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思い出す

 サンドラを助けた次の日、俺はサンドラのお見舞いに来ていた。病室のベッドに横になっているサンドラの顔は大分血の気が戻ってきている。


部屋に入った俺の足音に気付いてかサンドラが顔をこちらに向けた。腕は包帯でぐるぐる巻きにされていて動かしづらそうだ。


「あ、ミサキ……昨日はありがとう」

「ふ、人として当たり前のことをしただけだ」


 特に意味もなく格好つけてみる、どこかで聞いた言葉を言っているだけなので別に深い意味はない。サンドラは俺の台詞を聞いてはにかむように笑った。俺が格好つけてみたところで傍から見れば少女が背伸びしてるように見えてるのかもしれない。


「ふふ……ねえミサキ、一つ君に頼みたいことがあるんだけど、良いかな」

「今なんで笑ったんだ……頼み事って?」


 一体なんだろうか、まあ大抵の場合俺は暇なので、あまり変なことでなければ頼まれてやっても良いのだが。……こうして暇ばかりある現在のことを考えると前の世界に比べて格段に暮らしやすい世界だな、ここは。少し血なまぐさいのが難点だが。


「ボクには妹が居るんだけど、その妹に届けて欲しい物があるんだ……ここからはしばらくの間出られそうにないし」

「ふうん、別にそれぐらいなら構わないが」

「じゃあ、お願い出来るかな」

「これは?」


 差し出された袋の中には幾つかの葉っぱと木の実が入っていた、中身から漂ってくる刺激臭に思わず顔を顰める。これは何だろうか、葉っぱの方は良く依頼等で出されている薬草なので知っているが木の実の方は初めて見た。


 袋の中身から目を離した時視界に入ったサンドラのその申し訳なさそうな顔に逆に俺が恐縮してしまう。


「薬の材料だよ。……妹は生まれつき病気持ちで、それを抑えるための薬の材料」

「これをこのまま届けてくりゃ良いのか?」

「いや、調合師の所で調合してもらってから届けてくれると嬉しいんだけど」


 調合師、その名の通り材料を持って行くことで薬として適切に調合してくれる人間だ。薬の作り方というのはそれだけでかなり貴重な情報だ、それを多く知っている調合師ほど依頼料が高くつくがその分腕も良くなる。


「分かった、その薬は俺が責任をもって届けよう」


 俺はそう言って薬の材料をバッグに詰め込む、妹が病気で臥せっているなんて話を聞かされたら行かざるを得まい。


「妹はどこに住んでるんだ?」

「ああ、妹は――」




 サンドラから妹の住む場所を聞いた俺は、まず調合師の居る店を目標に定めて治療院を後にした。


 一応場所は知っていたので(利用したことは無いが)調合師の居る店には特に迷うこともなくたどり着くことができた、店の前には『調合専門』と書かれた看板が置かれている。外観からあふれ出るまがまがしさに若干気圧されつつも観音開きの扉を押して中へ入って行く。


「……なんだこりゃ、こんなもん置いといて危なくねーのかよ」


 近くの棚ではフラスコが置いてあり、紫色の液体がコポコポと音を立てて泡立っている。更にその横に置いてあるビーカーからは白い煙のようなものが出てきている。


「それは雰囲気づくりのために置いてあるだけだ、危険は無いよ」

「ひゃっ!?」


 フラスコに顔を近づけていると、唐突に真後ろから話しかけられて跳び上がりつつ体を反転させる。


「ひゃっ、だなんて随分と可愛らしい悲鳴を上げるものだね、最初は男みたいな口調で喋ってたというのに」

「……ま、魔女?」


 そこに居たのは長身で漆黒のローブに身を包み、三角帽子を目深にかぶった正に魔女と言った風貌の女性が立っていた。手には箒を持っていて、こちらを見下ろしている。


「お、分かるかい? それは良かった。こんな分かりやすい格好してるのに中々分かってくれる人が居なくてね……ところで、何か用かな? お嬢ちゃん」

「お嬢ちゃんじゃないが……あんたは?」

「私はこの店で『調合師』をやっているロクサンヌ、と言うものだ。よろしく」


 差し出された手を反射的に握った。冷たい。男だった時の癖か女性の手を握ると反射的に心臓の鼓動が少し早くなってしまう。


「ああ、よろしく。俺は岬だ」

「なるほど、ミサキ、ミサキ……」


 ロクサンヌは顎に手を当てしばらく俯いて俺の名前を呟いていたが、やがて顔を上げた。帽子から垂れている長い黒髪がそれに合わせて揺れた。


「うむ、覚えた。……多分」

「多分って」

「まあ気にしないでくれ。……それで、今日は何の用で来たのかな? お嬢ちゃん」


 結局俺のことをお嬢ちゃんと呼ぶのは決定事項なのか、若干不満に思いつつ、今日ここに来た要件を思い出す。


「薬の調合を頼みに来た」

「何の薬?」

「えー……なんだったっけ」


 そう言えばサンドラからどの病気の薬なのか聞くのを忘れていた。ここから治療院まではそれなりに距離があるので、聞きに戻らなければならないのかと思うと少々面倒くさい。俺がどうしようかと考えているとロクサンヌがこちらに手を向けた。


「お嬢ちゃん、お使いの時はちゃんと目的を聞いとかないとダメだぞ」


 まるで子供に注意するときのような口調が気に食わないが、まあ今回は俺の失敗で起こったことだ。


「調合を頼みに来たってことは材料は渡されてるんだろう? それを見せてくれればどの薬か分かるかもしれないよ」

「そうか?」


 言われて俺は腰のポーチに入れておいた葉っぱと木の実の入った袋を取り出して差し出す。ロクサンヌはそれを何も言わずに受け取り、険しい顔で中身を検分し始めた。しばらく葉っぱを取り出したりしながら考えていたかと思うと、それらを袋の中に仕舞うとこちらに顔を向けた。


「うん、この材料からできる薬を私は一つしか知らない。それを作っても良いけど……どうかな?」


 ロクサンヌはそう言ったがこれで違ったりしたら大参事だ、面倒ではあるが一応戻って聞いてきた方が良いだろう。事故の要素は限りなくゼロに近づけておかなければ後あとさらに面倒なことになってしまうかもしれない。


「いや、やっぱり帰って聞いてくることにした、違ったら困るし」


 その場合困るのは俺ではなくサンドラとその妹なのだが。


「そうかい、それじゃあ待ってるよ。私もさっきは一つしか知らないと言ったけれど、私が忘れているだけという可能性も無きにしも非ずと言った感じではあるしね」

「じゃあそう言うわけで」


 なんだかよく分からない挨拶を残しつつ、店から出た。



 結局のところサンドラの元まで全力疾走で聞きに行った俺だったが、サンドラに聞いた薬の名前をロクサンヌに伝えたところ返ってきた言葉はこんなものだった。


「なんだ、それなら私の考えていた薬と同じじゃあないか」


 ……まあある意味同じなのかどうかを聞きに帰った部分もあるのだが、同じだと聞きに行った意味が無かったような気がして少し気が滅入る。


「じゃあそれを作ると言うことでいいのかな?」

「ああ、よろしく頼む」


 薬を作るのにはどれほどの時間が掛かるのだろう? あまり掛かるようだったら一度宿に戻るとか考えた方が良いのかもしれない――なんて考えているとそれを見透かしたかのようにロクサンヌから声が掛かった。


「時間はそれほどかからないよ、掛かって5分と言ったところかな。だから店の中で待ってくれていて構わないよ……と言ってもその5分でさえ待てないと言うのなら、どこかほかの場所に行って貰っても私は良いけど」

「いや、そのくらいは待つ」


 小学生の頃落ち着きが無い、と通信簿に毎年書かれていた俺ではあるが5分程度待てないほど未熟な精神は持ち合わせていない。


 ロクサンヌがすり鉢を使って木の実を潰し始めるのを横目に、俺は様々な道具が並べられた棚を物色する。


 棚には色々な薬や薬の素材、本、果ては食料品まで置いてある。一体どういう考えからこの棚の陳列物は導き出されたのか甚だ疑問ではあるのだが、わざわざそれを口に出すほど気になるわけでもない。


 おいてある本は主に調合関係の物で、中には著者がロクサンヌ自身のものもいくつかみられた。売れているのかは知らないが、同じタイトルの物が山になって積まれている所を見るとあまり売れ行きは芳しくないのだろう。いや売れすぎるから常に大量に並べていると言う可能性もなくは無いが。


 一冊本を手に取り、パラパラとめくってみる。


「……」


 『調合の極意』と書かれたその本の内容は案の定というか、そう言う勉強をしたわけでもない俺にはさっぱり理解できず、すぐに棚の中に戻すこととなった。色々な本の背表紙を眺めていて見つけた『調合を始めようと思っている人へ』というタイトルの本を引っ張り出して少し読んでみる。


 『まずは自分の魔力量を自覚するところから始めましょう――』


 俺は本を閉じた。二度と読むことは無いだろう。


 忌々しいその本をひとしきり睨みつけた後、別の方向へと目を動かす。俺の視線はしばらくうろうろと辺りを彷徨った後、あるものに釘付けとなった。


 一際ゴージャスな飾られ方をされているそれは真っ白な何かの爪で、釣り針のようにねじ曲がっていて先には返しが着いている。見たことのない形の爪だ。色も綺麗な割に塗装というわけでもないようで、そのことがまた気になってしまう。


「欲しい……」


 値札がついていないので値段が分からないので迂闊に買うとは言えず、結局眺めているばかりになっている。その様子を見てかロクサンヌが調合の手を止めてこちらに声をかけてきた。


「その爪は高いよ。なんたってワイバーンの爪だからね、百万ゴルはくだらないよ」

「ひゃ……」


 レッドドラゴン討伐直後の俺ならそのくらいポンと出せたかもしれないが、今の俺は億単位の借金を抱える身だ。当然買えるわけも無い。


「私が冒険者だったころに倒したワイバーンの爪を飾ってあるのさ。あのころはワイバーン程度なら一人で倒せたものだけど、今の私にはあの時ほどの力も体力もない……」


 ロクサンヌの自分語りを聞き流しつつ、俺はいずれワイバーンを倒しに行くことを心に決めた。

金の価値なんて作者である私すら忘れてしまっているので、読者である皆様はなおさら覚えているはずもないと思うので一応ここに書いておきます。

1ゴル=1円で100ゴル未満は切り捨てです。

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