魔法+地名+(少女-地球)=異世界
目が覚めたら目の前に美少女が寝て居た、それに俺の寝転んでいるものも柔らかい。これは一体どういう状況だ? 窓からは朝日がさしているし一日寝ていたのだろう。
「あ、起きたのね……?」
俺が顔を起こすと目の前の少女も起き上がって目を擦りながら話しかけてきた。
「ヴェ?」
ここはどこだ? と言おうとしたら変な声が出た、声というよりは犬か何かの鳴き声のような音だ。
「あなたに言っても分からないかもしれないけど、あなたは私の使い魔になったのよ」
使い魔になった? どういうことだろう……きっとこの少女は痛い妄想に憑りつかれてしまったのだろう。
……なんだか首に違和感があると思ったら何かが首に巻きついている、これは首輪だろうか。
「首輪が気になるの? とっちゃだめよ、それは使い魔の首輪なんだから」
もう理解できなくて頭がおかしくなりそうである。
「ほらこれで見てみなさい、結構いいデザインだと思わない?」
少女が鏡を俺の前に鏡を置いた、それを覗いてみる。するとそこには一匹のライオンが映っていた、そのライオンは俺が頭を揺らすと同じように頭を揺らした。そして手を動かすと鏡の中のライオンも手を動かした。……間違いない、これは俺だ!
「急に固まっちゃってどうしたの?」
犬に襲われていた時、恐らく俺は最後に獣化したのだろう。そしてそのままの姿でここに居るのだろう。
とりあえず元の姿に戻らなければ……意識を集中すると緩やかに人へと戻ることができた。人の姿に戻ってる途中首輪がガチャンと音を立てて外れた。
「あ、あなた獣人だったの……?」
人の姿に戻った俺だったがその瞬間異常な空腹に襲われた、あれからまたかなり時間が経ったのだろう。
「腹、減った」
胃袋の辺りがぐぅと鳴った、恥ずかしさで顔から火が出そうだった。
「はい、好きなの食べていいわよ」
あの後俺はこの少女――ルーシアというらしい――にご飯を奢ってもらえることになり、あと服も貸してもらった。体格の差によって貸してもらった服もぶかぶかでは合ったが、ベルト等を使って無理やりに着た。
そしてルーシアにメニューを差し出されたのだが……
「……文字が読めない」
そのメニューに書かれているのは明らかに日本語でも英語でもない完全に未知の言語であった。
「ミサキは文字が読めないの? じゃあ適当に頼んどいてあげるわ」
そう言ってルーシアは俺の分も注文してくれた、それ自体はありがたいのだが、名前が聞いたことない料理ばかりなのでどんな料理が来るのか全く予想が付かない。
「それで、ここは何処なんだ?」
「ここは宿屋よ」
「いやそうじゃなくて……」
「何処の国かってこと? それならここはソヴィ公国よ」
「そ、ソヴィ公国? そんな国の名前は聞いたことが無いな」
「知らないの? これでもこのウラシア大陸の中で一番大きな国なのよ、それを知らないなんて――」
「ちょ、ちょっと待てウラシア大陸ってなんだ?」
全く知らない地名が出てきてしまった、これは一体どうしたことだろう。まるで目の前の少女はここを日本ではないと言ってるようではないか。
「記憶喪失って奴かしら……一応拾ったのは私だし、多少の面倒は見なくちゃいけないわよね」
本人は独り言のつもりかもしれないが、俺の無駄に高性能な耳はそれを聞き逃さなかった、まあ記憶喪失ってことにしとけば違和感なく色々聞けるし良いだろう。
「ウラシア大陸って言うのはね、なんて言ったらいいのかしら……あ、世界には四つの大陸があって、その中の一つって言ったらわかるかしら」
「まあ、一応は」
「それでそのウラシア大陸で一番おっきな国がここソヴィ公国なわけ」
なんだか妙なことになってしまったようだ、気が付いたら日本じゃ無い別の場所に来てたなんてファンタジー小説じゃ無いんだぞ。
ルーシアの話を聞いていると料理が運ばれてきた、運ばれてきた料理は朝だというのに結構な量でボリュームがある。料理は何かの肉のステーキのようだ。俺の前にはこれとパンの乗った皿だけだがルーシアの前には大量の皿が並んでいる、朝なのによく食べられるなと素直に感心してしまう。
「場所の説明はこんなところかしら、じゃあ次はこれまでに何があったか説明しなきゃいけないわね」
「よろしく頼む」
「よろしく頼むって、何だか男みたいな話し方するわね。……私はダイアウルフの討伐依頼を受けて森に行ってたのよ」
「一つ質問、依頼ってなんだ?」
「これはいよいよ本当に記憶喪失の疑いが強まってきたわね……依頼って言うのはね冒険者ギルドってところで受けるもので、平たく言えば高度なお使いみたいなモノよ。それで森に行ってた私はダイアウルフと戦っているあなたを発見した、まあ私の目的がダイアウルフだったこともあったしあのダイアウルフを何匹も相手取って互角だった動物に興味が湧いたから連れて帰ってきて使い魔にしようとしたの」
恐らくダイアウルフって言うのはあの犬のことだろう、ウルフと名前についているし本当にオオカミだったのか。それにあのダイアウルフなんて言い方をしているのを聞く限り強いのだろう、ダイアウルフは。
「そしたら俺はがただの動物じゃなくて人間だった、てわけか」
「俺……? まあ、そういうことよ」
大体事の全貌がつかめてきた、まずここが日本ではないことはメニューの文字や地名などから決定事項で、まだ可能性の一つに過ぎないが……ここは地球ではないかもしれない。
「ところでミサキは一応人間なのに魔力が無いのね、私魔力のない人間なんて初めて見たわ」
「魔力、って?」
「魔力が分からないなんてこれは完全に記憶喪失ね、でも名前とかは覚えてるしどうなってるのかしら。……魔力って言うのは魔法を使うための力の源で大体の人間は持ってるわ、その様子だと魔法も分からなそうね。見せた方が早いわ」
魔法という単語が出てきたところで俺が怪訝そうな顔をしたのが分かったのか、魔法についても説明してくれるようでルーシアは指をこちらに向けた。
「うわっ!」
唐突にその指の先に灯った火を見て驚いた俺は椅子から転げ落ちた、周りから妙な視線が向けられてるのが分かった。何だか最近恥ずかしいことばかり起こっている気がする。
「ごめんなさい、そんなに驚くとは思わなくて。でもこれで分かったかしら、これが魔法よ。今使ったのは初級の火魔法ね」
魔法を見て俺は確信した、今の俺は日本とは違う異世界に来てしまったのだ。
「す、すげえ! それって俺にも使える?」
「どうかしら、でも魔力が無いから……多分無理じゃない?」
魔法のある世界にいるのに……魔法が使うことができないなんて、楽しみの八割は失ったようなものだ。
「そんな露骨に落ち込まないでよ……まあとりあえず説明することは大体この位かしらね、他に聞きたいことはあるかしら」
「そうだなぁ……今は特に思いつかないな、また思いついたら聞くことにするよ」
「そう。で、ミサキはこれからどうするつもり? その様子だと一文無しみたいだけど」
「あ……」
見知らぬ土地で一文無し。この服だって借り物だ、つまり俺に一切の資産は無い。
「どうしよう」
「何も当てがないのね、なら冒険者になればいいんじゃない? ……うん、それが良いわね。そうと決めたらすぐに行きましょう」
そう言ってルーシアは俺の腕を掴んで歩き出した、何だか少し興奮しているようだ。
「ちょ、ちょっと待てまだ食べ終わってないんだが」
「また後で食べにくればいいでしょ、私はせっかちなの」
ルーシアの前を見てみれば結構な量のあった料理は全て空になっていた、ものすごい速さだ。
腕を引かれてやってきたのは赤い屋根の建物だった、ここまで来るときに見た建物は全て中世ヨーロッパを思わせる建築様式になっていた。
「ここが冒険者ギルドよ、中の受付に言えば直ぐに登録ができるわ」
「ここが冒険者ギルドか……」
中は予想通り見るからに荒くれ者って感じの男たちで溢れかえっている、まあ中には女性もいるが少数派だ。
「おい、見ろよ『全能』のルーシアがガキを連れてるぜ」「マジじゃねーか、一体どういう風の吹き回しだ、あいつパートナーは作らないとか言ってなかったか?」「きっと無理やり連れてこられたんだな、可哀想に」
周りからいろいろな声が聞こえるが一つその中に気になるものがあった。
「『全能』って、なに?」
「……私の二つ名よ、と言っても私はその二つ名を認めてないけどね。あと今のは最初だから良いけど、次にそれを口にしたら耳を引き千切るわよ」
「わ、分かった」
完全に地雷を踏んだ、俺が『全能』と口にした瞬間ルーシアの空気が変わったのが分かった。
「分かれば良いわ。……ねえあんた、冒険者登録をしたいんだけど」
不機嫌なままで受付だと思われる場所に居た女性にルーシアは話しかけた、話しかけられた方の女性はその雰囲気に押されて完全に委縮してしまっている。
「は、はいぃ。で、でもルーシア様は既に冒険者として登録されていますが」
「誰が私がするなんて言ったのよ、したいのはこいつよ」
そう言って俺を前に押し出した。俺を見た女性はすぐに理解したようで机から紙とペンを取り出した、ペンはいわゆる羽ペンと呼ばれるものだ。
「は、はい分かりました! まず名前を教えてください」
「えっと上代岬です」
「カミシロ ミサキさんですね、どちらが姓ですか?」
「上代が姓で岬が名です」
こういう質問がされるということは、姓と名の並びは生まれた場所や国によってまちまちなのだろう。
「手続きはこれで終わりです」
「これだけなんですか?」
もっと色々聞くことがあるんじゃないかと思ったが、まあめんどくさいことは嫌いだしこれで終わりならいいだろう。
「はい、あとは実技試験を受けることで晴れて冒険者へとなることができます」
「あ、試験があるんですか」
「はい、試験は検査官立会いの下どれでも良いので依頼を一つこなしてもらいます、そして解決した依頼に応じてFからSSSの最初の冒険者ランクが決まります。冒険者ランクは単純に言えばその冒険者の強さを表すもので、試験以降は依頼をこなしていくことでランクは上げることができます」
「なるほど」
「ねえミサキ、これなんてどう?」
多分試験で受ける依頼のことだろう、ルーシアが差し出してきた紙を見た。が、よく考えたら文字が読めないんだった。
「あ、そう言えば文字が読めないんだったわね。これはレッドドラゴン討伐の依頼よ」
「ルーシア様! レッドドラゴンなんてAランク以上推奨の依頼を、初心者にやらせるのは流石に……」
受付の女性の言葉はルーシアの睨みを受けて尻すぼみに小さくなっていった。
「ミサキは受けるわよね、この依頼。大丈夫よ危なくなったら私が助けるから」
「まあ助けてくれるってんなら受けてみても良いかな」
「決まりね、あんたは早く検査官をつれてきなさい!」
俺が依頼を受けるって言ったときは満面の笑みを浮かべていたのに次の瞬間には受け付けの女性に怒鳴っている、悪いやつじゃないけど気性が不安定なのが玉に瑕だ。
「了解しました、入口の関所でお待ちください。一時間後に検査官が到着するはずです」
「ですって、さっさと行きましょう。っとその前に買わなきゃいけないものがあったわね」
「……え? まさか今から行くのか?」
女性の言葉を最後まで聞いてすぐルーシアが俺の腕を掴んで歩き出した、買わなきゃいけないものとは一体何だろう。というかこの世界のこともろくに良く分かっていないのに、重要なことをそれほど直ぐにやる必要があるのだろうか?
「そうよ、思い立ったが吉日って言うでしょ?」
ファンタジーな世界で日本のことわざを聞くとは思わなかった、この世界にもことわざの概念があるのか。それも日本のことわざに酷似したのが。
「まあいいけどさ……じゃあ何を買うんだ?」
「ミサキの武器と防具と……あと着替えとかも買わなきゃね」
よく考えてみれば俺は今何も持っていないのだった。
土曜日の投稿は無いです(多分)




