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魔導絡繰《マギ・ギア》

 とりあえず辺りを見渡すが、特に気になるものは無い。目に入るのは石で出来た壁ばかりだ。


「とりあえずは安全みたいだね、まずはルーシアと合流しよう。ミラベル、場所は分かる?」

「場所は分かるけど……そこまでの道は分からないよ」


 なんでも遺跡に入るときに発動させた光魔法がルーシアの近くを漂っているらしく、その魔法の位置が感覚で分かるらしい。


「とりあえずその方向に向かって行けばいいさ、別に急いでるわけでもないしね」


 俺たちはミラベルの指し示す方向を目指して適当に進む、きっとすぐに会えるだろう。

 少し歩いているとガチャガチャと騒がしい音が聞こえてきた、金属と金属がぶつかり合うような音だ。


「ミサキ止まって、敵かもしれない」


 スペンサーに言われて息をひそめてしゃがんで対象が近づいてくるのを待つ。道の奥から歩いてきたのは装飾過多というか、大量の鉄の装飾品を付けたヨロイのようなそんな二足歩行の――ロボットだった。地球にあったメカメカしいロボではなく、鉄の破片をつなげて動くようにしただけのような見た目をしている。


『侵入者のようだ』『侵入者は捕獲?』『捕獲はしない』『なら無視?』『無視は危険だ』『ならどうするの?』『殺すべきだ』『マスターの許可は?』『現状は急を要するだろう』『敵は三体、こちらは一体、増援は?』『必要ない』『武器はどうする?』『通常通り』


 ロボットの声は二種類だが、一体しか居ないし声もそのロボットだけから聞こえている……一人二役なのか。


「この遺跡の警備ロボってところかな」

「……どうやらバレてるみたいだね、危害を加えてくるタイプの魔導絡繰マギ・ギアじゃなければいいんだが」

『侵入者は?』『抹殺すべし!』


 腹の部分に手を突っ込み、そこから何かを引っ張り出しながらロボはそう言った。


「向こうはやる気満々みたいだぜ」

「どうやらそうみたいだね」


 ロボが取り出したのは巨大な鉄の棍棒と長大な鉈だった。そして右手に棍棒を、左手に鉈を持って構えている。


「魔弾『貫き』!」


 まず最初に放たれたスペンサーの魔弾はロボットに当たる直前、向かってくるロボの鉈によって真っ二つに切り裂かれて棍棒で地面に叩き落された。


「これじゃ終わらないよ!」


 いつの間にか両手に魔銃を持っていたスペンサーは絶え間なく魔弾を浴びせかける。しかし、そのことごとくは叩き落されるか、切って捨てられた。


「くっ、それなら……!」


 スペンサーはコートに手を突っ込み、新たに二丁魔銃を取り出した。両手に二丁ずつ、計四丁の魔銃で集中砲火を浴びせる。単純に今までの二倍の量の弾がロボに襲い掛かる……だがロボの方も負けじと棍棒と鉈を振る速度を速めて対応する。


 ロボは弾丸を切りながら、少しずつスペンサーへの距離を詰めてきている。


「あ、ちょっと不味いかな」

「どうした!?」

(魔力)切れみたいだ、ミラベル! ポーションを頼む!」

「先に準備しといたよ!」


 言われると分かっていたのか既にミラベルは横で瓶のふたを開けていて、その瓶の中身をスペンサーに飲ませる。


『打!』『斬!』『同!』『撃!』 


 そこを狙ってか唐突に加速したロボがでかい声を上げながらスペンサーとミラベルに棍棒と鉈を同時に叩き付ける、スペンサーはミラベルを抱きかかえるようにして横に転がった。


「スペンサー!」


 俺は追撃を加えようとしているロボの後頭部(と言っても目もないのでどっちが前か分からないが)を獣化させた腕の爪で切り付けた。一応傷は付いたようだが……重大な傷というほどでもなかったようで、今度は俺の胴体向けて棍棒をふるった。


「あ、ぐっ」


 棍棒の先が俺の右手を掠めた、右手があり得ない方向へと向いている。


「ちょ、俺の手のひらが肘に当たってるんだけど!」


 できるだけ陽気な、というか的外れなようなセリフを吐くことでネガティブな状態にならないようにしている。効果があるかは分からないが。

 しかし俺の決死の攻撃はなんとかロボの気を引くことはできたようで、スペンサー達は追撃を免れていた。


「魔弾『炎』!」


 飛来した火の玉がロボに直撃し炎が右手を包む、その火は相当な熱量を持っていたらしく金属の腕が溶けて地面に落ちた。一緒に鉄の棍棒も落ち、大きな金属音をあげた。


「どうやら炎に弱いみたいだね」


 ロボを挟むようにして向こう側、スペンサーがロボに銃を向けている。


「形勢逆転、これで終わり!」


 四丁の魔銃から放たれた赤い弾丸は()と鉈に防がれた。


『油断した?』『油断はしていない』『だけど当たったよ?』『直ぐに直る、問題ない』


 ロボの右手からは真新しい腕が生えていて、元の腕は地面に転がっている。


「修復機能持ちか、これはさすがに厳しい……ミサキ! 逃げるよ!」

「分かった!」


 スペンサーはミラベルを肩に抱きつつ、ロボのわきを抜けてこちらに走ってきた。俺もそれに続くようにして走る。


『逃げ出した、追う?』『そうすべきだろう』


 ロボは一拍遅れてこちらを追ってくる、桁違いに早いわけではないのだが恐らく向こうの体力は無尽蔵にあるだろうしすぐに追いつかれてしまいそうだ。


「ミサキちゃん、手を見せて。『治癒』」

「おお……!」


 ミラベルが呪文を唱えると同時に腕の痛みが消え、折れていたはずの骨はまっすぐに戻っていった。


「スペンサー、どうするんだ?」

「こうする!」


 スペンサーがコートから一つの小瓶を取り出してロボに投げつける、狙い違わずその瓶はロボへの直撃コースを一直線に飛んでいった。


『邪魔だ!』


 小瓶は一刀両断され、小瓶の中から白い液体が辺りにまき散らされた。


『む、小癪な!』『ネバネバ、どうする?』『無駄だ!』


 まとわりつく餅のような物体に一瞬動きを止めたロボだったが、餅のような物体の付いた部分を()()()ことで直ぐに動けるようになった。


「スペンサー、あんまり効いてないっぽいぞ!」

「じゃあもう一回、食らえ!」

『同じ手は食わん! ……む?』『投擲失敗?』『そのようだ』


 スペンサーの投げた瓶はロボに当たる前に、落下し始めてそのまま奴の足元へと落ちた。落ちた瓶は音を立てて割れ、その瞬間大爆発を起こしロボは爆炎に包まれた。


「これは?」

「炸裂ポーションだよ、それも僕が特別に調合した特別威力の高いやつのはず……なんだけど」


 未だ大きな炎を上げている爆心地からのロボが勢いよく飛び出してきた。


『危なかった?』『問題ない、防御術式は正常に作動した』

「流石に無傷とはね」

「他には! 何か無いのか!?」

「無いこともないけど……」


 そう言ってスペンサーは走る速さを落として真後ろを向いた、そしてミラベルを横に下ろして銃を構える。


「どうしたんだ?」

「行き止まりみたいだし、これは腹くくるしかないかなーって」


 ロボにばかり気を取られていた俺は壁に気付かず、勢いよく壁に激突した。


「ぐっ」

「大丈夫かい?」

「ま、まあ大丈夫だ」

「なら良かった……魔弾『炎』」


 スペンサーの銃が文字通り火を噴いた、しかし発射された無数の火の弾丸はこれまでと同じように捌かれてしまう。


「仕方ないか、出来れば使いたくなかったんだけどね……これを使うと魔力がすぐ無くなっちゃうから」


 銃をしまったスペンサーがそう言って取り出したのはメリケンサックのような、指と指の間に短めの筒が四つ付いている、そんな謎の物体だった。そんな謎の物体を両手に装備したスペンサーはそれをロボに向ける。


「魔弾『火炎』」


 八つ全ての筒から火のレーザーが発射された。そのレーザーの何本かは外れて壁を溶かしたが、殆どはロボに命中しその体を焼いた。


「はあっ……はあっ……」

「大丈夫か?」


 スペンサーは膝から崩れ落ち、四つん這いになって荒い息を上げている。


「だ、大丈夫だよ、……ただの魔力切れだから、み、ミラベル、ポーションを」

「今飲ませるから、待っててね」


 穴だらけになって崩れ落ちたロボに目をやる、流石にこれは効いたようでピクリとも動いていない。


「一応、倒せたみたいだね……もう二度と戦いたくないよ」


 ミラベルにポーションを飲ませて貰ったようで、真っ青だったスペンサーの顔色は大分良くなっている。


「スペンサーは何回も遺跡には行ってるんだろ? こういうのは居なかったのか?」

「ここまで強いのは初めてだね、いつもは弱い奴らが一杯ってのばっかりだったから。……それにしても随分移動しちゃったね、余計にルーシアの場所が分からなくなったなあ」

「魔法の効果も切れてるから、もう場所分からないよ」

「じゃあ地道に歩いて探すしかないな」

「そうみたいだね」


 そんなことを言いつつ、また歩き出す。もう壁画には絶対に触らないと決めたので出来るだけ壁から離れて歩く。


「ところで、さっきの武器は何なんだ?」

「あれに名前は無いよ、僕が作った武器だからね。まあ魔銃を四つ繋げただけのものだけど」


 ハンドメイドの一点物のようだ、あのえげつない火力の武器が一般的なものでなくてよかった。そうだったら俺みたいな近接主体の冒険者が駆逐されてしまう。


「でも、これを使うと本当に一瞬で魔力が無くなっちゃうから長期戦には向かないんだよね。短期決戦専用の武器なんだ」

「へえ」


 今ではさっきのメリケンサック状の魔銃は既にしまわれていて、ハンドガンタイプの魔銃を手に持っている。


「……何か聞こえないか?」

「? 別に聞こえないなあ、何が聞こえたんだい?」

「なんだか()()()()()()と金属同士をぶつけるような――さっきのロボの足音みたいなのが」


 音が聞こえる方向は前の方から、それも大量に聞こえている。


「それはどうやら間違ってないみたいだよ……ほら」


 そう言ってスペンサーの指さした先には、さっきのロボと同じ形状のロボがいた。そしてそのロボの()は――道を完全に塞いでいた。


「ハハ、これは絶対絶命って奴かな」

「良くそんな軽口言ってられるな」


 絶体絶命、さっきのロボに会った時点でこんな状況は想像していたものだけれど、それがこんなにも早く来るとは全く持って思っていなかった。


『侵入者は?』『抹殺だ』

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