急上昇ランキングや、ヤフーニュースにものるほどだ。
そんな良平は高校1年生の時に文化祭で青春映画を限定公開したのだが、口コミで広がり今までの文化祭では有り得ないほど人が来て廃れていた私立高校に、多大な利潤を生み出したのだ。実は恵梨は頭が良いいのに、第一志望の高校を急に偏差値を10ぐらい下げて原井沢高校にした理由は恵梨もその青春映画に今までにない感銘を受けたからだった。
「で、めぐさ本当に日本一周いくの?」
と悠莉は思い出したかのように聞いてきた。
「もちろんだよ!夏休み何も予定なかったし!」
とまるで遠足前の小学生みたいにワクワクを顔に出しながら答えた。
「まぁ、メグの好きな事には躊躇をしない所は本当にいい所だよ」
「ありがとりっちゃん。写真いっぱい送るからね」
そんな雑談を交わしながら2人は蒸し暑い道を帰宅した。
恵梨はシャワーを浴びて疲れと汗を洗い流してスッキリした体でソファーに腰掛けるとすぐに、手元のケータイが鼓動した。
恵梨の予想通り先輩からのメールだった。内容は明日の集合時間と集合場所そして、時間厳守のひと言だった。
(朝の7時に、伏見駅前かぁ)
ちゃんと起きれるか少し不安を抱いて恵梨は眠りについた。