竜頭蛇尾
結局今はスペンサーのコートを借りて羽織っている、全裸にコートだとかなり心細い。というかこのコートさっきまで来ていた俺のレザーコートより何倍も重い、そのせいでかなり行動が制限されてしまっている。
「もう、敵は出てこないかな?」
あれだけの数いたロボを倒したのだし、もう他の敵は出てこないと思いたい。まあ今はルーシアも居るので何が出てきても楽勝な気がするが。
「そうみたいね、探索を再開するわよ」
ルーシアの言葉に反応してみんな歩き始める、今の俺は裸足なので変な物を踏まないようにしなければ。廊下の地面は石なので少々痛い、もっとなめらかな素材で作ってくれればいいのに。
「ところでルーシアはなんで俺たちがあそこにいるのが分かったんだ?」
「魔力よ」
聞いたところによるとルーシアは人の魔力の波長を記憶して、その魔力がどこにあるかなんかが分かるらしい。ストーカー向きの能力だな、なんて思っているとスペンサーが驚いた表情をしていた。
「それってかなりの高等技術じゃないか……ルーシアはどこかの学校に行ってたりしたのかい?」
「全部独学よ、冒険者になってから勉強したの。使えそうだと思ったことは全部習得することにしてるから」
それで本当に大体のことができるのだから恐ろしい。前に聞いたルーシアの二つ名である『万能』はそんなところから来てるのかもしれない。
「それは凄いね、僕は何か月も魔法の練習はしたけど結局使えなかったよ」
肩をすくめながらスペンサーが言う。そんな会話をつづけながら遺跡の中を練り歩く、見つけた部屋には大体入ったのだがあるのは朽ちた家具ばかりだった。しかしその家具は朽ちた今の状態でも分かるほど、かなり高級そうなものばかりだった。
「あいつらマスターがどうこう言ってたけど、まだここに居るのかね?」
「多分生きてないと思うよ、大抵ああいう絡繰の設定は主人が生きてるままになってるから」
「ふうん……主人が死んでることに気付いてないってことか、可哀想っちゃ可哀想だな」
「でも案外伝説の吸血鬼なんかが住んでたりして、不老不死だし」
この世界にも吸血鬼の伝説なんかは同じようにあるようだ、実際に居るわけでは無いようだが。名前が同じなだけで設定が違ってたりすることもあるかもしれない、今度誰かに聞いてみよう。
「居るわけないでしょ、あんなのはガセよガセ」
「まあね、でも居ると思った方が浪漫があると思わない?」
俺もそういうオカルトは結構好きな方なので居ると信じたい、特に魔物なんかが居る世界なら吸血鬼だっていそうだし、そう言うのを見てみたいものだ。
「もう大体見るところは見たんじゃないか?」
「そうね、後はこの部屋くらいかしら」
ルーシアがそう言って扉の前で立ち止まった、目の前にある扉は今まで開けたものとは大きさが全く違う、それに見た目も他の扉より装飾がなされていて綺麗である。
「なんかボスでも居そうな扉だな」
「じゃあ、開けるわよ」
開いた扉の中には大量の卵が並べられていた、卵の見た目はかなり大きな鶏の卵と言ったところだろうか。真っ白な卵が沢山並んでいる光景は案外綺麗だ。
「なんだ……? この卵は」
「何だろうね」
不用意にもスペンサーはその卵に近づいていき、突きまわしている。俺が罠が無いかと警戒している横を一切警戒していない様子で通り抜けて行ったので、何か罠が無いと確信できるようなことがあったのだろうか。
「おい、大丈夫なのか?」
「大丈夫みたいだよ、これは竜人の卵みたいだね」
「みたいって……で、竜人ってさっき入口に居た奴らか?」
「そうだよ」
アイツらって卵生だったのか、あの見た目で卵を産むとは何とも気持ち悪いものだ。……俺はさっきこの卵のことを鶏の卵のようだと表現したが、果たして食べられるのだろうか?
「……ミサキ、食べない方が良いよ、あんまり美味しくないからね」
「ま、まだ何も言ってないだろうが」
こいつは読心術が使えるのだろうか、変なことは考えないようにしておこう。
「……で、その竜人の卵がなんでこんなところにあるんだ?」
「なんでだろう、ここを巣にしてるのかな。だからここに入ろうとした僕たちに襲い掛かってきたのかも」
ここを竜人達が巣にしていた? でもそれならさっきのロボたちがすぐにでも追い出しそうな気がするが。いや、何か追い出さない理由があるのかもしれない。
「卵の下に布が敷かれてる、さっきの魔導絡繰達が育てていたのかもしれないわ」
敷かれていた布の端を引っ張りながらルーシアがそう言った、どうやら竜人達は卵を柔らかい布の上に置いたりするような習性は無いようだ。
「育てていた? あんな奴ら育てて何になるんだ」
「そこまでは分からないね、なにか手掛かりになるものでもあれば分かるんだけど」
「ねえ、こっちに何かあるよ」
ミラベルは何かが書かれた紙を持ち上げている。その紙は朽ちていて、今にも風化して無くなってしまいそうだが辛うじて絵のようなものが視認できる。
「なんだこれ?」
俺がその紙を受け取って悩んでいると、スペンサーが近くに寄ってきて俺の後ろから覗き込んできた。
「どうやらイアド文字で書かれているみたいだね」
「イアド文字?」
「古代遺跡で使われてる文字は大体このイアド文字で書かれてるんだ」
「へえ、スペンサーは読めるのか?」
俺にはこのイアド文字が小さな絵が羅列しているようにしか見えない、本当にこれが文字なのだろうか。そう言えば地球でも古代遺跡やなんかは頻繁にテレビや何かでよく特集されていたような気がする、そしてたいていの場合そういう場所では独自の文字が使われていた。
「一応ね、トレジャーハンターとしての嗜みってところかな」
スペンサーはミラベルから紙を受け取り、それを読み上げていった。すらすらとではなく、手帳を見ながら片言の読み方ではあったが内容は十分に理解できるものだった。
「『竜人の卵を用いた研究について』これが題名みたいだね。
『卵に対する指向性を持たせていない魔力での干渉、卵に聖の魔力を持たせることに成功、が孵化した竜人は一様に竜人としての強みを失っていた』『属性を付与した魔力での干渉は全ての卵が孵化することなく終わった』『研究用の卵は魔機に育てさせることにする』……魔機って言うのはあの魔導絡繰のことかな」
どうやらここに住んでいた連中は竜人の卵を使って色々な研究をしていたらしい、そのことごとくは求めていた結果を残しては無いようだが。
「結局そいつらは何したかったんだ?」
「さあ……ただ研究してただけみたいだね、知的好奇心を満たすためだけだったんじゃないかな」
全く俺には理解できない考え方だ。多少は俺にも知的好奇心のようなものはあるが、難しい研究を自分でしてまでそれを知ろうと思うほど強くは無い。
「『生まれた竜人達は遺跡の中で経過を観察する』だって、この竜人達がここで繁殖を繰り返して外にいた竜人が生まれたのかも」
「そう言えばアイツら変な色してたわね、いつもは青なのに緑に近かったし」
俺は初めて見たので緑色であることに違和感はなかったのだが、どうやら普通の場合は青色のようだ。また機会があれば元の色の竜人を見てみたいものだ。
「変な研究してる奴らも居るんだな……」
「そうだね、まあ面白いと言えば面白いけど」
「さて、他に何かめぼしい物はある? 無いならそろそろ帰ることにするわ」
ルーシアがそう言ったので適当に部屋の中を歩き回る。ふと、卵が一つだけ豪華なクッションの上に置かれているのが目についた、あからさまにその卵だけが特別扱いを受けている。よく見ると色も他の卵とは違っていた。
「この卵は……?」
卵を持ち上げてみると見た目とは違ってその卵は異常に軽かった、まるで中身が入って無いかのようだ。と思ったら下に穴が開いていて本当に何も入っていなかった。
「その卵は竜人じゃなくて竜蛇の卵だね、たしか竜蛇の卵は何百年経ってから孵化するらしいよ。そのせいか生まれた時からかなり巨大らしいんだ」
「これ何も入ってないみたいだ」
「それなら既に生まれた後なのかもしれないね」
竜蛇はどんな見た目をしてるのだろうか、名前からして細長そうだ。そう言えばスペンサーの持っていた道具の中に竜蛇の毒があった、毒を持っているとしたらかなり気を付けて戦わなければいけないだろう。
「近くに居るかもしれない、気を付けた方が良いわね」
「そうかもね。たしか竜蛇は毒を飛ばしてくるらしいから気を付けないと」
毒は飛ばすものだったのか、てっきり噛みついて注入するものだと思っていた。
「竜蛇の毒は当たった皮膚から侵入していって直ぐに動けなくさせる毒なんだ」
「怖すぎるだろその毒……当たるだけで負け確定なんて」
「でもすぐには死なないから仲間が居るなら多分大丈夫だよ」
つまりソロは相性が悪いということか、まあ強いソロなら大丈夫だろうが。
「そろそろ行くわよ、流石にもう何もないでしょ?」
ルーシアの言葉を聞いて俺たちは部屋から出た、廊下を一応確認するが何も居ない。
「一応安全みたいだね」
「そうね」
廊下は相変わらず暗い、この遺跡に居た人間は明かりの一つでもつけなかったのだろうか。……まあ流石にこの暗さで明かりを付けないわけが無いだろうし、長い時間の間に壊れてしまったのだろうが。
「今回は余りお金になりそうなものが無かったね、トレジャーハンターとしては残念だ」
いかにも残念だ、という表情でスペンサーは言った。しかしその顔はあまり残念そうには見えなかった。
「まあそう言う日もあるだろ……ん?」
「どうしたの?」
「いや、なんか変な音が……」
手術の影響か幾らか前より高性能になった俺の耳はその音をとらえていた、俺が聞こえるということは魔術関係の音では無いようだが。その音はしゅるしゅると紙と紙をこすり合わせるような、そんなか細い音だった。
音の方向に目を向けて一瞬、姿を見た。それは腹の鱗を立てそれを石の隙間に引っ掛けるようにして壁を這っていた。体は細長く顔にはひげが生えていて目は無い、目のない代わりに口が顔の大半を占めている。竜蛇は大きな口をさらに大きく開け、毒を吐いた、その毒液はルーシアへと一直線に飛んで行って……
「ルーシア!」
俺は全力で走った、本当ならルーシアを抱きかかえるようにして一緒に離脱したかったのだが、コートのせいで動くのがいつもより遅くなってしまい間に合わず突き飛ばす形になってしまった。そして離脱できなかった俺は全身にその毒液を受けることになった。
「ミサキ!……」
どうやら竜蛇の毒はかなりの即効性があるようで、スペンサーの呼びかける声も殆ど聞こえない。体は指先から始まって体の芯の方へ段々と痺れが広がってきていく。……どんどんと重くなる瞼に抗うこともせず俺は目を閉じた。
次話の投稿は少し遅れるかもしれません




