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獣×魔物=戦闘

今回は別の人物視点です。

 今私の視線の先ではこの森で見たことのない薄茶色の獣が三匹のダイアウルフを相手取って互角の戦いを繰り広げている。……互角のように思えたがよく見てみると薄茶色の獣は所々血を流している部分がある、流れている血の量も少なくないこのまま時間が経てばきっと負けてしまうだろう。仮に勝ったとしても直ぐに死んでしまうに違いない。


 いつもなら無視してしまうような出来事だが、何故だか助けてみたくなった。それはその獣が魔物であるダイアウルフとは違い負の魔力も聖の魔力も放出していないただの獣であり、それでいて複数のダイアウルフを相手取ることができていることに興味を持ったからである。


 本来ダイアウルフはAランク相当(ランクは魔物の強さの格付けでFからSSまで存在する)の魔物で、本来ならば魔力も持たないただの獣――便宜上『猫』と呼ぶことにする――程度にてこずるはずがないのだ。必然的にあの猫はAランク相当もしくはそれ以上の実力を持つことになる。


 猫が死んでしまわない内に私は隠れていた草むらから立ち上がり矢を射った、私の手から離れた魔力の込められたその矢は吸い込まれるようにダイアウルフの頭へと突き刺さり絶命させた。


 今まで猫一匹に的を絞っていたダイアウルフたちが私を敵であると認識したようで、残った二匹ともこちらを睨んだ。だがその決定的な隙を猫が見逃すはずもなく二匹の首を猫の爪が切り裂いた。


 猫は一瞬、動きを止めたかと思うと地面に倒れこんだ。


 ダイアウルフの狩猟証明部位である牙を切り取りバッグへと詰め込んで、猫に中級回復魔法を掛けて傷を治療していく。どうやって巻き付けたのかわからないが足の傷に巻かれたダイアウルフの毛皮を外して、その裏に合った傷もしっかりと治す。


 傷はかなりひどかったがまだ新しい傷だったのもあり比較的綺麗に治すことができた、けがのあった部分は禿げてしまっているが……直ぐに新しい毛が生えてくるだろう。


 この猫は私の使い魔にしよう。そう決めた私は気絶している猫を担ぎ上げ、行動の拠点としているソヴィ公国まで連れて帰ることにした。


 

 分かってたことだが私はソヴィ公国――私が主に拠点としている国――の関所で呼び止められた。私を呼び止めたのは幼馴染であるギルバートだった、なぜか私が通ろうとするとギルバート以外の衛兵は皆後ろに隠れてしまうのだ。


「いい加減分かってくれよルーシア、だから何度も言ってるだろ?」


 ルーシア、それは私の名前だ。と言ってもこの男と後数人を除いて私をルーシアと呼ぶ人間はいない。


「だからこの子は私の使い魔にするって決めたから連れてきたの! それを返して来いってどういうことよ!」

「規則は規則だから使い魔契約もしていない生き物を中に入れるのは……」

「なら使い魔の首輪買ってきてよ、ここで私が契約すれば満足でしょ?」


 使い魔の首輪は使い魔にしたい魔物(もしくは別の生物)の首にはめて使うもので、この首輪をはめられた魔物は首輪と血を使って契約した人間を主として認識するようになり命令を聞くようになるのだ。効果が犬や猫のような姿でなければいけないのがネックだが、この子は見るからにその条件を満たしているから大丈夫だろう。


「……はぁ、分かったよ。ここで待っててろよ、絶対にここから出るじゃねーぞ!」


「ごちゃごちゃ言ってないで早く行ってきなさい!」


 散々ごねていたギルバートにお使いを頼み私は関所の中の椅子に座って、未だ気絶したままの猫を撫でていた。

 

「そうだ、ちゃんとした名前を考えてあげなくちゃいけないわね、何がいいかしら……」

「買ってきたぞ!」


 おそらくは走ってきたのだろう、ぜえぜえと肩で息をしている。


「遅いわよ!」

「これでも全力疾走して来たんだぞ!? それにまだ一分も経ってないだろ!」

「知らないわよ、早くそれを渡しなさい!」


 ひったくるようにしてギルバートの手から首輪をひったくるようにして奪った私はナイフで指を切り首輪へ垂らす、すると首輪が淡い紫色に光ったこれが契約完了の合図だ。

 首輪をゆっくりと猫の首へと通していく。最初の大きさは小さな犬猫に付けるような大きさだが魔法によって猫にぴったりの大きさへと変わっていく。


「これで通ってもいいでしょ?」

「ああ大丈夫だ、だから早く通ってくれ」


 少しムッとなった。知り合いに邪険にされるといい気分ではない、それも幼馴染となるとなおさらだ。


「何よその言い方、まるで私に早く出て行って欲しいみたいじゃない」

「現にそう言ってるんだよ、俺は」

「そういうこと言うならまだ私はここにいることにするわ、良いでしょ?」

「な……! ダメに決まってんだろ! ここは衛兵か問題のあるやつしか入っちゃいけねえんだよ!」

「なら何か問題を起こせばいいのね? ……何をしようかしら」


 どうもギルバート相手になると昔から私は強情になってしまう、なぜだろうか。


「あー、分かったよ! ここに居ても良いが妙なことはしてくれるなよ、お前が変なことするとなぜか俺も連帯責任で給料減らされるんだよ」

「ふん、自業自得だわ」

「自業自得な要素が一切ねえんだが!?」


 相変わらず気性の振れ幅の大きい男だ、話しているといつも叫び声のような話し方になる。


「そうだ、あんたこの子の名前考えなさいよ」

「なんだいきなり……って使い魔にするとか言っときながらまだ名前も決めてねえのかよ、仕方ねえな……俺も一緒に考えてやるよ」


 いつも邪険にするような態度をギルバートは私に対してしてくるが、相談をすればなんだかんだと言いながら真剣に考えてくれる辺りがこの男のいいところだ。


「なんか見たことねえ生き物だなこいつ、お前は知ってんのか?」

「知らないわ、ただ興味があったから連れてきただけ。この子ダイアウルフ三匹を相手に互角に戦ってたのよ」

「マジかよそれ、ダイアウルフつったら一匹でも十分強いっつうのにそれを三匹同時に……? なるほどな、それならお前が使い魔にしようってのにも頷ける。Sランクで二つ名持ちのお前に十分釣り合う強さだな」

「そのことは言わないで、私は二つ名が嫌いなの分かってるでしょ?」

「あー、すまんすまん。忘れてた」


 幼馴染じゃなければこの話題になった時点で殴り飛ばしている、だけどこいつだって()()事件のことは知ってるハズなのに……。


「ふん、分かれば良いわ」

「で、名前だったっけか? ……そうだなあ、なんとなく猫っぽいしケットシーとかでいいんじゃないか?」

「それじゃ種族名じゃないのよ。全く、あんたに聞いた私がバカだったわ」

「んだと? 今のは適当に言っただけだから、ちゃんと考えればかっけえ名前が考えられるんだよ!」

「じゃあ言ってみなさいよ」

「え、あー、そうだな……うーん」

「唸ってるだけじゃ答えは出ないわよ? それともやっぱり思いつかないのかしら」

「……そうだ、アーロン! アーロンてのはどうだ?」


 勝ち誇った顔でギルバートはそう言ったが、その名前はこの子には使うことができない何故なら。


「この子メスなんだけど」

「そういうことは先に言っとけ! じゃあそうだなあ……ゼノヴィア、なんてどうだ?」


 ゼノヴィア、まあ結構良い名前のような気がするしゼノヴィアでいいか。


「まああんたにしてはいい方なんじゃない? この子の名前はゼノヴィアにするわ」

「お前はいつも一言余計なんだよ!」

「うるっさいわね、褒めてあげてるんだから素直に喜びなさいよ」

「まったく、せっかく美人だっていうのに。そういう所を直せばお前もちょっとは……」


 ギルバートが何か言ったようだったが、ゼノヴィアのことを考えていた私はそれをよく聞き取ることができなった。


「何か言ったかしら」

「いや、何も言ってねーよ」

「ならいいわ。この子の名前も決まったし、そろそろ帰ることにするわ」

「そうかよ、じゃあまたな」


 ギルバートの言葉を背中に受けながら私は関所を後にした、関所から私のいつも暮らしている宿屋までは比較的近い場所に位置している。だから時々ギルバートも私の部屋に来ることもあるが……まあその話は今は良いだろう。


 その宿屋の前で女性に呼び止められた。


「ルーシアじゃない、そんなおっきな生き物担いで……どうしたの?」


 見ればそこには私と同じ冒険者をやっているセシリアが居た、私のことを名前で呼ぶ数少ない友人の一人だ。


「まったく今日はいろんな奴に呼び止められるわね」


 私は早く部屋に帰ってゼノヴィアと戯れようと思っていたのに。


「呼び止められたってことは彼氏君にも止められたのね?」

「だからギルバートとはそういう関係じゃないって何度言ったら」

「あら私ギル君のことだなんて一言も言ってないわよ?」

「い、いつもあんたがそうやってからかうからでしょ!」


 どうして私はムキになってるのだろう、こうやってからかわれるのはいつものことなのに。どうにもギルバートのことでからかわれると冷静でいられなくなってしまう気がする、どうしてだろう。


「アハハ、ごめんね。でギル君に呼び止められたってことはその生き物関係かしら?」

「そうよ、なんでも使い魔契約してない魔物は国には入れられないーとか言って止められたのよ」

「あらそうなの? でもその子は契約は済んでるみたいだけど……」

「さっきギルバートに首輪買ってこさせたのよ」

「あの子も健気というかなんというか……あなた衛兵が持ち場から離れるのはかなりの違反行為だって知ってる?」


 衛兵にはそんな規則があったのか、初めて知った。そんな規則があったのにアイツは持ち場を離れて首輪を買って来てくれたのか……少しだが見直した。


「知らないわよ、きっとアイツも私に恐れをなしたのね」

「まったくあなたは、これじゃああの子も浮かばれないわね……」

「もういいかしら? 私はさっさと部屋に戻ってゼノヴィアの処遇を考えたいのよ」


 それに最近依頼を受けてなくて、久々に依頼を受けたこともあり疲れているのだ。と言っても肉体的には全く疲れてないが。


「あらごめんなさい……ってその子ゼノヴィアって言うのね、あなたが考えたの?」

「考えたのはギルバートよ」

「なるほどね」


 急にニヤニヤと笑い出した、何だかバカにされてるようで嫌な顔だ。

 

「何よその顔は」

「何でもないわ、呼び止めちゃってごめんなさいね。私ももう行くわ」


 妙な表情が気になるがそんなことより早く部屋に戻りたかった私は、何も言うことなくセシリアの隣を通り抜けた。




 


 部屋に戻ってバッグを下ろすような感覚でゼノヴィアをベッドに下ろした、よく見てみると綺麗な毛並みをしている。もしかしたら誰かの使い魔だったのかもしれない。

 使い魔は主が死ぬと首輪が外れ元の状態に戻る、これを利用して珍しい使い魔を自分の使い魔にしてしまう使い魔ハンターなんてのも居るとか居ないとか。今まで私は使い魔を持ったことがないのでそういう輩に会ったことは無い、まあ会っても返り討ちにできる自信はあるが。


 ゼノヴィアが目を覚ますまでしばらく暇になってしまった、私も少し休もう。私はゼノヴィアのすぐ傍で横になった。

これ以降別の人物視点を入れるつもりはありません。

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