トレジャーハンター+魔導師
こういうのやってみたかったんです。
ステーキを食べ終えてすぐにルーシアが口を開いた。相変わらず食べるのが早く、俺が食べ終わる十分前には既に食べ終わっていた。
「時間も遅いし、そろそろ宿に行きましょう。ミサキの分の部屋も取らなくちゃね」
「こんな急に取れるのか?」
そう言うとルーシアは大丈夫よ、とだけ言った。
《「ね、言ったでしょ?」
部屋は簡単に取ることができた、なんでもこの宿は何故かいつも過疎状態らしい。宿の経営者からしたらたまったもんじゃないだろうが、俺のような人間からすれば非常に好都合だ。
「料理も不味いわけじゃないのに、なんでこんなに人が少ないんだ?」
「さあね、私も詳しいことは知らないわ」
まあどうでも良いか、気にするほどのことじゃないだろう。
店員から鍵を受け取り(鍵というよりはカードキーに近い、何でも鍵と扉には特殊な魔導合金を使っているらしく近づけると独りでに扉が開く)言い渡された番号の部屋に入ると、最初に目に入ったのは二つあるベッドだった。
「なんでベッドが二つあるんだ?」
「ああ、それは私も一緒に暮らすからよ」
え、と気の抜けた返事をしてしまった。
「ど、どうして……?」
「決めたの、私ミサキをパートナーにするってね!」
聞けばパートナー契約を結んだ人間同士は寝食を共にし、死ぬまで一緒に暮らすらしい。簡単に言えば結婚のような制度なのだとか。
「い、いやそう言うのはもう少しじっくりと時間を掛けてから、決めるべきだと俺は思うんだが」
「大丈夫よ、私はちゃんとミサキを愛してあげるから!」
男だった時の俺ならまだしも今俺は女なのだ、そしてルーシアもまた女なのである。これが意味するところは……
「私はね、ミサキを初めて見た時からずっと何か感じていたの。それが何なのかさっきミサキがSランクになった時確信したわ、私はミサキをパートナーにするために今まで生きてきたんだ、ってね! だって偶然連れてきた動物が獣人で、それも冒険者になってみれば私と同じランクだなんて……それに私は基本的に後衛タイプなんだけどミサキは前衛タイプだった、そういう意味での相性も私たちはかなりいいと思うの。こんなことあり得ると思う!? これは絶対運命だと思うわ! それに昔から私は猫が好きだったの、それも茶色の毛色をした猫がね。それでミサキの耳の色は私の好きな茶色なのよ、それも猫と同じような形のね! まあミサキの獣人として元になった動物は猫じゃないみたいだけど、そこもまたそそるわ」
ルーシアには申し訳ないのだが、鳥肌が立った。とんでもない剣幕でまくし立てるルーシアに俺は正直言って気持ち悪いと思う。ルーシアってこんな奴だったっけ? 段々と近づいてくるルーシアに対して後ずさりで離れながら思った。
「どうしたの? 固まっちゃって。もしかして照れちゃった? 私はね……」
沈黙をどう受け取ったのかルーシアはさらに何か言っているが、俺はその恐怖に何も言うことができず体も硬直してしまっている。
「……ねえ」
急に喋るのをやめてルーシアがじっとこちらを見つめてきた、いや見つめるというよりは睨みつけると言った方が正しいかもしれない。
「なんでさっきからさっきから何も言ってくれないの? もしかして……私のパートナーになるのが嫌なの……?」
少し前まで上機嫌だったのに急に不機嫌になったルーシアが俯いた。心なしか震えているような気がする。
「そんなの……絶対イヤ! 絶対にそんなの許さないわ! ミサキは私のペットになるのよ!」
「流石に無理だろ……それは」
ふと、気が付けば俺は火に油を注いでいた。それは殆ど無意識のうちの行動だった。
「イヤ……嫌……イヤぁあああぁあ!」
そんな悲鳴を上げながらルーシアは体当たりで俺を地面に押し倒した、その顔はまさに鬼の形相だった。
「それならいっそ……」
ルーシアはぶつぶつとそう言いながら腰の短刀を抜いて俺の首へと狙いを定めて》
「――う、うわああああああああ! ……い、ってえ」
俺は悲鳴を上げながらベッドから転がり落ちた、その時に頭を床に強く打ってしまった。頭にたんこぶができていないか確認がてら頭を撫でつつ、立ち上がる。
「まったく、空恐ろしい夢だった……」
部屋に一つだけのベッドに腰を下ろし、昨日買った房楊枝で歯を磨く。房楊枝は知識としては知っていたが使うのはこれが初めてだ(まあ現代日本において房楊枝を使う機会が存在したとは思えないが)。
レッドドラゴンを討伐して帰って来てから約3週間、俺は近場であるゴブリンの討伐依頼ばかりを受けて少しずつ(レッドドラゴン討伐の報酬と比べると本当に微々たるものだ)貯金を増やしていた。
なんでも見習い冒険者はこうしてゴブリンを狩ってお金を貯めるものらしい。俺もそれに習ってみようと思ったのだ。
「ねえ、いい加減もっと上のランクの依頼を受けたらどう?」
「って、うあぁああ!」
いつの間にか部屋に入ってきていたルーシアを見て俺は尋常じゃない悲鳴を上げながらベッドから転げ落ちた、さっきの夢がトラウマのようになっている。
「な、なに? そんなに驚いてどうしたの?」
「あいやさっき見た夢のせいでな……」
「ふうん……?」
ルーシアは時折何も言わずに俺の部屋に入って来る。一応鍵は掛かっているのだが、ルーシアレベルまで魔法の扱いがうまくなると鍵に使われている魔力認証装置に対して俺と同じ波長の魔力を発することができるらしい。
「そうだ、さっき面白い依頼を見つけたのよ」
「面白い依頼?」
大抵の場合ルーシアがこう言って持ってくる依頼はろくでもない物ばかりなので、あまり期待はしていない。
「古代遺跡の調査ですって、どう? 面白そうじゃない?」
「古代遺跡……か、確かにそれは」
結構面白そうだ、そう言うとルーシアは直ぐに俺の腕を掴んだ。
「そう? じゃあ早速行きましょう!」
「いやいや、待て、俺はまだ行くとは言って……」
そこまで言いかけて俺は途中で言葉を切った、今のルーシアの目を見て断れるものは少ないだろう。どんな目だったかは想像にお任せするが。
「……分かったよ」
「決まりね!」
俺は引きずられるようにして宿屋を後にした。
「ちょっと待ってくれ、俺はまだ朝ご飯すら食べてないんだ」
「じゃあちょっとそこで食べていきましょう」
ギルドへ向かう道すがら俺たちは食事処と書かれた看板が立てかけられている店に入った。
三週間の間俺は文字も勉強していたので、妙な慣用句でもなければ大抵の文章は読めるようになっている。たった三週間で見知らぬ言葉が読めるようになるのか? と疑問に思うかもしれないが、この世界の文章はほとんど日本語をローマ字に直したような文なので文字さえ覚えれば文章は簡単なのだ。とは言っても料理名は地球と違うモノばかりで未だに覚えられないが。
簡単に食事を済ませて俺たちはギルドに来ていた、ギルドの中は相変わらずむさ苦しい男ばかりで長居はしたくない。
「で、その古代遺跡ってなんなんだ?」
「あらゆる場所に唐突に出現する建物、それが古代遺跡よ」
なんだか想像していたのとは全然違うものだった、古代なんて言うもんだから文字通り古代からある建物なのかと思いきや。
「全然古代じゃないな」
「古代って言われてるのはね、出現した建物がすべての場合において著しく劣化してるからよ。それこそ何百年も昔からそこに有ったかのようにね」
説明を聞いていると非常にファンタジーなモノのようだ、しかしそんなものに入って危険は無いのだろうか?
「危険は無いとは言い切れないわね、だってそれを確認するためにも私達が行くんだから」
「そういや、そうだったな」
冒険者の仕事は大きく討伐、採取、護衛、調査の四つに分けられる、字面で大体分かるだろうから前者三つの説明は省かせてもらう。仕事の中でも調査は他の四つと比べて毛色が違う、調査以外の三つの仕事は戦闘が主なのに対して調査は戦闘が本分ではない。もちろん後で来るであろう専門家のためにある程度危険な生物の討伐は必要ではあるのだが、最も重要なのはそこ自体が安全かを調べることにある。
「そこのお嬢さんたち、ちょっといいかな?」
唐突に、と言っても単に俺が気付かなかっただけなのだが、男が話しかけてきた。男はつばの曲がった帽子(テンガロンハットというのだろうか)を被っていて、足首まである長い丈のコートを羽織っている。
「なによ?」
「君たち新しい古代遺跡に行くんだろう? だったら僕達も連れて行って貰えないかと思ってね」
ルーシアの高圧的ともとれる態度を対して気にした様子もなく、彼はそう言った。
「僕達?」
「ああ、僕と彼女だ」
そう言って男が指さした先には長い杖を持ち、ローブを着た髪の長い女性が居た。女性はおどおどとしていて、ハッキリ言って挙動不審である。
「あんたは」
誰だ? という俺の台詞に割り込むようにして彼は口を開いた。
「僕はスペンサー、一応トレジャーハンターってのをやってたりする。それで彼女はミラベル、僕のパートナーで魔導士だ」
「え、えっと……ミラベルです」
女性、ミラベルは一言そう言うと直ぐスペンサーの後ろへ隠れてしまった、臆病な猫のような女性だ。
「僕達もあの遺跡には行きたかったんだが二人じゃ流石に心細くてね……そこで遺跡の話をしている君たちを偶然見つけたんだ」
スペンサーはそう言って被っているテンガロンハットを、顔が良くえるような位置まで持ち上げた。
「ふうん……俺は別に良いと思うけど、ルーシアは?」
「まあいいんじゃない?」
ルーシアがそう言うとスペンサーはあからさまに安堵の表情を浮かべた。
「じゃあスペンサー。俺はミサキだ、よろしく。あとミラベルもよろしくな」
そう言って差し出した手をスペンサーはタイムラグなく握った、手袋をしているのでどんな手なのかはうかがい知れない。握手をして直ぐにミラベルとも握手しようと手を差し出したのだがミラベルはまたスペンサーの後ろに隠れてしまった。
「ああ、よろしく」
「よ、よろしくお願いしますぅ……」
俺との挨拶が終わり、スペンサーとミラベルはルーシアへと向き直った。
「私はルーシア、言っとくけど足引っ張ったら置いてくからね」
「ハハ、まあできるだけの努力はさせてもらうよ」
何故だか高圧的なルーシアをものともしないこの男は案外凄い奴なのかもしれない、というかなんでルーシアはこんな態度なのだろうか? ミラベルの方は怯えて震えているというのに。
「どうやら遺跡は結構近くにあるみたいだし、早速行こうじゃないか」
いつの間にか主導権がスペンサーに握られていた、まあ俺はむしろ他の人間に指示される方が楽だから好きだが。
「遺跡はここから結構近いところにあるようだし、早速行こうじゃないか」
件の遺跡はソヴィ公国から徒歩で2時間ほどの場所にある森の中に出現したらしい、今は大体8時くらいなので十分日帰りで帰ってこれるだろう。
誤字脱字等あれば教えて貰えれば幸いです。




