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白衣=マッドサイエンティスト

異世界に行くのは次話になります。

「で、どうしてこういうことになってしまったのか、理由は聞かせてもらえますか?」


 前とは全く似ても似つかない()()()()()()が病室に響き渡った。


「別に構わんよ、と言っても話は簡単なことだ。使ったライオンの遺伝子がメスの物であり、何かの手違いでそのメスであることを決める遺伝子が君に組み込まれてしまった、ただそれだけのことだ」


 驚くほどに単純明快だった、俺は怒りを抑えるために手を強く握った。


 すると握った手に違和感があったので見てみればそこには肉球があった、触ってみるとぷにぷにとやわらかい感触が伝わってくる。


「……それだけのことで、俺が()になってしまうようなことがあり得るんですか?」

「普通は死んでしまうのだがね、もしかしたら何か奇跡でも起こったのかもしれんな。ハハハ、実に面白い」

「ハハハ……じゃないですよ! 俺は一生元の男に戻れないんですか!?」


 どこか調子の外れた医者はよくわからないところで笑っている、見た目も中身も完全にマッドサイエンティストである。会ったときはまだまともに見えたのにこんな医者だったのかと、少し憂鬱な気分になってしまった。

 手術でどうなっても俺は後悔しないつもりだったのだが、まったく予想だにしない結果になってしまい混乱している。


「まあ、戻る方法も無くはないな」


 なぜそれを直ぐに言わなかったのか、甚だ疑問だがそれを言って変にへそを曲げられても困るということで口には出さなかった。


「ならすぐにでも……」

「本当にいいのか?」


 そりゃもちろんと口を開きかけた瞬間、医者が何か言いたげな顔をしているのを見て反射的に俺は閉口した。


「手術すれば十中八九死ぬが、……本当に?」


 医者からの言葉に俺は耳を疑った。


「し、死ぬ? 絶対ですか?」


「絶対だ、まあまた()()でも起きれば話は別だがね」

「それは何故……?」

「遺伝子を追加し定着させる技術はあるが、今はまだ遺伝子を安全に削除する技術はまだ確立されていない。まあ力押しで削除できなくもないが、九割九分一緒に別の重要な遺伝子情報も削除されて死んでしまうだろう」


 なら戻る方法があるなんて言うんじゃねーよぬか喜びさせやがって、口には出さないようにしたが今の俺の顔は怒りに染まっていることだろう。


「別に性別など男でも女でも変わらんよ。それより妙な手術ではなく完璧に性別が変わるなんて普通の人生では経験できんことだ、もっと喜べ」

「喜べるわけねーよ! 俺は一般的な男だったんだ、女体化願望なんてこれっぽっちも持ってねーんだよ!」


 感情が高ぶってつい素の口調で喋ってしまった、こんな男でも一応は医者なのだ多少の敬意は払わねばならないだろう。……まあ別にこの男ならいいか。

 とそんなことを考えていると目の前のマッドサイエンティストが妙な顔をしていた。


「む。君、自分の手を見てみろ」

「手……?」


 言われて見てみれば俺の手は毛で覆われていて、指先からはナイフのように鋭利な爪が生えていた。


「うおっ、なんだこれ? えー、戻れ戻れ……戻った」


 俺が戻れ戻れと念じているとゆっくり元のぷにぷにと柔らかそうな腕に戻った、元と比べて腕も随分短くなったものだ。


「まだ完全に肉体を制御できていないようだな、だから感情の昂ぶりで直ぐに肉体が獣化してしまう……それに耳と手のひらの肉球は一向に戻る気配がない、これはもう一生特殊な趣味の人間として暮らすしかないな」

「絶対楽しんで言ってるだろそれ……まあ、仕方ないか」


 まあ、親の遺産と今まで蓄えてきた分を合わせれば一生働かなくて良いくらいの金はあるし、今の仕事はやめてしまってもいいだろう。今の仕事場には友人だっていないことだし……こう考えるとかなり可哀想な人間だな俺って。


「寝てる間に身体検査も済ませたが問題はないようだったし、手術結果も一緒に取らせてもらった。今日はもう帰っても大丈夫だ」

「そうか……って身体検査ぁ!? まさか寝てる間に俺の体に何か如何わしいことを……!」

「そういうことは自分の体をよく見てから言うんだな。今の君の肉体年齢は高く見積もって12歳と言ったところだぞ、それも小柄な方のな」


 言われて考えてみれば女になったのに胸に違和感がないのは……そういうことだったのか、少しだががっかりしてしまった。どうせなるならナイスボディなお姉さんになりたかった。


「って、だからと言ってあんたがロリコンだったら話が変わってくるぞ」

「ふん、私は医者だぞ? つまりモテる、だから女には困らない。それなのになぜ犯罪を犯す必要がある?」

「医者への偏見をそのまま一つにまとめたようなセリフだなソレ」


 その後もしばらくは医者と雑談をしていたが看護師の「先生、次の手術の時間が迫ってます」の一言で雑談タイムは終了した。


「じゃあ帰るか……俺の服はどこだ?」


 今まで俺の着ていた服はよくある寝間着というかスウェットのような服だった、動きやすく学校で着る体操服のような素材で作られていて汗も良く吸ってくれそうだ。


「おいおい君、着てきた服をまた着て帰るつもりか?」

「そりゃもちろん、こんな恰好じゃ帰れねえよ」

「はあ、今の君の体型であの服が着れると思うか? 仮に着たとしても途中で脱げて恥をかくのが落ちだぞ?」


 じゃあ何を着て帰ればいいんだよ、と俺が不満そうな顔を浮かべてるのが分かったのか医者が直ぐに何かを取り出した。


「これは友人の娘に渡そうと思っていたのだがな……まあ責任の一端は私にもあるからな、これを特別にプレゼントしてやろう」


 そう言って差し出された包みを開けてみると、そこに入っていたのは子供用の可愛らしい純白のワンピースだった。


「これを俺に着ろと、そう言いたいのか?」

「そうだ、きっと似合うぞ? なんせこの私が選んだ服なのだからな」

「絶対に嫌だ! こんなの着てたら恥ずかしさで死ぬわ!」


 手の中のワンピースを医者に押し付けながら俺は叫んだ、医者は表情を変化させることなくソレを受け取った。すんなりと受け取った医者をみて若干違和感を覚えた。


「こんな服を着るくらいなら俺はこの格好で帰る!」

「ふん、つれないやつだ。別にいいがそのスウェットは12万円する代物だぞ? 最新の素材を用いた最上級のモノだからな」


 スウェットのようなものとは言ったが本当にスウェットだった、というか気にする場所はここではない。


「じゅっ、12万円……!? ……く、仕方ねえ家に帰ってから払う事にしよう」


 この唯のスウェットが十二万円なんてあり得無いだろ! とは思ったがその程度なら(金には困っていないどころか小金持ちである俺からすれば)まだあの羞恥プレイを受けるよりはマシだろう。

 ちなみに俺は今小銭を少々しか持っていない、病院自体が近場だったので交通費すら要らなかった為だ。


「ダメだ、家に帰ってからなんてのは信用できないからな」

「は!? な、ならカードで……!」

「うちはカード払いはやってないから、現金しか受け取らんよ」


 逃げ道を完全に塞がれてしまった、いよいよアレを着なければいけなくなってきた。


「頼む、勘弁してくれ! あれだけは嫌だ!」

「なら金を払え」


 ニヤニヤと人を馬鹿にするような顔が非常にムカつく、今にこいつを殴りたくなってきた。しかし殴ったところで何も解決しない、それどころかそうすれば状況は悪化の一途をたどるだろう。


「し、し、仕方ねえええ! 着てやるよソレ!」


 結局俺は折れた、医者の手から服を引ったくるように服を奪い取り、医者を追い出して部屋の中で着替えを終えた。


「おお、似合ってるではないか、実に可愛らしいぞ。岬ちゃん」


 鳥肌が立った、野郎にちゃん付けで名前を呼ばれるのは精神衛生上よろしくない。もうさっさと帰ろう、俺は医者の台詞を無視して玄関へと向かった。


「何か体の不調があればまた来るがいい、直ぐに診てやろう。岬ちゃん」

「岬ちゃんって言うんじゃねえ! だけどまあ、何かあったときはまた来る」


 考えてみると今の台詞はツンデレキャラみたいな台詞だ、恥ずかしくなってきた。赤くなりそうな顔を気にしないようにして俺は病院を後にした。







 しかしこんなことになるとは全く考えてなかったなぁ……これからどうしようか、と帰り道に俺はそんなことをずっと考えていた、しかし結論が出るわけもなくそのまま家についてしまった。

 家に入るためにポケットから鍵を取り出した、思えば鍵の位置が俺の首くらいの高さになっている。


 なぜだか今日はとんでもなく疲れた、間違いなくあの医者のせいだろう。ひらひらとうざったらしい服を手で押さえながら、廊下を歩く。


 そう言えば見た目が変わってしまった俺はカードとかそういうモノは使えるのだろうか……


「あー、とりあえず寝よう、それでまた明日全部考えよう」


 今日は実にいろいろなことがあったのでかなり眠い、風呂にも入らずベッドに倒れこむようにして俺はすぐに眠った。








 ワンピースを見事に着こなした岬が病院を出て行った後、医者と看護師の女性が話していた。


「でも良いんですか?」

「何がだ?」

「あれ、戻せるんですよね?」


 女性の言葉を受けて男は心底愉快そうに口を歪めた。そして頷きながら言葉を紡ぐ。


「ああ、もちろん戻せるとも。私の研究は完璧だ。

 だが……」


 出口から出て行った少女を見つめていた男の視線が看護師へと移った、その顔は新しいおもちゃを貰った少年のように無邪気な顔だった。


「こっちの方が楽しいだろ?」


 屈託のない笑顔を浮かべて男はそう言った、そう言えばこの男はこういうやつだった、と看護師は思うが、それを顔に出すようなことはしない。そうしたところで何も変わらないからだ。


「そうですか……」

「それにあの手術の証拠になるような人間にはすぐに()()()()()んだからどちらでも同じことだ」看護婦に考える暇を与えず男は言う「さあ次の手術だ、早く行こう。あまり患者を待たせては可哀想だ」

「分かりました」


 二人組の男女はそのまま手術室へと向かっていった。

誤字脱字等あれば教えて貰えれば幸いです。

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