ハエトリグモのアダンソン
最近、俺の部屋にクモが住み着くようになった。
最初は退治しようかとも思ったが、小さくコミカルな動きに魅力を感じてうやむやになっている。
放逐するような形で俺はこのクモを飼うことにした。
『名前はアダンソンにしようかな・・・。』
というわけでこのクモはアダンソンと名づけた。
あとでネットで調べてみたら、どうやらこのクモはハエトリグモというらしい。
さらに偶然なことに俺が名づけたアダンソンという名前。
なんとアダンソンという種類のハエトリグモがいるのだという。
部屋にいるのは違う種類のものだが、運命的なものを感じた。
『よーしよし。かわいいなあ。アダンソン』
餌はハエなどの害虫らしく、このボロアパートの掃除役のようなものでもある。
そのおかげか、俺の部屋には害虫が出なくなった。
おそらく捕食してくれてるのだろう。ありがたい存在である。
『いやあ、お前のおかげでGも出なくなったよ。ありがとうアダンソン』
俺は会社帰りにアダンソンを探しては動きを見つめる日々を過ごしていた。
いつしか俺とアダンソンは親友のような関係を持ったような気がしていた。
アダンソンを見るのが楽しみになっていたのだ。
『ん? トラック? 大家さん、ありゃなんだい?』
勤務が午前中のみだったために弁当を買って帰宅すると俺の部屋の隣の玄関に荷物が運び込まれていた。
『ああ、新しい入居者だよ。なんでも勤務地に近いからって理由で引っ越してきたんだそうだ』
『へえ、こんなボロアパートにねえ。物好きだねえ』
『コラ! 追い出されたいのかい?』
『ははは。冗談だって』
気さくな大家さんと、いつものように会話をしたあと自分の部屋に入って弁当を食べた。
この日アダンソンは探してもいなかった。
『まあどこかにいるだろ』
翌日、大家さんが催促してくる以外ではならないインターホンが鳴らされた。
『なんだ? まだ家賃回収日じゃないだろうに・・・』
寝ぼけぎみに玄関を開けると見慣れない顔の男がいた。
『どうもはじめまして。私、今日からこのアパートに住むことになりました』
どうやら昨日引っ越してきた人のようだ。
『ああどうも』
朝ボケで働かない頭で返事をする。
『あのーつまらないものですがコレを・・・』
お菓子だろうか? 男が俺に渡そうと一歩踏み出すとクシャッという音がした。
『クシャ?』
男が感覚があった右足をどけると潰れた何かがあった。
それは俺の脳味噌を覚醒させるのに十分過ぎる、衝撃的過ぎる出来事だった。
『アダンソーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!』
俺は大人げなく叫んだ。