第一話 復讐は嘲笑う
賑やかな町から少し離れた林の中から銃声が四方八方から聞こえてくる。そんな林の中に木とバリケードの間に息を潜めチャンスを伺う一人の少年がいた。
少年は銃を持ち相手の出方を伺いつつ精神を集中していた。
耳に聞こえてくるのは銃の音、自分のであろう心臓の音、ガサガサと動く木の葉の乾いた音。
体の感覚は指先から足のつま先までの強張った神経と頭から滴り落ちる汗だけだった。
そして、その時はやってきた。
パァァン
相手が銃に残っていた最後の一発を撃ったのと同時に素早く銃を構え迷わず引き金を引いた。
自分が撃った弾が当たった相手は両手を挙げて当たった事を知らせる。
少年は構えていた銃を降ろし、緊張の糸が切れたように深い息を吐く。
これが最後の一発だと感じることもなく。
「いやーまた秋に撃たれちまった」
陽気な声で秋と呼ばれた少年の頭に手を置くのは、先程の相手であろう。
「頭の上の手邪魔なんだけど」
秋は自分の頭の上に置かれた手を振りほどいた。その様子を見ていた他の仲間であろう者達は皆笑っていた。
その中の隊長であろう人物が二人に声をかける。
「秋は銃を持ったらピカイチだからな、お前らも気をつけろよ」
隊長が言うと皆ロックオンされると逃げられないからな、などちょっとした意地悪を入れながら休憩を取り始めた。
さっきまで秋がやっていたのはサバイバルゲームだ。
本来なら銃などはテレビやパソコンなどでやる物だが実際にやった方がスリルがあると人気がある。
秋もそんなゲームにはまった一人だ、もともと射撃には自信があった秋はすぐにのめり込んだ。
そうこうしているうちに休憩が終わり第二ラウンドに突入する。
秋は自分の定位置に着いて第一ラウンドと同じように物陰に隠れてまたチャンスを待つ。
パァァン
最初の一発が鳴り響く。
しかし、その時秋は不思議な感覚に襲われていた。
普通ならその後も撃つはずなのにその一発以外全く銃声が響いてこなかった。
「なんで一発以外撃ってこないんだ」
近くにいた誰かが言った。
周りの仲間もその不気味さ故にざわめき始めた時…。
パァァン パァァン
今度は二発の銃声が響く。だがその音に誰もがおかしいと口を開く。
発砲音がする前に皆が顔を出していたり、身を乗り出していた者さえいるとゆうのに誰かに当たった気配はなく、誰も手を挙げなかった。
サバイバルゲームでは銃弾に当たった場合手を上げて申告しなければならない。
その後も何発も銃声が聞こえるが全く秋の方に弾が飛んでくる気配が無かった。
「…なんか銃の音が違くないか」
また誰かの声が聞こえたが誰も返事をしない。
やがて痺れを切らした一人が銃を構えて敵陣に近づいて行く。
その様子を他の仲間が見守る中一番近いバリケードの内側を覗く。
すると男がいきなり叫び声を挙げて尻もちをつき怯えきった顔で仲間の方へ行こうとする。…だが。
パァァン
銃声と共に赤い水滴が体から飛び散り倒れるが誰も近づこうとはしなかった。
いや、目の前の出来事に皆が目を丸くして立ち尽くしていた。
秋もその光景に口から出る言葉も息さえしているのかもわからなかった。
倒れた男は頭から血を流し動くことさえなかった。
これから起きるであろう出来事を誰もが本能的に感じていた。
「うぁぁぁぁ!」
皆が逃げようと立ち上がり走って行く。
だが、向こうの見えない敵もそれを逃がすわけもなく逃げて行く者を次々に撃ち抜いていく。
秋は動くことも言葉を発する事も出来ずただその地獄絵図の様な光景を見ることしか出来ずにいた。そして…。
雨の降る中、仰向けで血の海の中に倒れていた。
まるでさっきの事が嘘だと言わんばかりの静けさだった。
だが、周りに広がる血と倒れている死体の山、そこから流れる異臭の臭い。
これが夢で無いことを無理やり伝えて来る。
「…あぁ、もうすぐ死ぬんだ俺…」
秋はそんな事を思いながら見えているのかわからない目で空を見る。
灰色の空と冷たい雨が目に入る。
最後に口から言葉がもれる。
「…まだ…死にたくないな」
「復讐、してみたい?」
少しトーンの高い声が脳の中に聞こえてきた。
秋は幻聴か何かだと思ったが自分にとっての居場所や楽しみ、ここでの仲間を奪われた事を思い秋は頭の中であぁと返事をして空に向かって手を伸ばす。
最後に見た景色は少女が嘲笑う口元だけだった。