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スナイプ・ハント  作者: 柚希 ハル
決別編
25/74

25 お前を助ける余裕くらいある

 

「来ないかと思った」


 待ち合わせ場所である港近くの公園に着くと、遊具の陰から茜が姿を現した。黒に統一された服装は夜の暗がりにお似合いだ。


「せっかく査問が終わったんだ。こんなイベントに来ないでどうする?」


 対する深矢も夜の闇に紛れるように黒い服装に身を包んでいた。いつも仕事をする時と同じ格好だ。

 貿易会社TCCの本社に潜入する――人様のプライベートを盗み取るにはいい夜だった。


 茜が手に持っていたインカムを投げて寄越した。

「あいつは先に行って待機してる」

「……ずいぶんと古い機種だな」

「構成員じゃないから正規ルートじゃ手に入らないんだと」

『科学技術部に行った同期……林って覚えてるか?あいつに頼んだんだ……茜、』


 耳に着けるなり海斗の声が聞こえた。茜と呼んだ声は昨日のことを気にして少し不安そうだった。

 んだよ、と茜がぶっきらぼうに応える。

 その反応に海斗は安心したようだった。

『いや、何でもない』

「用無いなら切るぞ」

 返事が来る前に茜は通信を切った。


 そんじゃあ行くか、と茜は意味あり気に笑って見せた。

「お手並み拝見といこう」

「お手柔らかに頼み……」

 深矢がそう答えようとした瞬間だった。


 視界を見慣れたシルエットが横切った。

 深矢はその長身に目を疑い――咄嗟に近くの遊具に身を隠す。


「……あれ、友達じゃん。奥本圭だっけ」


 公園の外を圭が下を向いて歩いていた。

 その表情はどこか思いつめたようなもので、いつもの明るい圭とは様子が違う。

 圭は突然足を止めたかと思うと、何かにすがるようにケータイを取り出した。


「あいつ何してんだ」


 深矢の疑問に答えるようにポケットの中でケータイが震える。

『よっち、今ひま?』と短く書かれたメールに、どこか切実さを感じた。


「何か知らないけど、気付かれる前に行くぞ」


 茜がその文面を見て呆れたように言い、圭のいる反対側へと歩き出す。

 あぁ、と深矢は返しながらケータイをしまった。返信するわけにもいかなかった。


 大学の友達と飲んだ帰りだろうか。

 でもどうしてこんな家からも大学からも遠い場所を、こんな夜更けに一人で歩いてるんだ?


 深矢は圭の物憂気な様子に後ろ髪を引かれながらTCC本社へと向かうのだった。



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