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その歌声は

作者: セロリア

夏。




小学校。



3学年。



?1「ブサイクちゃん」




?2「止めてよ」



?3「はあい、ブサイクちゃあん」



?2「やめてってば」



?4「ブサイクちゃんが怒った怒ったあ」



?5「デブでブッサイクなバケモンが怒ったあ!きゃはは」



?6「何であんた学校来るのお?来なきゃいいのにい」



?7「酷いよ皆~、ブサイクはブサイクなりに一生懸命生きてるんだよ?いくら見た目が気持ち悪くて、ゲロ顔で、最悪で、化物だからって~」



?8「きゃはは、フォローしてんじゃん!逆の意味で、きゃははは」



?7「あらあ、ごめんなさあい?」



?1、3~7『きゃははははははは』




?2「・・うわあああん、うわあああん」




誰も。




誰もが敵だ。




味方なんていない。






帰り道。





散歩中の犬に吠えられ、飼い主が見る。




軽く悲鳴を飲み込み、そそくさと吠えまくる犬を引き連れ、立ち去る。








ボロい団地に帰宅。




〈ガチャン〉




?2「ただいま・・」





誰も居ない。





母親は3つの仕事を掛け持ちしている。




今日も遅くなるとホワイトボードに書いてある。




冷蔵庫、戸棚を探り、ジュースと、パン、お菓子を取り出し、食べる。




母親はデブでブサイクだ。




父親は知らない。




遺伝だと面と向かって母親に言われた。




{母親「ごめんね、諦めて頂戴・・、お母さんも、辛いの我慢してるんだからね?」}




?2「・・」



テレビをつける。




何も面白いモノは・・やってないようだ。




?2「・・はあ・・」



今度はラジオをつけた。




ラジオ〈ザザ・・ザ・・キューーー・・ザザザ・・ザ・・♪~~~~~~~~~~〉



洋楽が流れていた。




?2「・・ふんふん・・ふ~ん♪・・は~~ん♪・・ん~~~~♪」




鼻歌を曲に合わせ、口ずさむ。




?2「んん~~~~♪・・・・・・はあ・・」




終わったようだ。





?2「・・」




カバンから、簡単スマホを取り出す。




ネットは出来ない。




?2「・・はあ・・」




軽くスマホをカバンの上に投げる。




?2「楽譜でも・・書こう・・さっきの曲・・適当に書いてみよう」




横線のみの120円のノートに定規で線を足していく。



さっきの曲を思いだしながら・・書き出していく。




?2「ふ~~ん♪・・んん~~~♪・・ここで・・こう・・んで?・・んで・・んふ~~~ん、んふふ~ん・・こう・・で・・こう・・」




母親は今日も帰って来ない。




いつも学校時間に帰ってくるからハチ会わないのだ。




母親とはすれ違いの日々。




鼻歌を口ずさみながら・・楽譜を書く・・唯一の遊びだ。




夜19時。




?2「あ・・もうこんな時間・・ご飯・・」




冷凍庫から冷凍食品を取り出し、電子レンジで温める。




その間に冷蔵庫からパックご飯を取り出す。



母親が作って置いておいてくれている。




おかずが〈チン〉温め終わった。




今度はご飯。




待ってる間も口ずさむ。




〈チン〉




コンセントを抜く。




?2「頂きます」




一人。




食べる。




〈コト・・チャ・・コト・・チャ・・〉




一人・・食べる。





?2「ふん・・ふ~ん、ふえええん・・グス・・ひっぐ・・」




しばらく泣いて・・。




?2「ふ~~ん♪んん~~~♪」




また口ずさむ。




翌朝。





また学校でいじめられる。




昼休み。




〈バッシャアアア・・ビチャチャ・・〉


今度は水をバケツでかけられた。




?2「・・」




皆『帰れよ!化けもんが!・・帰れ、帰れ、帰れ、帰れ、帰れ、帰れ、帰れ、帰れ、帰れ、帰れ、帰れ』




?2「・・」〈ダ!〉




走った。





走った。




走って走って・・。




川についた。




?2「ひっぐ・・ひっぐ・・ひっぐ・・ひっぐ・・」




近所の人達総出で探された。




翌日。



いじめは問題になり、保護者達、クラスメイト達から一斉に謝られた。




あんなに怒った母親は見たことがなかった。




諦めろと言った人物とは思えなかった。




それからは逆に、腫れ物を触るかの様に扱われた。




無視されるようになったが・・ありがたかった。




何かあったらここに書きなさいと少し大きいホワイトボードを買ってくれた。




川で一人で口ずさんでいると・・知らない同じ歳くらいの男の子が犬の散歩で通りかかった。




どうせ気持ち悪がられると鼻歌を止める。




そのまま通り過ぎていった。




また口ずさむ。





翌日もまた男の子が通りがかる。





また止める。





3日目。





また川で口ずさんでいると・・。




また男の子が通りかかる。




また止める。





?2「・・?」




待っても・・通り過ぎる気配がない。




?2「(何?さっさと通り過ぎてよ)」




男の子「なあ・・お前さ・・」




?2「・・」



反射で下を向く。




男の子「?おい?・・お前だよ・・お前!おいったら!」




肩を掴まれ、揺さぶられる。




?2「嫌!」




振り払い、駆ける。




男の子「あ!おい!」




追いかけない。




男の子「何だよ・・ん?・・あ・・これ・・」




兎のキーホルダー付きの鍵だ。




男の子「お~・・い・・駄目だ・・行っちゃった・・どうすっかな・・」





?2「?やだ・・鍵・・ない・・う~~・・も~やだあ・・う”う”」



暫く泣いて・・歩き出す。




また川に来た。




あの少年がまだ居た。




?2「(げ・・まだ居るし・・)」




白い小さい犬が吠える。




少年「あ・・おいお前!」




?2「ひ・・」 




また駆け出してー。





少年「待てって!」



追いかけてくる。



すぐに追いつかれた。




?2「ヤダヤダあ!離してえ!離してえ!」




少年「鍵!」




?2「・・へ?」




少年「すぐ戻ってくると思って待ってたんだ・・感謝しろよな!・・ほら」




ポケットから鍵を取り出した。




犬「キャンキャンハッハッハッハッハ・・」




?2「あ・・その・・あ・・ありがと・・」




下を向いたままお礼を言う。



髪の毛で顔は見えない。




少年「・・お前さ・・その・・お前の歌声さ・・綺麗だよな!へへ!」




?2「!?!?!?」




少年「んじゃな!明日もここに来いよな!じゃあな!」




行ってしまう。



?2「あ・・」




顔をあげようとしたが・・反射で下を向く。




その日の夜。





?2「ふんふ~~~ん♪んふふ~~~ん♪」





上機嫌だ。




人に聞かせたことのない自分の歌声。




褒められたことなんて・・ない。




それが・・初めて褒められた。




嬉しかった。





けれどー・・。





?2「・・はあ・・どうせ・・私の顔見たら・・がっかりするに決まってる」





最終的に激しく落ち込み・・寝床についた。





翌朝。




いつもの学校生活。




帰り道。




川か・・家か・・岐路に立つ。




?2「・・」




家を選んだ。





その日は・・鼻歌は歌わなかった。





翌日。




また岐路。





家を選んだ。





また歌わなかった。





翌日、土曜日。




母親とは土曜日の午後に会える。





まだ9時だ。




?2「今日は・・大丈夫かな・・」




川に向かった。




誰も居ない。




?2「ふんふ~~ん♪」




口ずさみながら降りて行く。




暫く歌っていたらー・・。




少年「ふんふ~ん♪」




離れた位置に立ち、同じ曲を歌ってきた。




?2「!?!?」





少年「・・よ!」




?2「なんか用?」



下を向きながら質問。




少年「・・いや・・別に・・用はないんだけど・・さ・・」




?2「だったら付きまとわないで!放っておいて!う”う”~~」




体育座りで頭を抱える。




少年「お・・おい?・・何だよ・・俺・・何かした?」




?2「う”う”~~」




少年「・・なあって・・ったく・・めそめそすんなよな・・」




?2「うふぇええええ、え”え”え”え”ん”、ひっぐひっぐひっぐ」




少年「何だよ!言いたい事あんだったら言ってくれなきゃ分かんねえよ!」




?2「どうせ・・ひっぐ・・どうせ化物だもん・・ひっぐ・・嫌われるもんえ”え”え”あ”あ”あ”」




少年「・・はあ?・・何言ってんだ?・・意味わかんね」



顔を見ようとする。




?2「!?嫌!止めて!止めてよ!」




少年「いいから!見せろ!」




?2「やだやだやだやだやだああ!!」




少年「いいから!おわ!暴れんな!川に落ちるだろうが!」




?2「やだやだやだあ!」〈ドン!〉



〈バッシャアアアアアアン〉



少年は突き飛ばされ、川に落ちた。




?2「あ!」




少年「・・てんめえ・・はあ・・ったく・・」




何事もなかったかのように上がってくる。




?2「あ・・あの・・ご・・ごめん」




少年「はあ・・いいよ・・別に・・」




?2「でも・・」




少年「いいって」



2人土手に上がる。





少年「はあ・・暑いし・・丁度いいわ・・はは」




?2「・・」




少年「お前さ・・さっきちらって見たけど・・めっさブスだな」




?2「!?・・う”う”」




少年「でもさ声は綺麗じゃん」




?2「う”・・・・え”?」




少年「俺・・お前の歌・・凄い上手だと思うんだ!へへ!」




?2「・・」




少年「気にすんなって!顔は・・その・・整形?すりゃいいじゃん?」




?2「・・」




少年「・・な?・・へへ」




?2「何・・それ」




少年「ん?」




?2「勝手な事言わないでよ!」




少年「・・あ・・ごめん・・」




?2「・・」〈ダ!〉




少年「あ!」




走った。





〈ガチャガチャ・・バタン!〉




家に帰宅。





?2「もう最悪!なんなのアイツ!人の気も知らないで!最っ低!」




炭酸ジュース一気飲み。




?2「ぷっは!はあ、はあ、はあ、はあ・・ふふ・・ふふ・・あ”~~~まじ最っ低!!・・ふふ」





怒ってるのか・・嬉しいのか・・分からなかった。





お昼過ぎ。




母親「ただいまあ琴音~?いる~?」




?2琴音「いる~」




母親「お昼食べたあ?」




琴音「まだあ」




母親「・・な~に~?何か機嫌いいじゃない?何かあった?」




琴音「〈ムッカ〉何にもない!」




母親「・・あっそ!アイス要らないのね?」




琴音「・・要らない」




母親「〈ピタ〉・・え?・・要らない?」




琴音「・・うん」




母親「え?どしたの?要らないの?本当に?」




琴音「要らない」




母親「ちょ・・ちょっと・・どうしたの?具合でも悪いの?」




琴音「ううん・・ただ・・要らないの」




母親「分かった!もう、またいじめなのね!待ってな!あ母さんがー」




琴音「違うの!」




母親「え・・」




琴音「違うの・・」




母親「・・じゃあ何?」




琴音「・・何でもないの・・ほんとなの」




母親「・・」



目の前に座る。



琴音「・・」




見つめ合う。




母親「本当に?」




琴音「・・ん」




母親「・・そっか・・」




琴音「ん」




母親「そっか・・じゃあ・・お昼・・何食べたい?」



立ち上がる。



琴音「お野菜」




母親「ぶ!?・・お・・お野菜~?」




琴音「駄目?」




母親「い・・いやあ・・駄目じゃないけど・・一体どうしたの?あんた変よ?」




琴音「いいじゃん」




母親「・・はっは~ん・・」




琴音「な・・なに?」




母親「いいえ~?何にも~?」




琴音「・・違うからね!」




母親「え~え~そうですとも」




琴音「違うったら!」




母親「はいはい」




琴音「もう!本当に違うったらあ!」







明後日。




担任「音楽発表会がありますよ~、皆一生懸命歌ってね!」




クラスメイト『ざわざわざわ』




琴音「・・」



曲名は担任が勝手に決め、音階パートを決める為に、一人一人歌う事になった。





担任「じゃあ・・一人一人歌って貰います!、はいコッチから順にね!」




クラスメート『「くすくす」「やだあ」「あたし自信な~い」「あたしも~」』



琴音「・・」




担任「はい、さんはい!」




1番目「明日の~♪」




琴音「・・(え・・下っ手!)」



皆『「なかなか上手ね」「うん」「うま~い」「やだあたし自信な~い」』




琴音「(ええええ!?あれが?上手いの?あれが?)」



初めて他人の身近な人の歌声を聞いた。



驚いた。




ラジオから聞こえてくるあの甘美なメロディーとは程遠い醜い音。




そんな音が皆は上手だと言うのだ。




2番目「明日の~♪」




琴音「(うっわ!下手!さっきよりは・・マシだけど・・)」




皆『「うわあ」「上手~」「上手だね~」「どうしよ~」「緊張してきた~」「次の人可哀想~」』




琴音「(ええええええええええええええ!?嘘でしょ?あれでそんな評価なの?本当に?嘘でしょ?)」




3番目「明日の~♪」



琴音「(あ・・やっと聞ける・・けど・・所々ずれてる・・)」



皆『「やっば!」「上手~」「すっご~い」「綺麗な声~」』




琴音「(いや・・そこまでじゃないでしょ・・裏返ってるし・・)」




回って回って・・順番が来た。




担任「はいじゃあ吉川琴音さん」




1「せんせ~い、吉川さんは~最後がいいそうで~す」



担任「え?」



3「そうなんです、なんか~今は緊張しちゃってて~」




琴音「・・」




4「んね~」




5「最期がいいんだもんね~」



琴音「・・」




担任「そう・・分かったわ・・じゃあ飛ばして・・夜宮さんお願いね?さんはい!」




全員歌い終わった。



最期。




担任「じゃあ・・吉川さん・・いいかしら?」




1「ばっちぐーだそうで~す」




3「頑張って~」




4「応援してま~す」




5「ファイト~」





担任「はいはい皆!静かに!はい・・いい?吉川さん?」




琴音「はい」




担任「じゃあ・・さんはい!」




琴音「スウーーー・・明日の~♪」




その瞬間。




皆『「嘘」「マジ?」「・・」「やっば」「マジ?」「ホント?」「ええ~」「嘘~?」』




最初暫くはざわざわしていた生徒達も・・徐々に・・徐々に・・引き込まれていく。





担任は驚き・・口を開けている。








琴音の歌声を聞きたいと・・本能が口を黙らせる。











琴音「それでもそんな日々でさえ~♪賢く生きて行く~♪貴方は~、こんな私を~どう思うのでしょう~♪」










歌詞が・・マッチしていた。




虐げられ・・理不尽さで大切な人を失った事を歌った歌詞。




透き通った声。



スウーーーと体に入ってくる音達。




作詞者の意志がダイレクトに脳みそに直撃していく。






















琴音「そんな~~今日でさえ~~明日はやってくる~~♪、明日も~~私はあなたを~時々忘れ~仕事をするのでしょう~♪」







担任「・・」泣いていた。




生徒達も・・泣いていた。








琴音「ら~ら~ら~~~♪・・・・はあ・・」






教科書から目を外すと皆泣いていた。






琴音「(え?え?何?何で?え?ええ?何で泣いてんの?)」






担任「・・」





担任が琴音の方へ歩いて来る。




琴音「え?え?」




担任「・・」〈ガ!〉



姿勢を低くし、両肩を掴まれた。



琴音「ひ」




担任「吉川琴音さん」





琴音「は・・はい」




担任「貴女は・・歌手になりなさい」





琴音「え・・」




担任「顔は問題ではありません・・感動しました・・貴女の歌声は・・天使のソレです・・本当に・・魂から揺さぶられました・・感動を・・有難う」




〈ギュウウウ〉


いきなり抱きしめられた。




琴音「!?!?!?」




?1「・・〈パチ・・パチパチパチ〉」




?2「・・〈パチパチパチパチ〉」




皆《パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ》





琴音「・・(えええええええええ!?何?人ってこんなに簡単なの?なんなの?今までさんざん馬鹿にしてきた癖に・・なんなの?)」




皆『わあああああああ《パチパチパチパチパチパチパチ》』





戸惑いながらも・・照れて・・顔を上げれなかった。





その後・・何人かが話しかけてきた。




歌声の秘訣やら、音程のとりかた等を教えて欲しいとの事だったが・・いつの間にか出来ていた事だった為・・よく分からなかった。




それから一緒のパートになりたいと、何人か選ばれ、一番前で歌う事になってしまった。




そして・・あろう事か・・担任の独断で、なんとソロで歌う場面を設けられた。




これには流石に反対した。




担任が一人になった所に講義した。






が。







担任「貴女の歌声をもっと色んな人に知って貰いたいの・・ね?頑張って!」





取り付く島もなかった。






練習が開始された。




全校生徒が各教室で練習している。





そんな中・・やはり・・噂は広がる。




その噂を聞いてまた3年C組に人が集まる。




そんな時は・・琴音はどうしても声がこもる。





担任「琴音!また!声が小さい!恥ずかしがらない!はっきり歌いなさい!自信持ちなさい!」





琴音「でも・・」





担任「でもじゃない!」




琴音「ひう」





担任「もう一回始めから!琴音がしっかり歌うまで皆帰れないよ!」




皆『えええええ」




担任「琴音!」





琴音「ひゃい」





担任「皆の為に・・歌いなさい・・貴女の声で・・聴きに来てる人達がいい気持ちで帰れるようにしてあげて?」




琴音「・・」




担任「・・さあ・・行くわよ!さんはい!」




皆『明日の~♪』





一際目立つ姿。




ギャップがありすぎる声。




生徒達はSNSに次々投稿。




瞬く間に反響を呼び、翌朝にはニュースになった。







琴音は一人ニュースを見ていた。




アナウンサー「いやあ・・素晴らしい歌声ですね・・将来が楽しみです」




琴音「なにこれ・・やばい・・どうしよう・・どうしよう・・」





〈ガチャン、チャガチャ、バッタン、ダダダダ・・〉




母親「・・琴音!」




琴音「お母さん・・う・・う”う”う”おがあざあ”あ”あ”」





母親「はあ・・もう~・・ニュース見てすっ飛んで来たんだよおお、大変な騒ぎになってるねえ」





琴音「おかあさああん、どおおしよおおお」





母親「どうしようもないよ・・音楽発表・・近いんだろ?」





琴音「明後日・・」





母親「もういっそ・・このままスターになっちゃいな!」




琴音「でもおお」




母親「他に道はないよ!」




琴音「ひっぐ」





母親「やっぱりブサイクは意気地なしって思われるよ?」




琴音「う・・う”う”う”」




母親「あんたが世界を変えとくれ」




琴音「・・」




母親「ブサイクな人間でも・・こんなにできるって・・見しとくれよお」




琴音「・・」





母親「あんたは・・もう・・ブサイクの人達のスターになっちまったんだよお!」





琴音「・・う・・」




母親「出来るって・・言っとくれ」




見つめる。




琴音「出来ない出来ない出来ないいい」





母親「琴音!」




琴音「できっこない、出来ないいい」




母親「琴音・・出来るだろ?本当は出来るだろ?」




琴音「出来ない出来ない出来ないいい」




母親「・・琴音」



顔をしっかり持たれた。



琴音「グス・・」




母親「綺麗な声でいつも鼻歌歌ってたじゃないか・・大丈夫・・お母さん・・いつも聞き惚れてたんだから」



琴音「本当?」





母親「本当よ・・だから・・お願い・・出来るって言って・・お願い」




琴音「・・グス・・」




母親「・・」




琴音「・・」





母親「・・」





琴音「・・グス・・はああ・・・・・・・・・・うん」





母親「頑張れ!」




〈ガバア、ギュウウウウウウ〉





琴音「うん・・」







発表会前日。





川か、家かの岐路。





琴音「・・」




川の方へ。





少年は居なかった。





川辺に座り、暫く魚を眺める。





葉っぱを千切り・・流す。





少年「よ!」




犬「キャンキャンハッハッハッハッハッハ」




犬が駆け寄って、顔を舐めてくる。





琴音「ちょ・・やめて・・もう・・あははははくすぐったあははは」






少年「看板見たよ・・明日なんだって?」





琴音「・・ん」





少年「俺・・別の小学校だから・・見に行けないけど・・頑張れよ」





琴音「・・うん」





少年「・・なあ・・お前・・名前は?」





琴音「・・吉川琴音」





少年「吉川琴音・・はは・・俺は神崎駿 (かんざきしゅん)宜しくな!」




握手を求める。




琴音「・・・・よよろしく・・」




服で右手を拭き、握手。






少年「なあ・・琴音・・今歌ってよ」





琴音「(ええええ呼び捨て・・)えっと・・嫌」




少年「何だよケチ、いいじゃん、軽くぱぱっとでいいからさ、それとも何か?一人の前で照れてて大勢の前で歌えんのかよ?」




琴音「・・」





少年「・・なあって・・いいじゃん」





琴音「・・分かった・・じゃあ・・少し・・少しだけね?」





少年「お、おう!」





琴音「・・スウウ・・・                        」




















発表会が終わった。





ネットではお祭り騒ぎ。





有名レコード会社からオファが来た。




その際に、楽譜が書ける事が明るみになり、ますます加熱。




天才児ともてはやされた。




事務所への母親の強い要望により、バラードではなく、切ない人生観の歌詞一本に絞った作詞作曲が行われ、大ヒット。




あっという間に浮世の世界へ行ってしまった。







50年後。





福岡。





音楽教室。





吉川琴音「はいはい・・Aパートはもっとしっとり優しさの中にみずみずしさを入れてー・・切なさの中に若さを入れるの・・いい?さんはい!」




教室が終わり、ブサイクな小学4年生までの女子生徒達が帰って行く。




ブサイクばかりな生徒達を集めた音楽教室だ。




ただし、この教室には厳しい審査があり、適当に歌って、琴音の耳を満足させなければならない。




?「先生・・」



琴音「おや・・なあに橋本さん?」




橋本「私・・先生みたいになれる?」




琴音「あらあ・・どうして?」




橋本「皆が・・ブサイクは死ねって言ってくるの・・それでね?ひっぐ・・歌は上手いけど・・どうせプロにはなれないって・・」




琴音「大丈夫」〈ギュウウウウウウ〉




橋本「先生?」




琴音「橋本さんはプロになれる!断言するわ!だから・・絶対諦めてはダメよ?」




橋本「・・」




琴音「・・」




見つめ合う。




橋本「・・本当に?」




琴音「ええ!絶対!だから・・できるって・・言って?言うのは私だけ?違うでしょ?ほら・・言って?」




橋本「・・グス・・ん・・出来る」





琴音「よおおし・・言ったなあ、うりゃりゃあ・・もう言っちゃった、言ったからには絶対ならなきゃ駄目よ!冗談じゃないからね!先生は本気だから!分かった?」




橋本「・・うん!絶対なる!」




琴音「よおし!約束!」



小指を立てる。





橋本「約束!・・指きりげんまん・・♪」







琴音「じゃあ、後一時間くらい歌っていく?」




橋本「でも・・お母さんが・・」




母親「お願いします」





橋本「〈パアア〉うん!歌う!歌う~!」





琴音「じゃあ・・行くわよ~・・~~~~~~♪さんはい!」





Fine。

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