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スナイプ・ハント  作者: 柚希 ハル
決別編
36/74

36 足りないピースⅢ

 

「そー……れでさぁ、海斗クン?」


 安藤が朱本の出て行った扉を横目に見ながら海斗に声掛けた。

「あんな啖呵切ったはいいけど実際大丈夫なの?」


 頭を抱えながらブツクサ言っていた海斗は、徐に頭を上げた。姉が戻ってくるという情報は余程精神的にきていたらしい。


「何とかはなりますよ……ただ、完璧な見通しを立てるには少し要素(ピース)が足りてない」

「何だよ、調子付いてこんなことしてんだからてっきり全部見えてんのかと思った」

 茜は作業机の上に整列された様々な資料を見ながら毒吐いた。

 すると海斗は小さく苦笑し、顎に手を当てて考える体勢に入った。

「作戦の大枠を変える必要はないんだ。メディアの報道力を借りて、TCCが武器取引をする余裕なんてなくなるほどに地位や評判を落とし、世間の注目だけは集めさせればいい。問題はそれを引き起こすための引き金なんだよな……」

「きっかけ、ね」

 おそらく、それを探しにもう一度本社へ侵入するのは現実的ではない。

 ということは――

 茜と海斗が安藤に視線を向けたのは同時だった。


「……え?なになに?そんな注目されても困るなぁ……あはは」

 安藤は困惑したように顔の前で大袈裟に手を振った。

「安藤さん、何でもいいです。何か、世間的に見つかったらヤバいものはありませんか」

「世間的にヤバいもの?う、うーん……何だろう……」

「例えば……出所不明の大金とか、犯人不明の詐欺事件とか、薬物輸入とか……」


 うーん、と唸っていた安藤が、閃いたように人差し指をピンと立てた。

「香港の友達が最近大麻育てるのにハマってるらしい」

「それだ!」

 海斗が指を鳴らす。

「それ、日本にどうにか送ってもらうことってできませんか?」

「送るも何も、日本で勝手に市場開拓し始めようとしたから没収したよ。倉庫に保管してあったはずだけど……ほんっと、ロクなことしないんだよああいう人間て」

「これであとはTCCの人間に対して偽装すればいい……だけどそれを三日以内で片付けるには……」

 海斗の表情は険しい。

 確かに徹底的な偽装を施すには人手が足りない。だからと言って、こればかりは安藤に手伝わせるわけにもいかない。


「姉貴の『そろそろ』戻ってくる、ってのが間に合うなら頼めるけどな……いやでもあの様子じゃあと数週間はかかりそうだし、深矢を引っ張り出せればベストだが……」

「あいつは?科学技術部の……」

 茜が青嶋の同期で本部勤めになった(と聞いた)輩を片っ端から挙げようとした時、不意に扉の方から声がした。


「わざわざ科学技術部なんて行かなくても、工作本部に誰か忘れてませんか?」


 聞き覚えのある声。気配の消し方。

 まさかと思った。

 咄嗟に振り向き、その姿を確かめる。


「……ッ、何で?!」

 海斗が予想外の出来事に驚き、ガタンッと音を立てて腰を浮かせる。


 茜と海斗の驚いた様子に、その人物は小さく笑った。

「びっくりした?けどぴったりでしょ」

 笑った拍子に肩より長めの髪が揺れる――紛れも無く、そこに立っていたのは由奈だった。


 卒業試験以来姿を消し、梟への推薦からも何故か漏れていた、あの高城由奈だ。


「……由奈、あんた今まで何してたんだよ?」

 茜がまじまじと尋ねた隣で、安藤が「え!由奈ってあのピエール達が言ってた高城由奈ちゃんッ?」と遅れて驚いた。


 由奈はそんな安藤に小さく会釈してから、茜に向かって苦笑した。

「何かよく分かんないけど、手続きに手間取っちゃってた。けどやっと工作本部に所属することになったんだ。だから……」


 いくらでも手伝うよ。今任務もないし。


 そういたずらっぽい笑みを浮かべる由奈は、作業机に近付いて机上の資料を眺めた。

「深矢を引っ張り出すんだよね。任せてよ」

 ここが深矢の家?本部から近いんだね。

 地図を手に取りながら由奈が呟く。


 それを見る海斗が、目を見開いたままストンと椅子に腰を下ろした。その口角が徐々に引き上がっていく。

「あ……はは。これはいいぞ」

 海斗の視線は茜や由奈の方を向いている。だがその目は遥か遠くを見ているようだった。

「……全部見えた」

 そう呟いてから、ちょっと行ってくる、と海斗は急いで事務室から出て行った。


「あれ、どうしたの?大丈夫?」

 きょとんとする安藤が茜と由奈を交互に見やる。対して茜は力を抜いて背もたれにもたれかかった。


「大丈夫ですよ……あいつがあの目をしてる時は、全てのことがうまくいくから」


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