護衛依頼とベテラン冒険者(仮)
誤字脱字等あれば感想で言っていただければ幸いです。
今回少し短くなってしまいました。
薬を届けてから何日かが経って、俺はギルドの依頼とにらめっこをしていた。
あれからどうしてもワイバーンの爪が欲しくなった俺は毎日ワイバーン討伐の依頼が出てないかこうして確認しているのだが、一向に出される気配が無い。
いっそ個人的に討伐しに行ってやろうかと思ったが、依頼を受けないと馬車一つ借りるにしても大金が掛かるのだ。そのうえ御者を雇うのにも金がかかることだし、そんな無駄な金を使えるほどの金は無い。
「金になりそうなのは……っと」
とりあえず目に入ったのは商人の護衛だった。
内容はここソヴィ公国の隣に位置するイラノーツと言う国までの道中の護衛だ。少し前までは俺も只の雑魚だったが、今はルーシアに師事して戦い方もある程度板についてきた感がある。きっとソヴィ公国周辺程度の魔物なら負けることは無い。それに報酬も悪くないし、受けてみるのも良いだろう。
俺は依頼書を携えて受付嬢の元へ向かった。
依頼の待ち合わせ場所についた俺の内心は穏やかなものでは無かった。
「ふん、このような娘に護衛など務まるのかね」
依頼主はやけに高圧的で、俺のことをじろじろと舐めるように見てくる。まあ俺の容姿からして実力を疑ってしまうのは仕方ないかもしれないが、それを露骨に表に出すのはどうなのだろう。
「……できるだけのことはさせてもらいますよ」
大体護衛の冒険者だって俺一人というわけではないのだ。俺以外にもあと三人冒険者が居るのだし、俺ばっかりに文句を言うのはやめてほしい。
まあその冒険者連中が正に玄人と言った感じを醸し出していて、文句など言う余地もないほどに手際が良いからというのも俺に文句を言う理由の一つなのかもしれないが。
「まあまあ、今回は私達もついていますし、よっぽどのことが無ければ大丈夫ですよ」
それは暗に俺のことは戦力に数えていないと言っているのか、フォローになってないんだよ。依頼主の態度も、冒険者連中のリーダーらしき人物の言動も、すべてが俺の精神を逆なでする原因となっていた。
だがここで俺が声を荒げるのも情けない、それこそまさに子供っぽいと言うものだ。
「……まあ良い、だがこれから三日の間儂にかすり傷の一つでも負わせるようなことがあれば依頼料は払わぬぞ」
「もちろんです! 私達にお任せ下さい。例えドラゴンが来ようとも守り抜いて見せましょう」
こいつらの実力がどれほどの物か分からないが、あんまり大きなことは言わない方が良いと思うが。
国を出発して少し時間が経ち、そのうちに分かったことだがどうやら俺以外の冒険者たちはパーティを組んでいるらしい。どうりで初めから仲良く話していたわけだ。
連中が固まって話しているおかげで俺は一人ふてくされながら馬車の外を覗く羽目になっていた。
……ここまで暇なのならルーシア辺りでも誘っておけばよかった。でもこんな低級の依頼にルーシアを誘うのも気が引けるし。
ずっと変わらない平原、そんな中を馬車に乗って走っていると段々眠気が頭の中に広がってくる。敵が襲ってくる気配もないし、このまま寝ててもバレないんじゃないか……なんて黒い考えが頭をよぎったが流石にそんなことをしていると最初に依頼主に言われたことが正しかったことになってしまう。
「ふぁあ」
そうは思っていても眠いものはどうしようもなく、欠伸が漏れた。誰かに聞かれてやしないかとあたりを見回すが、幸いなことに誰にも聞かれてはいないようだった。
「ゴブリンが出たぞ、お前らの出番だ」
必死に眠気と戦っていると、御者台に座っている依頼主の声が聞こえた。ゴブリン程度なら俺が出る必要もない気がするが、こういうところで細かいポイントを稼いで信頼を勝ち取るべきなのかもしれない。
そう思い馬車から飛び降りた俺は真っ先にゴブリンへ向かっていった。
ゴブリンは5体、そのうち剣を持った戦士タイプが3体と弓兵タイプが2体だ。ゴブリンなんて武器を持っていたところで強くは無いし、冒険者でなくとも大人の男で一対一なら素手で倒せるくらいだ。
だからそんなに心配することもないと思っていたのだが……
「危ねっ!」
真後ろから飛んできた火の玉が俺の真横を通り過ぎ、目の前のゴブリンを焼いた。恐らくは、冒険者の誰かが放った魔法だろう。
別に手出しするなとは言わないが危ないのが分からないのか、俺が文句を言おうと振り返った瞬間また同じように火の玉が通り過ぎて行った。
「そんなところに立ってると危ないだろ!」
危ないのはお前たちの方だろうと、危うく叫んでしまいそうになったが俺は大人なのでそんなことはしない。文句は後で言うことにしてゴブリンをまず倒そうと思い前を向くと、ゴブリンは全員もれなく死んでいた。
「……」
無言で馬車に乗り込み、動き出すのを待つ。何だか文句を言う気も失せてしまった、それに道中で敵と戦う気も殆どなくなった。
あとは連中が上手くやってくれるだろうし、危なくなったら出て行くくらいで丁度良いだろう。
動き出した馬車の中でまたワイワイとうるさい会話が聞こえてきた。どうやら今度は俺のことを話題にしているらしい。ただ俺のことを話のタネにしていると言うだけでムカつくと言うのに、その内容が更に俺の癪に障る。
「ホラ、あの子拗ねちゃったじゃない」
……別に拗ねてはいない。
だいたい俺のことを子ども扱いしてるところがまず気に食わない。やっぱり文句の一つでも言ってやろうか――
「――ん?」
馬車の後ろ、その空に何かが見えた。鳥だろうか?
「いや、あれは……」
その影はどんどんと大きくなって、ついには人間の何倍もの大きさになった。シルエットは鳥に近いが鳥よりはスリムで、体には毛の一本も生えていない。
「ど、ドラゴン……!?」
鋭い視線がこちらを見ている。近付くにつれてどんどんと大きくなっていくそれは、明らかにこちらを狙っている様子だった。
「ドラゴンだぁぁあ!」
驚きすぎて体勢を崩し馬車から落ちそうになってしまう。何とか体制を持ち直し、もう一度見間違いでないかよく観察する。
「ドラゴン? そんなんがこんなところに出るわけ無いでしょ」
なんて冒険者連中は俺のことを信じようともしない、だが来ているのは事実だ。俺は指でドラゴンのことを指しながら必死に訴えかける。
「本当だ! とりあえず見てみろ、あれを!」
半信半疑の様子だったが、冒険者のリーダーが馬車から俺の指さす方向を見た。そしてその瞬間、顔を真っ青にしてへたり込んだ。
「ワイバーンだなんて……か、勝てるわけない」
ぶるぶると震えながらそう言っている。
しかしなんでワイバーンはこの馬車を狙っているのだろう? 基本的に話を聞く限り山から下りてくるなんてことはほとんど無いようなのに。
考えていると馬車が止まった。この状況なら全力で馬を走らせて逃げ切った方がマシな気がするが。
「冒険者共、出番だ、あのワイバーンを蹴散らせ!」
なぜだかワイバーンが現れたことに依頼主は驚いた様子が一切ない、それほどに肝が据わっているのか。
「まるで来ることを知ってたみたいだな……」
とは言ってもそんなはずはないので、ただ肝が据わっているだけなのだろうけど。
もとよりワイバーンとはいずれ戦うつもりだったし、これは逆にいいチャンスかもしれない。一人で戦うつもりだったのに、一緒に戦ってくれる仲間(あまりそう呼びたくはないが)が居るのだからきっと勝てるだろう。
ワイバーンは前戦ったレッドドラゴンとは違い、空竜と呼ばれる類のドラゴンの一種で、空竜の中では下級で、強さだけを見ればレッドドラゴンより弱いらしい。
ならレッドドラゴンを倒した俺なら勝てない道理が無い。
「よっしゃ、やってやるぜぇえ!」
今の俺は今日の間で一番テンションが高いだろう。……やはりどこの世界に来ても俺の爪に対する想いは変わらない。相変わらず馬車の中で呆けている冒険者リーダーは放っておいて、俺は馬車から飛び降りる。しっかりと着地し、ワイバーンを睨みつける。
ワイバーンは馬車の直前まで来たところでホバリングを開始した。
「ブレスか?」
一瞬警戒したが、そう言うわけでもないようでしばらく待っていると、ワイバーンが一気に急降下してきた。馬車を踏みつぶすつもりかと思ったが、馬車の近くに降り立っただけだった。
「地上なら、俺の攻撃範囲だ!」
俺は足を獣化させ、しっかりと足の爪で地面を蹴りながら走る。近づくとワイバーンは片足を持ち上げ、俺に向けて振り下ろした。それを横に跳ぶことでしっかりと避け、俺はその足に渾身の力で爪を叩き付ける。
俺の爪はレッドドラゴンの時よりすんなり肉の内側まで入って行き、あっさり骨も切断した。
「よっし!」
ワイバーンを倒すのは案外楽かもしれない、なんて思いつつ俺は更に爪を叩きこんだ。




