25 お前を助ける余裕くらいある
「来ないかと思った」
待ち合わせ場所である港近くの公園に着くと、遊具の陰から茜が姿を現した。黒に統一された服装は夜の暗がりにお似合いだ。
「せっかく査問が終わったんだ。こんなイベントに来ないでどうする?」
対する深矢も夜の闇に紛れるように黒い服装に身を包んでいた。いつも仕事をする時と同じ格好だ。
貿易会社TCCの本社に潜入する――人様のプライベートを盗み取るにはいい夜だった。
茜が手に持っていたインカムを投げて寄越した。
「あいつは先に行って待機してる」
「……ずいぶんと古い機種だな」
「構成員じゃないから正規ルートじゃ手に入らないんだと」
『科学技術部に行った同期……林って覚えてるか?あいつに頼んだんだ……茜、』
耳に着けるなり海斗の声が聞こえた。茜と呼んだ声は昨日のことを気にして少し不安そうだった。
んだよ、と茜がぶっきらぼうに応える。
その反応に海斗は安心したようだった。
『いや、何でもない』
「用無いなら切るぞ」
返事が来る前に茜は通信を切った。
そんじゃあ行くか、と茜は意味あり気に笑って見せた。
「お手並み拝見といこう」
「お手柔らかに頼み……」
深矢がそう答えようとした瞬間だった。
視界を見慣れたシルエットが横切った。
深矢はその長身に目を疑い――咄嗟に近くの遊具に身を隠す。
「……あれ、友達じゃん。奥本圭だっけ」
公園の外を圭が下を向いて歩いていた。
その表情はどこか思いつめたようなもので、いつもの明るい圭とは様子が違う。
圭は突然足を止めたかと思うと、何かにすがるようにケータイを取り出した。
「あいつ何してんだ」
深矢の疑問に答えるようにポケットの中でケータイが震える。
『よっち、今ひま?』と短く書かれたメールに、どこか切実さを感じた。
「何か知らないけど、気付かれる前に行くぞ」
茜がその文面を見て呆れたように言い、圭のいる反対側へと歩き出す。
あぁ、と深矢は返しながらケータイをしまった。返信するわけにもいかなかった。
大学の友達と飲んだ帰りだろうか。
でもどうしてこんな家からも大学からも遠い場所を、こんな夜更けに一人で歩いてるんだ?
深矢は圭の物憂気な様子に後ろ髪を引かれながらTCC本社へと向かうのだった。




