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根こそぎ×ネコ削ぎ

「これは無理だな、帰ろう」


 岩に隠れて様子を窺えばそこには赤というよりは茶色に近い色のうろこを持った、優に10メートルはあろうかという巨大なトカゲが居た。


 このトカゲがレッドドラゴンのようだ。レッドドラゴンは地竜グランドドラゴンと呼ばれる種類(地竜に属するドラゴンは羽をもたないので空を飛べないらしい)に属するドラゴンで、レッドドラゴンはその中でも下級・・のドラゴンらしい。……下級でこれか、ドラゴンとは相当ヤバい生き物のようだ。


「ここまで来て帰るなんてダメよ! 挑戦してみるだけでもいい経験になるから」

「別にそう思うのなら帰っても良いだろう、ゴブリンを倒せただけでも初心者としては及第点だ」


 口調と台詞が相まってクラリッサがイケメンに見える、というかルーシアは俺に挑む以外の選択肢を選ばせる気は絶対にないらしい。


 俺が逡巡しているとクラリッサが剣を背中から抜いた、クラリッサの剣はいわゆるグレートソードでその刀身は2メートル近くもある。それだけの長さだと地面にずってしまいそうだが、クラリッサは持ち前の身長と背負い方を工夫することで引きずらないようにしている。


「挑むのなら、危なくなった時は絶対に私が助けよう」


 と、剣を掲げて言った。『剣聖』が言うと本当に説得力がある、何があってもいざというときは必ず助けてもらえるだろうと、そう思わせてくれる。


「……まあここまで来たんだし、一応挑んでみるか」


 クラリッサも助けてくれるというし一度挑んでみるのも悪くない、無謀だと言う人もいるかもしれないが俺にも一応プライドのようなものがあるのだ。


「その意気よ、頑張りなさい!」


 ルーシアの激励を背に受けながら隠れていた岩から勢いよく躍り出た、方向としてはドラゴンの側面となるので肝心のドラゴンはまだこちらには気付いていない。俺はできるだけ音をたてないように近づいて、ドラゴンの長い首の付け根へナイフを突き立てた。


「あ、あれ……?」


 想像していたドスっという音とは違って、()()()という音が辺りに響いた。嫌な予感がして手元を見るとナイフは根元から折れていて、その刃は回転しながら後方へと飛んでいった。


「これ、ヤバくねーか!?」


 俺は激しく動揺した、そのせいでまだこちらに気付いていない敵の近くで大声を上げてしまった。

 俺の存在に気付いたドラゴンの首は既にこちらを向いていて、口を大きく開けている。クラリッサの話によればこの体勢は……


「……う、おおお!」


 ドラゴンの口から吐き出された超高熱の()()は数瞬前まで俺の立っていた地面を焼き、ドロドロとした液状の物体へと変えた。


 土を溶かすほど高熱のガスを吐き、頼みの綱であるナイフは既に折れている……俺はナイフの柄を投げ捨ててルーシアたちに助けを求めることにした、このままじゃどう考えても勝ち目なんてないだろう。


 プライドがどうとかそんなことは命の危機の前では塵に等しい。しかしルーシアたちの方を向いてみれば彼女たちは10匹は居ようかというレッドドラゴンの群れに襲われていた、この様子じゃ助けは期待できないだろう。


 ……前言撤回、俺は最初のレッドドラゴンの方へ向きなおし(少なくともルーシア達が勝つまで)時間を稼ぐことにした。彼女たちなら一匹増えたところで関係ないかもしれないが、俺にも一応意地というものがあるのだ。


 俺は腕を獣化させ、レッドドラゴンへと歩き出した。


 連発されるブレスを紙一重で躱しながら近づいていく、ある程度近づくと奴はブレスを止めて攻撃方法を前足での攻撃へとシフトした。目の前の地面に突き刺された足を爪で引っ掻いてみる、するといともたやすくドラゴンの鱗を貫通しその裏に隠されていた肉も切り裂いた。


「この切れ味は一体なんなんだ?」


 まあ切れるに越したことは無い、俺は爪が通用することが分かったので積極的に攻撃していくことにした。


 ――しかしそのことで一瞬俺の頭をよぎった「爪が通用するからこのままいけばこのドラゴンくらいなら俺でも倒せるかも」……なんて考えは、とんだ勘違いだった。奴は全く本気など出していなかった、奴は俺の攻撃が通用することに気が付いたようで(つまりは俺を危険だと判断したようで)俺を排除するべく――本気を出したのだった。


 今までとは段違いの速さで繰り出された攻撃に俺は一瞬反応が遅れてしまった、かろうじて致命傷は免れたが俺の頭頂部に激痛が走る。横殴りに繰り出された奴の前足は油断していた俺の頭上を通り、頭頂部の猫耳を根こそぎ奪って行ったのだった。


「無い、無い、俺の耳は……?」


 頭頂部に手をやっても()()()()()()()、短い間だが俺の体だったモノが今は無くなってしまっている。そのことが俺を動揺させた、ポーションのことは既に耳と一緒に頭から吹っ飛んでいる。


「テメエ……絶対に許さねえ!」


 足全体に毛が生えたのが分かる、それは一瞬で俺の首まで広がりそして直ぐに頭まで届いた。()()だ。


 前回前々回とは異なり、俺は意識を保ったままそれを感じることができた。四つん這いになった俺は全力疾走でドラゴンへ近づき、その首へ爪を突き立てた。その爪は豆腐を包丁で切るがごとくドラゴンの鱗を、肉を切り裂いた。血が噴き出るがしかしドラゴンの首は丸太のように太く致命傷には至らない。


 横薙ぎに振るわれた腕をジャンプで避け、俺はその首へと噛みついた。ぞぶりと音がして牙が肉にめり込む、そのまま力任せに肉を引き千切り直ぐに地面へと着地する。


 ちぎった肉をし、呑み込む。美味い。


 距離を取った俺に向けてドラゴンは大口を開いている、ブレスだ、俺はサイドステップでそれを避けてもう一度首へと噛みつき肉を引き千切る――それを繰り返すこと数回、やっとドラゴンは地響きとともに地面へ倒れた。


 ドラゴンの首は骨が見えるくらいまで肉が抉られ青い血がドクドクと流れ出ている。俺はドラゴンの亡骸へ近づいて見えている肉に噛みついた、昨日宿屋の食堂で食べたステーキよりもおいしく感じる。生だが抵抗感は一切ない、これもライオンの遺伝子の影響かもしれない。


 とりあえず腹が満たされたところでルーシア達の方を見てみればまだドラゴンと戦っていた、ドラゴンを見ると耳を奪われた怒りがまたぶり返してきた。


「があああ!」


 雄たけびを上げながら一番近くに居たドラゴンの首を爪で切りつける、さっき戦ったレッドドラゴンほど大きくないので(さっきのは主か何かだったのかもしれない)見事首を両断することに成功した。


「ミサキ!? 良かった、倒したのね……これで私も本気が出せるわ」


 そう言ったルーシアが淡く光り始めた、これが話に聞いていた『魔力解放』だろう。なんでもルーシアは巨大な魔力を備えていていつもはその魔力を内に封印しているらしく、その膨大な聖の魔力(人間は聖の魔力、魔物は負の魔力を持つ)を開放するだけで魔力の少ない弱い魔物は内の負の魔力が打ち消されて気絶または絶命してしまうらしい。


 どうやらルーシアは俺の試験のために魔力を封印したまま戦ってくれていたようで、解放された魔力は一瞬でレッドドラゴンの群れ全てを昏倒させた。


 クラリッサとルーシアは倒れたドラゴン一体一体にとどめを刺してから(丁寧に喉の奥にある討伐証明部位のガス袋を回収して)こちらへ近づいてきた。


「大丈夫? 頭から血が……って耳が無いじゃない!? クラリッサ早くポーションを……!」

「あ、ああ……とりあえず獣化を解いた方が良いんじゃないか? 流石にその姿だと飲みにくいだろう」


 言われてから少し集中して人に戻った、前は獣化に集中力が必要だったがだんだん獣化に慣れてきたようであまり集中は必要なくなってきた。


 人に戻って直ぐクラリッサに手渡されたポーションを飲み干した。頭がむず痒いようなよくわからない感覚があったがそれはすぐに収まった。感覚がなくなるとともに流れていた血も止まったようだ。


 頭に手をやればそこにはちゃんとふさふさとした耳がある、安心感から俺はへなへなと地面へしゃがみこんだ。本当にこのポーションがあってよかった、無かったら耳は無くなったままだったのかと思うと本当に……


「耳、元に戻ったみたいね。良かったわ」


 ルーシアの言葉に返事を返す余裕もない俺は無言で耳を揉む、この感触が、今は愛おしい。


「死ぬかと思った……」


 俺の嘆息混じりの台詞を聞いて、獣化を解いてから口を開いていなかったクラリッサがおもむろに喋り出した。


「あ、安心するのは良いがとりあえず何か羽織ったりした方が良いと思うぞ……」

「わ、忘れてた!」


 珍しくクラリッサが狼狽えている、俺はと言えば最近全裸になってばかりだったので裸であることに違和感を覚えていなかった。気が付いたらとんでもなく恥ずかしくなってきた。


 俺は手を精一杯に使って体を隠しながら獣化の際脱ぎ捨てたレザーアーマーへと向かった。

書き溜め終了、なので次話から週1~2回投稿になります(これに伴い文字数も減少するかもしれないです)、すいません。

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