表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

初心者冒険者

 日がちょうど落ちようかという時、俺たちはソヴィ公国に戻ってきていた。そのまま関所を通って冒険者ギルドへと向かう。道のいたるところに火の灯った松明らしきものが立てかけられている、そのおかげで国の中は昼のように明るい。


「少し待っていてくれ、すぐに報告してくる」


 冒険者ギルドに入ってすぐクラリッサがそう言って奥へと入って行った。残された俺とルーシアは備え付けてあった椅子に座った、ふかふかとしたクッションが気持ちいい、馬車の座り心地とは比べ物にならない。


「あー、疲れた」

「私も……長い距離の移動はいつまでたっても慣れないわ」


 さすがのルーシアも疲れきった表情を浮かべている。


「ランクはどのくらいになるかな?」

「そうねえ……レッドドラゴンを一人で討伐ならAランクくらいじゃないかしら、まあ私は最初からSランクだったけどね」


 ルーシアは胸を張ってそう言った、正直言ってSランクがどれほどのものなのかが分からない以上何ともいえない。


「Sランクがどれほどのものなのか俺には良く分からないんだが」

「そうね、Sランクというと、なんて言えばいいのかしら……冒険者が全体で3千万人くらいいるって言われてるんだけど、その中でSランクはたったの百人しかいないのよ」


 なるほどそれは凄いことなのだろう、本当に一握りの人間しかなれないようだ。ルーシアはやっぱりすごいやつだったんだなと俺が感心していると、受付の方向からクラリッサがこちらに向かって来ていた。


「ミサキ、君のランクが決まったよ」


 少しだけ緊張する、別に冒険者ランクなんてどれでもいいのだが……まあなんだかんだで少しは期待してしまう。


「おめでとう。ギルドは君をSランクとして認めよう」


 そう言ってクラリッサはでかでかとSランクと彫刻された黄金色に輝くカードを差し出してきた。


「……って、俺がSランク!? それってルーシアと同じ……!?」


 ルーシアの方を見てみれば驚くべきことに笑っていた、今までのイメージから何か文句を付けたりしそうだと思っていたのだが……どうやら俺は自分でも気づかない内にルーシアのことを見くびっていたらしい。反省だ。


「そうだな、ルーシアとは同じランクということになるな」

「そうか……俺がルーシアと同じランクか」

「どうしたの? 良かったじゃない、Sランクだなんて」

「いや、驚きすぎて……」


 子供の頃から俺はそうだったのだが、人に褒められ慣れてないのでルーシアに素直に褒められて少し面喰ってしまった。


「それとこれがレッドドラゴン討伐の報酬だ」


 恐らくは硬貨が入ってるであろう巨大な袋を渡された、口を開いてみると中に詰まっていたのは大量の金貨だった。


「全部で六千万ゴル入っている、私はいいから二人で分けてくれ」


 金貨の量に硬直しているとクラリッサが正確な報酬額を教えてくれた。六千万ゴルってことは……金貨が六百枚この中に入ってるのか、どうりでこんなに重いわけだ。


「私も良いわ、お金には困ってないしね」

「じゃ、じゃあ俺が全部貰っても良いんだな……?」

「別に構わない」「いいわよ」


 二人とも実に太っ腹だ、俺は貰えるものは全部貰う主義なのでくれるというのなら遠慮はしない。


「あ、ルーシアには装備代を払わなくちゃな」

「あれは私の奢りよ。そうね、Sランクのお祝いとでも考えておいて」


 まあ本人がそう言うのなら無理に払う必要はないだろう、俺は袋から金貨を取り出しかけていた手を止めた。


「では私は次の仕事があるのでこれくらいでお別れだ、また会おう」

「そうか、またな。今日はありがとう」

「じゃあね」


 身を翻して歩いて行ったクラリッサの背に見送りの言葉を掛ける。また会うことがあるかは分からないが、アイツは良いやつだったことは間違いない。


「それにしてもレッドドラゴン討伐ってこんなに貰えるんだな」

「でもその報酬につられて年に何千と冒険者が死んでるわ」


 それは恐ろしい話だ。……今回は運よく倒せたからよかったが、普通に考えればドラゴンの攻撃は一回直撃したら即死間違いないのだし、それで人が何千と死ぬのも頷ける。


「そろそろ晩御飯の時間ね、食べに行きましょ」

「もうそんな時間か……そうだな、行こう」

「何かリクエストはあるのかしら?」


 ……リクエストと言われてもこの世界の料理の名前を知らないので、出そうにも出せないのだが。


「まあ、肉かな」

「お肉ね、それならいいところを知ってるわ」




 案内されたのは大通りから少し外れた場所にある小さめの店だった。中に入ってみれば肉の焼ける良い匂いが充満していた、食欲をそそる良い匂いだ。


「ここのステーキが美味しいのよ」


 こっちでもステーキはステーキらしい、まあ分かりやすくて良い。


 俺とルーシアは空いている席に座って店員を呼んだ、例のごとく注文はルーシアに任せることにする。文字の勉強も視野に入れなければいけないな……


「ミサキはこれからどうするの?」

「どうするの……って?」

「そのままの意味よ、明日からどう暮らすのかって話」


 ふむ、どうしようか。とりあえず当分の間は適当に依頼をこなしてお金を貯めることから始めよう。


「それならお金を貯めるのにうってつけの依頼があるの、でも最低でもコンビじゃないと認めてくれなくて私一人じゃ受けられないのよ、どう? 一緒に受けない?」

「どう? って言われても内容が分からないとうけるかどうかも決められないな」


 まあ最低でもコンビじゃなければいけない時点で難易度は相当高いであろうことが伺える。


「内容はハードドラゴンの討伐なんだけど」

「ハードドラゴン……ってどんな奴なんだ?」


 まあ話の流れからしてレッドドラゴンよりは強いのだろうが、名前からではどれほどなのかは分からない。


「私も話に聞いただけなんだけど、()()()()んですって」

「そりゃ凄い」


 何とも簡潔で分かりやすい説明だ。俺が返事を返して直ぐ、注文したステーキが運ばれてきた、鉄板は熱いようでまだ肉の焼ける音がなっている


「お、これは美味そうだ」

「美味そう、じゃなくて美味いのよ」


 ステーキはルーシアの言う通り美味しかった、本当に美味しい肉は口の中で溶けるというがこの肉はまさにソレだった。


「で、どう?」

「確かに美味いな」

「そっちじゃなくて依頼のことよ」

「ああ……まあ、俺には到底無理な話だな。レッドドラゴンでさえ死にかけたんだぜ、俺は」


 正直言ってレッドドラゴンとさえもう戦いたくはない、あまつさえ更に強いドラゴンと戦おうなんて思う筈もない。


「そう、まあミサキがそう言うなら仕方ないわね」

「どうしてそこまでルーシアはその……ハードドラゴンだっけ? と戦いたいんだ?」


 前から金には困っていないと言っていたことだし、報酬が高いから受けたいってわけでもないのだろう。


「私は強い魔物と戦うのが好きなの」


 なんだか漫画に出てくる戦闘狂バトルジャンキーのような言葉を真顔で言い出した、少し引いた。


「変な誤解しないでよ、私は危険な魔物が存在してるのが嫌いでそれを自分の手で倒せるのが好きなのよ」


 あんまり変わってないような気がするが、まあそんなことは気にするほどのことじゃない。


「なるほどな……まあ頑張ってくれよ、俺は魔物と戦うのはもう懲り懲りなんだ」

「気が向いたら私に言ってね」

「憶えとこう、まあ気が向くことは無いと思うけど」


 そう言えば、レッドドラゴンの鱗とか取っているのを見た記憶が無いのだが良いのだろうか。


「レッドドラゴンの鱗? あんなの取ったって1ゴルの得にもならないわ」

「そうなのか、なんだか鱗とか牙とかそういうので武器とか防具を作ったり……」

「あのねえ、あんなの加工しにくいわ重いわで良いところは堅さと炎体耐性だけ、素材としては最悪の部類にはいるのよ? それこそ一流の鍛冶屋でも上手く扱えないくらいにはね。……まあだからこそ好んで使う酔狂な奴も居るみたいだけど」


 それなら取ってなかったことも頷ける、しかし子供の頃から魔物を狩って素材を剥ぎ取るゲームをやっていた俺からすると、それが勿体なく感じてしまう。


「そういえば、どこかの森の原住民はドラゴンの鱗で全身を包んでいる、とか聞いたことがあるわ」

「へえ、強そうだな」

「その格好のまま木から木へ身軽に飛び回るとか……まあ眉唾だけどね」


 はたしてその連中が居たとしたらどれだけ筋肉がついているのだろうか、村人全員筋骨隆々なんてことは無いだろうが。


「ドラゴンの鱗って言えば、メタルドラゴンなんかの鱗や牙は他と比べて素材の価値があるわね」

「なんでなんだ? 名前の通り金属でできてるのか?」

「厳密には金属とは違うんだけど、性質は殆ど金属と一緒だから加工しやすいんですって」


 全身素材のドラゴンか、倒せたらかなりの金になりそうだ。しかし金属みたいな鱗、何だか素材になるために生まれてきたみたいなドラゴンだ。


「でも人気は無いのよね」

「そんな素材に足が生えたような奴が人気がないのか?」

「メタルドラゴンは地竜(グランドドラゴン)じゃなくて天竜(スカイドラゴン)だから飛ぶのよ、飛び道具がないとキツイみたい」

「飛ぶのか……今の俺みたいな奴には天敵だな」

「弓でも練習したらどう?」

「ショートソードを持ち上げることもできないのに弓なんて、夢のまた夢だよ」


 魔法が使えれば良いのだろうが、それはルーシアによって既に否定されている。魔力が有るというのはどんな感覚なのだろう?


「そんなに魔法が使いたいなら巻物(スクロール)なんてどうかしら?」

「スクロール?」

「巻物って言うのはね――」


 ――巻物について詳しく聞いてみた所によると、巻物は上級魔導師によって作られる物で触れている人間が決められた文言を唱えることでその巻物に籠められた魔法が発動するもの……らしい。


「でもお高いんでしょう?」

「? まあ結構するわね、初級の火魔法が籠められたので三百万ゴルだったかしら」

「さ、三百万……」


 もちろんルーシアに俺の冗談が通じるはずは無かった。……それにしても高すぎる、しかも初級の火魔法でできることと言えばライター程の火を付けることだけ、それなら原始的に木と木を擦るほうがマシだ。


「でも一回買えば何度でも使えるのよ。ソロ冒険者の最初の課題は回復魔法の巻物を買うこと、なんて言われてるくらい重要なものでもあるしね」


 まあ、それでも買う気にはならないが。主に値段のせいで。

誤字脱字等あれば教えて貰えれば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ