異世界×ケモミミ少女=遭難
目が覚めて俺は強烈な尿意に襲われ、直ぐに起き上がってトイレに向かって駆け出した。こんな強烈な尿意は小学生のころ修学旅行でバスに乗る前トイレに行き忘れた時以来だ。
……はたしてトイレはこんなに遠かっただろうか、何時もなら十秒も掛からずに着くはずなのに。
やっとのことで到着したトイレに駆け込みいつも通りチャックを下げようとしたところで気付いた、今俺は少女なのだった! 前と比べて足も格段に短い、これならトイレまでの道のりが妙に長かったのも頷ける。
「ってそんなこと考えてる場合じゃねえんだった」
医者から貰ったワンピースを廊下に脱ぎ捨て、いつの間にか身に付けていた女性ものの下着を足首まで下ろして便座に座り込んだ。
……用を足した後はどうすればいいんだろう、取り敢えず拭けば良いのか? 俺はトイレットペーパーを巻き取って丁寧に拭きとった。
ふと思ったが何故俺は自分の体にドギマギしているんだ、これからずっとこの体で生きていくのだから早いところ慣れなければいけないというのに。なんだか無性にイラついてきた。
トイレを出て俺が真っ先に考えたのは、自分の体を確認しようと言うことだった。
いつもは自分で作った爪や何かを装着してその姿を確認するために使っていた大きな鏡の前に立ち、俺は服を脱いだ。
まず顔を見る、顔立ちは整っていて十分に美少女と言えるだろう。
次に胸へと目を落とす、かなり控えめな大きさだが触ってみると男であったときとは違う感触がそこにはあった。しばらく自分の胸を揉んでいたが我に返った俺はすぐに体の確認を再開した。
そして下腹部、これは言わずもがなだが、一応以前そこにあったモノは無くなっていたとだけ言っておこう。
分かってはいたがこうして現実を突き付けられるとダメージが大きい、だが希望もある。それは獣化だ、憧れていた獣の爪を今の俺は出せるはずだ。そのためだけにあの手術を受けたと言っても過言ではないのだし、それさえできれば満足である。
俺は昨日腕が獣化したときの事を思い出した……あの時はかなり感情が昂っていたが、何となくだがその時の感覚は覚えている。きっとすぐに獣化出来るだろう。
……少し前の俺の考えは実に浅はかだったとしか言いようが無いだろう。
かなりの集中力を要したが、少しずつ獣化に慣れてきたときにそれは起こった。
それまでは足だったり手だったり体の一部だけを獣化させていたのだが、一度全身を獣化させてみようと思った俺はさらに集中した。
下半身から始まった獣化が頭に到達しようかと言うとき、視界の外で一瞬何かが光ったように見えた。そして次の瞬間には俺の意識は完全に消えた。
そして次に目を覚ました時、俺は全く見知らぬ場所に寝転んでいたのだった。
「ここは……?」
そう いえば、犬の遺伝子を組み込まれた猿ががしばらくは犬になるたびに暴れていた、なんて話を聞いた記憶がある。……どうして今まで忘れていたのだろう、バカか俺は。
恐らくは完全に獣化した俺は理性を失い、そのまま何処か遠くまで来てしまったのだろう。通報されて動物園へ送られることだけは免れたようだが……
辺りは草木が生い茂っていてまさに森といった感じで、見渡す限り一軒の家も見つからない。俺の家の近くに森は無かったような気がするが。取り敢えずどうにか人を発見して此処が何処なのか確認せねばなるまい。
直ぐに人の一人くらい見つかるだろう、そう楽観しながら俺は歩き出した。
歩き出して一時間ほど経っただろうか、段々と喉が渇いてきた。それによく考えたら(よく考えなくてもだが)俺は裸であった、はたから見たら森の中を全裸で歩いている少女……通報されてもおかしくないシチュエーションだ。
そして二時間ほど経ったような気がする、腕時計も何もないので時間は確認できないが。いい加減お腹も空いてきた、俺が獣になっていた間はどうだったか分からないが記憶の限りでは朝から何も食べていない。
大体もう五時間くらい経ったのではないだろうか、背中と腹がくっつきそうである。だがまだ腹が減っているのはいいとして問題はこの喉の渇きである、このままでは脱水症状か何かを起こしてしまうかもしれない。
分泌される唾液を呑み込んで少しでも喉を潤していく、そしてもうダメだと思い始めた時俺の耳が何かを聞き取った。
「水の音だ……!」
かすかだが確かに聞こえた音を頼りに頭の上の耳を動かしながら音の元へと向かっていく、音の元へはすぐに着いた。
そこは湖だった。見つけてすぐに俺はその湖に口を付けて水を飲んだ。ウイルスだとか細菌だとか今の俺には気にしている余裕などない、そもそも飲まずに死んでは元も子もないだろう。
俺はそのまましばらくガブガブと水を飲んでいた。
「あのままだったら間違いなく死んでたな……」
喉の渇きを潤したら今度は空腹が気になってしょうがない、どこかに食べられそうな草でもないだろうか。そう思い趣味のネットサーフィンで培った知識を総動員して食べられそうな物を探そうとしたのだが……
「……見たことねえ草ばっかりだ」
見たことのない草を食べるのは危ないと聞く、どうにか知っている草を探さなければ。
そうしてどれだけ経っただろうか、目を覚ました時には真上にあった太陽が今ではもうすっかり見えなくなり辺りが段々と暗くなってきていた。
暗くなってから動くのは危険だ、それにこの湖から離れてまた運よく水の飲める場所にたどり着けるかどうかも怪しい。とりあえずはここで一夜を明かすか、だがこのまま全裸でいては直ぐに風邪なりなんなりにかかってしまうだろう。
とりあえず落ち葉を集めて簡易ベッドを制作した、と言ってもそのまま地面に寝るよりはマシという程度のものだが。
そうこうしている内に辺りは完全に暗闇に包まれてしまった。しかしライオンの遺伝子の影響か暗くても目がよく見える。……そうだライオンの遺伝子で思い出した、少しだけ獣化して全身を毛で覆ったら快適かもしれない。
俺の考えは見事的中した、全身を覆う毛が全身を快適に包んでくれている。
かなりの集中力を必要とする獣化を細かい操作を加えて行ったため、非常に疲れた。獣化によって体力を殆ど失った俺は落ち葉のベッドの上に寝転んで泥のように眠った。
朝俺を照らす太陽の光で目が覚めた、以前腹は減ったままだし今日こそは何か食べられそうな物を見つけなければ。
俺は重い体を起こして食べられそうなものを探すために歩き出した、湖からはできるだけ離れないようにして近場だけに的を絞って。
しばらくの間探していたが何も見つからない、いくら探しても知っている草の一本すら見当たらない。知っている草を探すのはもう不可能な気がしてきた、今度は木に生えている果実でも探そう。
そしてその後すぐ奇跡的にリンゴ(のような果実)を発見した、もうこれがリンゴで無かったとしても俺は食べる! そう決めた俺は爪を木に引っ掛けてやっとのことで木に登り、その実をもぎ取った。
木から飛び降りるようにして下りた俺は一心不乱にその実を貪った。
とりあえず腹は膨れた、木を見ればまだ実はいくつか生えている。これならしばらくはもつだろう、この実が無くなる前に人に会えればいいが……
一応木に目印として爪で傷を付けておいた、これで忘れても大丈夫だろう。
腹は満たせたことだし人を探そう、そう思って森を歩いていたら大きな灰色の犬に遭遇した。
「オオカミ……? いや犬だよな、オオカミなんて日本には居ないはずだ」
犬は俺を見て唸り声を上げて、今にも噛みついてきそうな気配を出している。こんなでかい犬に噛まれたら致命傷は免れられないだろう、どうすれば追い払える……?
唐突に犬が跳びかかってきた、紙一重で避けることはできたが肩の肉が抉られているのを見て血の気が引いた。冗談じゃないぞ! こんな犬相手にどうやったら追い払えるというんだ。
混乱して俺の動きが止まっているのを見てか直ぐに二回目の噛みつき攻撃を繰り出してきた、それに俺は反応できず右足ふくらはぎに食いつかれた。
「い、ってえええええ……!」
足に牙が食い込んでいる感触がある、早く抜かなければ……! 俺は一心不乱に獣化させた腕を犬に叩き付けた。すると俺の爪はまるでバターを切るように犬の首元を切り裂き、犬の体は力を失いゴロンと地面に転がった。
体を失ったのに頭は未だ俺の足に食いついている、俺は上顎と下顎をつかんでゆっくりと犬の首を頭から外した。牙が刺さっていた場所からは血がドクドクと流れ出している、このままでは失血死してしまう。
「クソッ、何かで血を止めないと」
ふと目についた犬の皮を切り裂いて俺は足に巻き付けた、とりあえず今できることはこれくらいか。あとは今出てきた犬をどうにかしなければ……恐らくは血の匂いに誘われて来たのだろう、五匹の犬が新たに草むらから出てきた。
「やってやる……! かかってこい犬共、皆殺しにしてやる!」
さっきの怪我で遠くへは行けないし、もうこいつらを殺す以外に俺が助かる術はないだろう。
まず一匹目、さっきの犬同様とびかかってきたが今の俺には遅く見える。今までの俺では考えられない反応速度で空中にいる犬の体を真正面から叩き切った。胴体の半ばまで二つに分かれた犬の体が慣性にしたがって後方へと飛んでいった。
二匹目と三匹目は同時に左右から襲い掛かってきた、俺はジャンプでそれを躱そうとしたが右側からの犬はそれに気付いたようでジャンプして俺の右足首に食らいついた。着地の時運よく左側から近づいてきていた犬の頭を踏みつぶすことができた。
最初の犬と同様足に食らいついている犬を切ろうと爪を振り上げたその瞬間、 もう二匹の犬が俺の右の二の腕と左わき腹に噛みついた! 完全に失念していた、もうここまでか……? いや、絶対に――
「――諦めて、堪るかよおおぉぉお!」
そう叫んだ瞬間、俺の意識は深い闇へと落ちて行った。
誤字脱字等あれば教えて貰えれば幸いです。




