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スナイプ・ハント  作者: 柚希 ハル
決別編
30/74

30 考えの浅い愚か者Ⅱ

 



 次の日、都内でトラックの横転事故が『起きた。』

 トラックから漏れ出たガソリンが引火し、下敷きになった通行人は全身火傷を負ったという。

 その通行人は、持ち物から奥本圭と判明した――


  ***


 その日は久々に、あの日の夢を見た。

 夢というには現実的で、昔にタイムリープしているような感覚の夢だ。

 あれが起きたのはちょうど今と同じような時期で、でも今と違って、自分には何でもできると思い込んでいた。

 自分には才能があって、他の人間とは違う生き方をしていると。


 そんな青二才な頃の、過信が崩れる瞬間の夢。


 気付くと小さなホールに深矢はいて、暗い観客席から舞台を見上げていた。

 隣を見ると、同じように無心に舞台の一点を見つめる由奈がいた。

 深矢の視線に気付いた由奈が、ん?と小さく首を傾げる。

 何でもない、と頭を横に振って視線を戻す。


 照明に照らされた舞台の上では、壮年の男が一人マイクを持って淡々と話している。

 前代の大学長(ボス)だった。


 警備の任務は退屈なものだ。特に講演中の人の動きが目立つ空間では。

 ただでさえこのホールの出入り口にはそれぞれ警備員が待機しているし、舞台袖にはスタッフに紛れてプロの工作員(スパイ)が数人待機している。深矢達と同じように聴衆に紛れているのも数人いるはずだ。


 こんな中で何かが起きる訳がない。

 初めてフィールドワークとして組織の任務に就くと聞いて期待していたのに。

 なんて簡単で退屈な任務なんだろう。


 目を細めるとともに視線を落とす。

 その視線を上げると場面が変わっていて、赤い絨毯の敷かれた廊下にいた。


 隣に由奈はおらず、一人でどこかに向かって歩いていた。

 急いでるわけでもなく、暇つぶしに歩いているわけでもなく。

 どこに向かおうとしていたんだっけ。

 とにかく、任務中の単独行動はよくない。

 そう思い、由奈がいるところに戻ろうと振り返る。


 すると突然、首筋に衝撃が走った。

 何かは分からない。誰かも分からない。

 だが瞼の裏にフラッシュのような火花が散って、

 世界が真っ暗になった。


 次に目を覚ますとまた場面が変わっていて、

 深矢は冷たいコンクリートの上に俯せになっていた。

 右手に違和感を覚え、見ると何故か拳銃を握っていた。

 自分のではない。


 そして前に頭を上げると、男が一人同じように横たわっていた――大学長(ボス)だ。

 その体からは、赤い液体が流れ出ていた。血だ。

 状況が何かを物語っていた。

 この拳銃は、大学長(ボス)を撃ったものだ。

 でもどうして俺が持っている?


 気付くと周りは黒い人影に囲まれていて、言葉のない雰囲気に圧迫された。

 何を言っても通じない。むしろ何も言わせてくれない。

 迫る人影の中から一人が出てきて、深矢を冷たく見下ろし、何か言葉を発する。

 いつもはそれが聞き取れないのだが、その日は聞き取れた。


「――事故処理班だ。お前が犯人だな」


 そこからはいつもの悪夢に戻った。

 違う、と叫んだが届かない。

 それどころか急速に地面に吸い込まれるような感覚に襲われ、蟻地獄のように深矢の身体は沈んでいく。

 周囲の人影が遠のいていく。


 不意にその中に由奈の姿が見えた。

 由奈だけではない。海斗や茜の姿もある。

 手を伸ばすも身体はみるみるうちに沈み、反対に由奈達は遠くに消えていく。


 全てが呑まれた時、周りは暗闇に覆われ、深矢は独りになっていた。



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