古代遺跡 ルーシア視点
「……?」
遺跡に入って少し、スペンサーの何か焦るような声が聞こえたので後ろを振り返ってみるとミサキもスペンサーもミラベルも居なくなっていた。ミラベルの出した『光球』は私の近くに浮いているので恐らく死んでは無いと思うが。
しかし一体どうしたことだろう、先ほどまでミサキ達の立っていた場所へ近づいて辺りを検分する。そう言えばいなくなる前には壁画がどうだのと話をしていた記憶がある、それなら壁画が何か関係しているのかもしれない。
「これは……転移魔法陣、ね」
恐らくミサキがこれに触って転移してしまったのだろう。魔法陣の描かれた壁からは既に何の魔力も感じることができない、古いものだし魔法の発動と同時にどこかが壊れてしまったのかもしれない。
ミサキの使ったと思われる魔法陣を使うことはできなさそうだ、つまり自分で探すしかないと言うことか。ミサキはまったく魔力を持たない体質なので私の能力では探しようもないが、ミラベルやスペンサーの魔力は良く覚えているからどちらの方向に居るのかもよく分かる、そちら側に歩いていけば直ぐに会えるだろう。
歩き始めたその時、入口方面から魔力を感じた。先ほど似たような魔力を感じた記憶がある。
「また竜人……懲りない連中ね」
仲間がやられた仇討でもしに来たのかもしれないが、仲間が大勢で挑んで勝てなかった時点で生き残った連中は逃げるべきだろう。
いや、死んでも一矢報いてやるとかそう言う考えなのかもしれない。竜人にどれほどの知性があるのか私は知らないが、そうであるなら少々面白い。
「『水よ』」
入口から入り込んでくる竜人達が莫大な水の奔流に流され外へと押し出されていく。水の後を追うように私も外へ出る。
「ふう、やっぱり外の方が空気が美味しいわ」
すーはーと深呼吸をしてから水浸しの竜人達へ向き直る。何故だかほとんど戦意喪失しているようだ。
「そういえば竜人は水を扱う種族だったかしら」
前の戦いではほとんど瞬殺だったのでその技を見ることは無かったから忘れていたが、竜人は魔力により水を扱う種族だった記憶がある。
大方自分たちの扱う水より凄い水を見てしまったので戦う気が失せた、とかそんなところだろう。
「それでも死んでもらうことには変わりないけど」
竜人達に手を向け、魔力を籠める。いつもなら色々魔法を試してから死んでもらうとこをだが、急いでいるので今回は手短に済ませてもらう。
「『水砲』」
目の前に巨大な水の塊が現れ、見る見るうちに圧縮されて縮んでいく。初めは人間ほどだった水の塊は縮むに縮んで親指の爪ほどの大きさになっている。
その水の玉に掛かっている力の膜に一か所穴を開ける。その瞬間その穴から水の線が伸びる、その線は切れ味のよい剣のように当たるものをスパスパと切って行く。
竜人がばらばらの肉塊に変わったところで火魔法で一気に焼却する。匂いを嗅ぎつけた魔物がいたとしてもこの状況を見れば恐らく逃げ出すことだろう。
木には燃え移らないよう気を使ったが、辺りの草は完全に燃えて灰と化している。
「ちょっと疲れたわね」
一人の時は独り言が多くなってしまう。まあ二人以上の時は独り言なんて言いようがないので当たり前のことかもしれないが。
「……はぁ、めんどくさいわね」
遺跡に戻ろうと振り返った時、唐突に飛んできた水の矢を風魔法で弾いて消し去る。
水の矢が飛んできた方を見れば今までの竜人とは比べ物にならないほどに大きな竜人が居た。
「キングドラゴニュートなんて珍しいのが居るとは思わなかったわ……」
『キングドラゴニュート』はキングの名の通り竜人達の長で、強い。キングは眼を血走らせてこちらを睨んでいる、どうやらやる気満々のようだ。
ただの竜人なら媒体無しの魔法でも簡単に八つ裂きにできるが、キングとなると流石に難しい。さっき使った『水砲』もキング程となれば効かないことだろうし、キング相手に水を使うなど愚の骨頂だ。
なので攻撃を魔法から矢へと変更する。点の攻撃力なら魔法よりも矢の方が高い。
まず牽制に矢を放つ。キングは軽々とそれを避けてこちらへ水の矢を飛ばしてきた。この程度の攻撃なら風魔法で楽に防ぐことができる。
キングの放つ矢を防ぎつつこちらも魔力を籠めた矢を放つ。
「ぎっ!」
その矢を避けたキングがくぐもった悲鳴を上げて地面へ落ちた。警戒しつつ近づいていく。その後頭部には矢が一本突き刺さっていて、キングは見事に絶命している。
あらかじめ風魔法を付与しておいた矢はキングを通り越したところで方向を反転させ、キングに刺さったのだ。
「所詮は魔物ね」
強かろうとも頭は良くない。だから簡単な搦め手にやられてしまう。それでもキングの素材は需要が高い、私は簡単にキングの羽の飛膜をナイフで切り取り、バッグへ入れておく。
先ほどの竜人と同じように焼却した後、遺跡へとまた戻って行く。
「余計な時間を食ったわ」
舌打ちを一つ、早歩きで中を進んでいく。こういった遺跡の中を探索するのは得意ではないが苦手なわけでもない。そのうちミサキ達には会えるだろう。
何故だかミサキ達は相当な速さで移動を繰り返しているらしく、一定の場所にとどまると言うことをしていない。この様子だと見つけるのにはなかなかの時間が掛かりそうだ。
……何だか面倒になってきた。少し反則を使わせてもらおう。
「『見水』」
私の足元から水がどんどんと流れ出ていき、その水が遺跡全体へと広がっていく。
魔法により出した物体の場所や形状は修行を積むことにより細かく分かるようになる。私は数年に及ぶ練習によりこうして水魔法で頭の中に地図を作ることができるようになった。
遺跡攻略の楽しみが薄れてしまうためいつもは使わないようにしているのだが、今日は良いだろう。
これにより分かったが、どうやらミサキ達は何かに追われて逃げているようだ。逃げていると言うことはつまり危ないのだろう、急がなければ。
うっとおしい魔導絡繰を火魔法で焼却しつつ、風魔法の支援を自分に掛けながら全力疾走で向かう。二つ以上の魔法を同時に使うには制御の為に杖が無いといけないので、片手が塞がるのがネックだ。
ミサキ達の前に立っている魔導絡繰を見据えて私は魔法を放つ。
「『炎海』」
無詠唱の火魔法とは比べ物にならない炎が魔導絡繰を呑み込んだ。




