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スナイプ・ハント  作者: 柚希 ハル
決別編
49/74

49 駆け引き

 

「あはは……そうさ」


 空きビルに連れ込み、拝島を椅子に縛り付けてすぐに聞くと、彼はあっさりと答えた。


「君らの言う通りだよ。秋本深矢、君をあの時気絶させ、先代殺害の罪を着せるよう工作したのは俺だ」


 しかしそれ以外のことは何も答えようとしなかった。


「実際に殺したのもお前か?殺しを指示したのは?SIGの『権力者』ってのは誰なんだ?」


 いくら聞いても、圧力をかけても、ニヤリと笑みを浮かべたまま黙っているだけ。

 拝島は何かに固執しているように、口を閉ざし続けた。

 そうなると、熟練の工作員(スパイ)から情報を聞き出すというのはそう簡単なことではなかった。


 拝島を監禁してからもうすぐ四十八時間が経とうとしている。その顔は立て続けに受けた暴行で歪に赤く腫れ上がっていた。

「……朝だ。一旦休もう」

 深矢の提案に拝島の頭を鷲掴みにしていた茜が乱暴に手を離した。見るも痛ましいその頭が項垂れる。


 拝島が最後の砦。頑固に寡黙を続ける姿にそう感じているのは深矢だけだろうか。


「次は爪だ」

 そう宣告して部屋を出る。隠れ家代わりの古い空きビルの扉を閉めると、埃臭い部屋の真ん中で海斗が真剣な面持ちで腕を組んでいた。

「あいつが爪一枚で吐くとは思えない、となると一枚も十枚も同じことだぞ」

 冷静なその言葉に顔を顰める。

「……何も爪は十枚だけじゃない。手で駄目なら足の爪。それでも吐かないなら指の骨を折っていくまでだ」

「過激だな」


 真実を知るためならどんな事でも厭わない。

 そう決めたから。


 しかし、そう言い聞かせつつも、海斗の言う事が正しいことは感じていた。

 喋る気があるならとっくに話している。拷問をして分かったことは、拝島はカメレオンとは違って協力的でない、ということだけだ。


「あいつを脅せるネタがあればいいんだけどな……」

 海斗の声にも憤りが見え隠れしていた。姉の情報網が使えない今、情報不足に苛ついているらしい。


「……これ以上は無駄かもね」

 フラリ、と海斗の背後から由奈が姿を現した。

「だとしたらどうするんだよ?」

 茜が返り血の付いた手を伸ばしながら視線を深矢に向ける。

 最後の砦が崩せなかったら。その時は――

「……もう少し考える」


 今ここで一歩でも行き急いだら、全てが振り出しに戻ってしまう気がした。まるで今自分達は、双六の「ふりだしにもどる」マス目の手前にいるかのような。

 ……嫌な予感だ。


「見張り、交代するよ」

 重い沈黙を破るように、由奈は部屋に向かって行った。

「みんなは休んでなよ。多分拝島(あいつ)、まだ粘るだろうから」

 ギィ、とドアを軋ませて扉の向こうに消えた由奈に、海斗もやれやれと首を振った。

「……由奈の言う通りだ。焦ったって仕方ないな」


 そして海斗が由奈の後ろについて行こうとした時――深矢のスマホが鳴った。

 非通知である。それを確認して電話を取ると、団長の芝居かかった声が深矢の耳に飛び込んできた。


『やぁ調子はどうだい?知りたい真実は知れたかな?』


 咄嗟に、静かに、と海斗と茜に合図を送る。


「……シフトの相談なら後にしてもらえると助かるんすけど」

『ふむ……やはり手こずっているようだね。ところで手間を取らせるようで悪いのだけれど、店まで来てもらえるかな。急ぎの用事なんだよー』


 仰々しく困った風な声を出す団長。

『あぁ、そこに居るであろう他二人にも伝えてくれるね?』

 当然のように深矢達の動きは見透かされている。


「分かりました」

『頼んだよ』

 観念して返事をし、他二人に向かって肩をすくめた。

「団長のお呼び出しだ。間が悪いな」

「まぁ、由奈に見張りは任せて休憩しようってことでいいんじゃないか?」


 この場を離れることで、何か状況が変わればいいが。

 深矢達は拝島のいる部屋の扉に後ろ髪を引かれながら、団長のもとへ足を向けた。



  ***


「この顔に見覚えはない?」


 茜が扉を開けようとすると、中から淡々とした由奈と絶え絶えの拝島の声が聞こえた。


「……なまえ、は」

「高城……」


「由奈」


 口を挟む形で扉を開ける。

 驚いたように振り向いた由奈の向こうで、拝島の腫れた顔が恐怖に強張るのが見えた。


「……あれ、茜。呼び出しは?」


 由奈の疑問に茜は自分の両手を上げて見せる。


「こんな血だらけで行ったら何事かと思われるからさ」

「そっか、そうだね」

「あとは、個人的に気になったことがあったから」

 そして威圧をかけるよう、あんたさ、と拝島を目の前で見下ろす。


「どうして黙ってる?いくら待ったって、SIGの奴は助けに来ないんだろ」


 拝島を監禁して四十八時間。先日のエージェント暗殺の件では、深矢が査問会に連れて行かれたのはわずか数十分後のことだった。このタイムログには意味があるはずだ。つまり――


「あんたはSIGに見捨てられたんだ。ここに助けは来ないし、逃げる場所もあんたには無い。そうだろ」


 拝島は答えない。

 それがただの意地なのか、それともまだ何か救いがあるのか、茜には判断できない。


「話せばあんたは五体満足で解放されて、好きなように生きていけるはず。黙ってたって何の得もしないってのに、話さないのはあれか?SIGの『権力者』って奴がいるからか?」


 詰め寄ると、拝島が微かな声で「そうだな」と呟くのが聞き取れた。


「確かに俺は捨て駒らしい……けど、ヌルい頭は君もだろう……」


 バカにされたようで、思わず眉を顰める。同時に痣だらけの顔でククク、と笑われた。間違いなく、バカにしているのだ。この圧倒的不利な状況下で。


「……身近な奴の異変にも気付きやしない」

「あ?何だって?」

「そうか、地獄の使いか……俺は餌……前から決まって……」

 気が触れたのだろうか。誰に話す訳でもなく独り言をブツブツ呟いている。


 茜はそれに不穏な様子を感じ、一歩身を引いた――その途端。


「離れて!」


 火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか、拝島が縛りつけてある椅子ごと、噛み付かんばかりの勢いで前方に飛んだのだ。

 そこは今の今まで茜の腕があった場所だった。

 ……こいつ。


 茜が反射的にいきり立って睨むと、拝島は倒れ込んだ床から茜を睨み上げ、ニヤリと笑いながらペッと何かを吐き出した。

 一本の釘だった。どこで仕込んだのか――あれで噛み付かれていたら相当な痛手だ。


「てめぇ……五体満足のままじゃ物足りないみたいだな……!」


 いくら反撃を試みようと、拝島の状況不利は変わらない。

 情けは無用と再確認し、茜はその顔面を思い切り蹴飛ばした。拝島がむせ、歯のかけらのような白い物が吐き出される。もう一度蹴ると、拝島は意識を失ったようでむせることもしなくなった。


「……茜、やり過ぎ」

 他に何か仕込んでないかを確認していると、由奈が汚い物を見るような目で拝島を見下ろしながら言った。

「腕は曲げるし歯は折るし……顎の骨やってたら喋れないじゃん」

「挑発したこいつが悪い」

「そうかもしれないけどさ……」


 拝島が武器を隠し持っていないことを確認し、時間を確認する。

 少し急がなければ。


「由奈。気を付けろよ」

 由奈が神妙な面持ちで頷いた。

 拝島にはまだ何かある。そう感じるのは由奈も同じらしい。


 ふふっと由奈は緊張を和らげるように笑った。


「早く行った方がいいよ。私は大丈夫。茜みたいに力尽くにはしないから」

「……そんな軽口叩けるんなら大丈夫だな」

「早く行きなよ。留守番は任せて」


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