ようこそお越しくださいました
「はぁっ、はぁっ……おのれ、魔王ヘリク=ダール! 世界を貴様の好きにはさせんぞ……!」
私の前にお越しくださったこの御仁は、過激派組織“フィリオン”より派遣された“勇者ジャスティン”様です。
名刺を交換しようと近づいたところ、突然斬りかかられました。
まったく、勇者様というのは皆様、ビジネスマナーというものをわきまえておられないのでしょうか。
身を守ろうと手を振ったところ、その手がジャスティン様の頬に当たってしまったらしく、まだ二分しか経っていないというのにジャスティン様は息も絶え絶えです。
せっかくお越しくださった勇者様に対して、またもや失態を晒してしまいました。自身を制御出来ない未熟な自分に、自己嫌悪してしまいます。
これは、後で自発的に反省文を2000文字ほど書かないといけないですね。
そろそろ反省文に書く内容も思い浮かばなくなってきておりますが……
そんな事を考えながら内心ため息をついていると、勇者様の全身が白く輝き始めました。
「俺は、絶対に諦めない……ここまで来られたのは、皆のおかげなんだ。俺を支えてくれた全ての人々の為にも、俺は負けるわけにはいかない! 俺の生命力を全て魔力に変換し、ヘリク=ダール、貴様を討つ!」
なんという事を言い出すのでしょうか、この方は。
私などのために命を捨てる?
なんと馬鹿馬鹿しい。最近の若者は、自分の命を何だと思っているのでしょうか。
年々若者の自殺者の数が増えてきていると聞きますが、嘆かわしい事です。
貴方が死ねば、貴方の両親や兄弟、恋人や友人、そういった周囲の方達がどれほどの悲しみを抱える事か。
僭越ながら、私ヘリク。
貴方のその行為、捨て置く訳には参りません。
私は向かってくるジャスティン様のおでこに、失礼ながら軽くデコピンいたしました。
「うおぉぉぉおおーーっぶへぇぇええっ!!?」
ジャスティン様は数十メートル先まで吹っ飛び、そのまま壁に頭からめり込んでしまわれました。
いけません、極限まで手加減したつもりが、もしかして死んでしまわれたでしょうか。
よく見ると、ジャスティン様の足がビクッ、ビクッと痙攣しています。
良かった、どうやら生きておられるようです。
しかし、自殺を止めるためとはいえ、またもややりすぎてしまいました。
「……強過ぎて、大変申し訳ございません。ですが、どうか命は大切にされますよう……」
私はジャスティン様へ深々とお辞儀をすると、彼を壁から救出すべく近づいていきました。