12 恥ずべき行為Ⅳ
「また私が引きつけ役?」
「そうなるかもな」
「嫌だねそんなオンナっぽいこと」
「いや生物学的に言って女だよお前は」
「そうじゃない。女度高くねーよってことだよ馬鹿か」
応接室の扉を開けたら、すぐ横に資料の束が積んであった。テーブルの上には一つのファイルが乗っているだけだ。
そのテーブルを挟んで、茜と海斗が言い合いをしていた。先に深矢と校長の姿に気付いたのは口を曲げた海斗だった。
「おう深矢。資料の絞り込みは終わってるぞ。目当ての情報はそのファイルだけだ」
仕事が早いね、と隣で校長が感嘆のため息を漏らす。
「分かった。で、何を言い合ってたんだ?」
「作戦について。相手が相手だから茜に頼るのが早いと思うんだけどな……」
深矢はファイルを手に取る。開かれたページには任務対象のプロフィールが載っていて、職業欄には『ホストクラブ経営』と書かれている。
……なるほど。
「乗らねぇぞ私は。ホストとか人類で一番女を舐め腐ってる人種だろ。任務終わるまで相手の五体満足を保つ自信がない」
「茜が男気に溢れてることは知ってるよ」
「その言い方も癪だな」
「じゃあどうしろってんだよ」
「店の逃げ口塞いで強行突破。コイツ捕まえて情報の在り処吐かせて消去する」
「やっぱ男気じゃねぇか……」
二人が不毛な言い争いをする中、校長はその様子を見て笑い、深矢は黙々と資料に目を通す。
設楽雄太。三十八歳。ホストクラブの店長であり、同時にクラブも経営している。その実態は、自身が経営する店で情報を集める情報屋。
そして蒼井奏の当たっていた任務というのが、その情報屋が持つ組織に関する情報を消去すること。
つまり海斗は、ホストに茜を潜り込ませ情報の在り処を掴んだ後でそれを消去する、という作戦を考えているのだろう。しかし茜の意地がそれを許してくれない、といった状況だ。
「茜お前がこういう潜入を嫌うのは分かるけどな、相手は情報屋といえども裏の人間だ。蒼井だってコイツに消された可能性もあるんだから、相当ヤバい奴かもしれない。そうなった時に最後の切り札として……」
「口車乗せようったって無駄だから」
説得を試みた海斗の言葉は一刀両断される。そのやり取りに隣で校長が穏やかな笑みを溢した。
「だいたい、ホストが客の女にみすみすとプライバシー晒すとは思えないんだよな。客よりは同業者として接触した方が壁は低いと思う。な、深矢?」
急に話を振られ、資料から視線を上げて曖昧に頷く。そこで口を挟んだのは校長だった。
「蒼井君がこの情報屋によって消されたのかどうか、それで作戦は変わってくるのでは?」
「……危険な奴なら同業者として長期的に潜入するのがいいだろうし、そうでもないなら客として短期的に収める……こういうことですか」
「あぁ。けれども私は短期的な作戦をお勧めするよ」
海斗が眉をひそめたのを余所に、深矢は資料に目を凝らした。気になることがあったのだ。
店の場所はどちらも歌舞伎町。
歌舞伎町にいる情報屋。それは先程校長から聞いた話と酷似している。
「……まさか」
深矢が息を飲んだのを見て、校長はその穏やかな表情を深矢に向けた。
「言ったでしょう?私は知るべきことは隠さない」
――確定だ。
「この情報屋は明日消される。それもSIGの暗殺部隊班によって、ね」
はッ?と海斗が素っ頓狂な声を上げる。
「消されるって……しかも暗殺部隊ってどういう……」
「鷭。君達も聞いたことはあるはずだよ。SIGの構成員で暗殺に特化した者を集めた部隊。なんたって、鷭を指導し鍛えたのは蔵元先生だからね」
それを聞いて、深矢は一層焦りを覚える。
蔵元は青嶋学園の教師だった。それも元凄腕スパイだったと聞いて――いや、実際そうだったのだろう。彼の授業は常に迫真に迫るものがあった。そんな人の育てた暗殺部隊の狙う男が任務対象だとは……
「ついでに口を滑らせると、暗殺計画の舞台はナイトクラブの方だよ」
「暗殺?消される?しかも明日?どうしてそんな話に……」
「詳しくは後で話す。取り敢えず明日が勝負だ」
急に焦り始めた深矢を見て、海斗も茜も押し黙る。しかし深矢は構っていられなかった。
明日、鷭が――そしてアキが設楽を殺すよりも早く、彼から情報を聞き出さねばならない。
でないと、この『頼み事』は失敗だ。




