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 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません


 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等は禁止しております


 以上の点をご理解の上、お読みください


 自分が土を踏む音が大きく聞こえる。

 偉大なる師がいうには、日常の音が大きく聞こえるときは平常心ではないらしい。しかし、それは決して悪条件ではなく、自覚できる信号を逃さず、自らを律するためにその音を聞くべきだそうだ。


 「まさか、こんな抜け道があるとは思いもしませんでした」


 「……この髪の色は目立つ。染め粉は忘れていないな?」


 「勿論です。ですが、よろしかったのですか?」


 「私の罪がアレだ。ならアレは裁かなければならない。裁くというのなら、知らぬフリはできない」


 黒い髪に北の森独特の服で闊歩するつもりはないぞ、と王は冗談めかして言う。王が慣れない帝国式の服に腕を通しているのは慣れず、肩をすくめて答えておいた。今の自分は護衛兼従者ではあるが、お忍びだ。なれない大地はお前に踏まれるのは心外だと音を立てて抗議してきている。


 「鴉様、まずはどちらに向かいますか?」


 「城へ」


 「羅沙城ですか? 流石に案内できませんね。一度、ドラゴンで突っ込んだことはありましたが、隠密行動ができるほどは内部を知りませんが……」


 「構わない。国は違えどお前は軍人。この服も軍服である。顔を見られない限りは誤魔化せるだろう」


 「ええ」


 頭領の地位を退いたと言っても、この人は王なのだ。

 城へ向かうために王を腕に抱く。何の抵抗もされないという信頼がむず痒い。貴族街の見回りなどないも同然。なんならこの街では商人たちの倉庫の方が計算された緻密な見張りが行われているだろう。

 高い城壁までたどり着いて、王を見る。王はおれの腕から出て、見知った道を歩くように迷いなく進んでいった。門は勿論避けている。王の後ろに従って歩くと、土蔵があった。護衛も立っていないのだから城には繋がっていないだろう。


 「鴉様?」


 「黙ってついてきなさい」


 「は、はい。土蔵ですか……。埃をかぶってますね」


 「手を伸ばしたくなる国宝たちだが、盗人になるつもりはないぞ」


 「国宝ですか? この埃を乗せた箱の山が」


 「城外の土蔵に詰められるレベルだがな。こちらだ」


 王が進んだ先、土偶の床。他の所と同じように埃が溜まっていて違う点がわからないが。

 王が埃を払った場所にくぼみがある。王に倣って自らも屈み、その扉を開ける。床下に抜け道とは、古典的だ。


 「本来は城内から城外へ逃げる道なのだろうが、繋がっていればどちらが入り口かなど問いはしまい。地下は都合がいい」


 「わたしが先に降ります。鴉様は後ろからついてきてください」


 「ああ。任せたぞ、東」


 「お任せください」


 なぜ王が他国の王城の抜け道を知っているのかなど、自分が問うことはでない。明かりもなく黒い瞳は闇の中を見にくいという。着なれない服がすれて音を立てるのが気になる。履きなれない靴が道を踏む音がやけに響くような気がする。真後ろには守るべき王。全方位自らが警戒するしかない。ここは敵地だ。

 速くなる鼓動まで自覚して、深呼吸。


 「地下水路のようですね」


 「ああ。道側が城方面だな。道案内はする。進もう」


 「では前後を交代いたします」


 やはり王の足に迷いはない。知っているのか、何かの道しるべがあるのか。

 しばらく進むと人の気配が強くなった。どこからか明かりも漏れてきている。水路の上、格子がはめられている場所からだ。排水溝になっているらしい。いくつもある排水溝の内の一つの下で、王は足を止めた。上を見上げ待機の合図をされている。

 王に倣って排水溝から見える限られた世界を見上げた。王城のはずだが、あまり明るくはされていない。牢獄のようなものだろう。

 その狭い世界の中で、空色の瞳がこちらに向けられていた。何をしているのですか? とばかりに不思議そうにこちらを見ている。


 (なるほど、世界会議まではキセトを投獄することにしたのか、羅沙は)


 空色の瞳に映るように少々大袈裟に手を振る。キセト側からは鴉様が見えていないはずだが、まあ、キセトのことだし居るのはわかっているだろう。

 排水溝が外され――牢獄の排水溝なんてものが簡単に外せるはずないのだが、そこはキセトだ――、地下水路の天井から生首が一つ垂れる。おい、羅沙。城の牢獄の設計間違ったんじゃないのか?


 「鴉様まで、いかがされたのですか?」


 「世界会議の前に聞いておきたいことがあるって、鴉様がな。お前は息子と妻とは話せたか?」


 「龍道とは話しました。羅沙皇族として発言した以上、羅沙の民への責任を果たしたいと話してくれました。亜里沙はまだですが、体調はよくなっていると聞いています」


 キセトは万事うまくいっているという様子だ。見慣れない微笑みすらも携えて、何一つ不満はないという顔。


 「鴉様のご用事はこのままでよろしいですか? 必要なら降りますが」


 「そのままで結構。『人でありたい』それが今のお前の在り方なのだな?」


 「はい。鴉様はそのためだけにここへ?」


 「だけではないが、確認せねば帰れなかった」


 キセトを決してキセトと呼ばず、人でもない兵器として育てた王。そのことに賛同しているわけではないが、この二人の会話はきいている方が肩透かしを食らった気持ちになる。キセトの素の対応に人間らしさがないせいで、当事者同士の会話で地雷が爆発することはあまりない。

 おれは思う。王からキセトへの嫌悪さえなければ、優秀な治政者と相性も実力も文句なしの逆らわない手ごまで、ベストコンビだと。


 「世界会議では『貴様に罪があるか』が議題になるだろう。兵器が傷つけたことに責任などありはしない。兵器が傷つけた者への責任は兵器を扱った者のものだ。私であれば、『貴様に罪なし』とするだろう。しかし、貴様は人でありたいといい、他の者もそれを受け入れている。貴様が人であるならば、貴様が責任を背負わなければならない」


 「人でありたいという願いを持ったことを、貴方なら否定なさいますよね」


 「むろん、私ならば否定する。しかし、不知火の頭領は私ではない。兵器も次の世代が管理しなければならない。次の世代が兵器を愛したとしても、私は否定したりはしない」


 「……そうですか」


 王がキセトを見上げる。それだけだと頭を振って王は水路を歩み始めた。まだ奥に進むのか、とその後ろに着く。一度だけ振り返ると、キセトは頭を引っ込めて排水溝を直すのに苦労しているようだった。微笑ましいと小さく笑い、深呼吸。

 また服のすれる音が、進む足が道を踏み音が戻ってくる。警戒のため前方を視界に収め、すぐに全方位を確かめるつもりだった。前方にいた、気配も生気もないかつての羅沙皇帝の姿を見るまでは。


 「……将敬。亡霊として生まれ育った城に漂うとは、皇帝でもあったものが情けない」


 「雛鴉に言われる道理なし、と。『炎』とは話せたか?」


 「将敬はアレに名前を与えたのか」


 「あの子は兵器ではない。育てるべき次世代だ。それに、私の血肉を受け継ぐ子でもある」


 「改良する余地があるだけの兵器だ。こればかりはお前と意見が合わない」


 王はそれで終いだと告げて、羅沙将敬(亡霊)もふわりと消えた。おれの視線から何かを感じたのか、王はぽつりぽつりと語り始めた。


 「将敬は城を彷徨っているだけの亡霊ではない。アレをどうにかこうにかしようというのなら、将敬を言い伏せる準備をしなければならないとイカイに伝えておかねばな」


 「死者を説き伏せる準備ですか。どんな交渉素材があるんですか?」


 「私には理解できないし、決して認められないことだが、将敬はアレに炎という名前を与え、愛でている。ならもちろん、交渉素材はアレに関することだろう」


 意外だと思った。それを隠さず表情に出す。

 いや、意外だろう、これは。この王はキセトを兵器と扱い、キセトという名前を呼ぶことを嫌っている。『キセトと呼ばれるべき孫は死んだ』という主張をされている。それでも「炎」という名前が与えられ、他者から愛でられているという事実はこうも簡単に受け入れられているのだ。


 「意外か。私は決してアレの存在を否定しているのではない。アレの在り方を指定しているだけだ」


 「それでも、『キセト』とは呼ばないのでしょう」


 一歩踏み込んで、王の前でキセトの名前を口にする。王はおれを品定めし、なおかつ口を開いてくれた。今までであれ、ここで口を閉ざしていただろうに。おれが選ばれたのか、タイミングがよかったのか。


 「それは私の孫の名前だ。明津君が考え、雫が産んだ、私の第一の孫の名前だ。それで呼ぶべき子はもう命尽きたのだ」


 「では、今、この世界で『キセト』と呼ばれている、今さっき話したあいつは誰の子なんですか? 何者なのでしょう」


 「……誰の子でもない。『結晶』に魅入られた神候補。人間がこの世界で繁栄するためにアレを神にするわけにはいかない。だから、アレを繋ぎとめる存在は重要だ。それが羅沙将敬であり、不知火亜里沙であり、峰本連夜なのだろう」


 「鴉様はあいつをどこに繋ぎとめるおつもりですか? 人間と言う種族ですか? 術士という種族ですか? それとも生物という大きな括りですか?」


 「人間と近しい場所に繋ぎ留められたアレに『それでもお前は人間ではない』と楔を打つのが私の役目だ。自らの罪は自らでけりをつけなけばな」


 王が答えをずらす。王は微笑む。これ以上は答えられないと明瞭に示し、来た道を戻っていった。護衛でもあるおれはその後ろをついて行くしかない。


 「東、世界会議の場にお前を護衛として連れて行く。私も同行するが発言を期待するなよ。退いた老人が出張ってもいいことなどない」


 「それはわたしにあまり物を言うなということでしょうか? 鴉様はわたしとそう年齢は変わらないでしょう」


 「現役のお前と一緒にしないでくれ、東。現役のお前が持つ人徳だ。適切な場所で適切な発言をすればいい。帰ろう、私たちの国へ」


 王の後ろを歩みながら、ああ、どうしようもないなと自分に呆れる。結局この王が「私たちの国」というだけで喜んでいる。


 「ええ、帰りましょう。貴方を無事に不知火までお届けすることが今のわたしの仕事です」


 この王がキセトについてどう思っていようが、おれはこの王に尽くすことを決めたのだ。不知火に従事することを決めたのだ。結局、この王が何を犯していたとしても、王に守られてきたおれは共犯者だという意識を持たなければいけない。キセトがこの王の罪だというのなら、おれの罪でもあるはずだ。


 「わたしは不知火の共犯者ですから、なんでも命じてください」


 王を民が孤独にしてしまった先に、国の繁栄などない。次の世界会議で世界は変わるだろう。その中でも不知火という国を守りたいなら、おれたちが王に寄り添わなければいけないのだから。


 * * *


 「はあ」


 すぐ下が水路なのか水の流れる音がする。連夜の耳には違う音も届いていたが、連夜はそれを無視していた。キセトはそんな連夜を見て、先ほど直したばかりの排水溝に視線をやりながら、大きなため息に応えてやった。


 「わざわざ訪ねて来てため息とはどういうことだ」


 「いや、こんなじめじめした場所でじっとするのはなー。変な奴もいるし」


 「………」


 牢屋の中のキセトと、外の連夜。そして二人の視線の先には鉄格子を体の真ん中に通して遊ぶ亡霊。

 いきなり半透明の主が現れた時はキセトも小さな悲鳴を上げたのだが、この亡霊はそれすら楽しんでいた。ここまでこの亡霊の案内で来た連夜も、触れられない幽霊のふんわりとした体(肉体でもないのにそいういうのもどうかと連夜は思うが)で遊ぶ亡霊に話しかける。


 「鐫様、何してるんですか」


 「ん? ああ、時間つぶし。暇だしね」


 (亡霊)はふわりと体を滑らせ、連夜の隣にくると屈む。視線を下にやり、何かを見たのちに視線を連夜にやった。下の水路を進んでいるだろう誰かを見たのか、その水路にいる何かを見たのか、ただ床を意味もなく見たのか、連夜とキセトにはわからない。


 「ちょっと話をしようか。キセト君も聞いて」


 鐫は生前と同じ声で、二人にお願いをする。自由を重視する鐫は命令の意味を込めることはあまりない。

 連夜とキセトの視線を受けて、鐫は満足げに笑う。いつでも笑っている人だったな、と連夜とキセトは懐かしんだ。


 「僕ら『人間』にはね、【道】が存在する。精神と体を繋ぐ道であったり、世界と自分の存在を結ぶ道であったりする。この【道】に他者は存在しない。そこには自分しか居ない」


 「――そして、言うならば、今この地下牢には連夜君とキセト君しか居ないということなんだよ」


 意味が分からないな、と連夜は思った。もはや聞く姿勢を崩し、首を傾げる友の観察に意識を向ける。鐫はわかってるぞ、とばかりに連夜の前で手を振った。


 「何も言わず、聞いて。(亡霊)がここに居ると感知していることはおかしくない。僕は自らの存在を君たちの【道】へ移行させたんだ。自分の【道】が壊れていく中で、欠片を君たちの【道】に紛れさせた。僕の体が死ぬその瞬間に立ち会った君たちにだからこそできたことで、賢者の一族として特殊な力を受け継ぐ僕にだからできたことだよ」


 「――条件が整えば、君たちの【道】に存在する欠片から、こうやって外部で一定の存在を示せる状態になるってだけ。だから、ここにいる僕は君たちでもあるんだ。間違いなく羅沙鐫なんだけど」


 訳が分からないという顔をしていたのは連夜だけではなく、キセトもそうだった。まあ、そうだよね、と鐫はふわりと宙に浮く。思考は間違いなく羅沙鐫だが、存在は連夜とキセトに依存しているものだと、キセトはそう解釈して無理やり頷いた。

 連夜は首を傾げたまま、鐫に話の続きを促す。


 「この話をしたのは、僕がどうこうじゃないんだよ。キセト君の【道】には僕だけじゃなくて父上、羅沙将敬も居るんだ。世界会議島で『結晶』を内部に発生させてしまった時点ではなく、【道】に羅沙将敬を受け入れた時点で、キセト君は純正ではない。いや、始まりの話をするなら亜里沙さんの死を受け入れたときからかな。君の【道】は亜里沙さんに通じてるところもあるし。今回の責任がどこにあるのかという話し合いに行く前に、キセト君は自覚しなければいけない。『どこまでが君の意思だったのか』だ。キセト君の中には、父上と僕、そして『結晶』が混在している状態だから」


 「鐫様、俺の中にはもう一人、居ます。一般の女性で、そこに並び立てるなとおっしゃるかもしれませんが……」


 キセトの記憶を見た連夜も否定せず、鐫に本当ですよ、と伝える。時津理沙の存在を知らなかった鐫は純粋に驚いたようだ。


 「えっ? 本当? 入れて入れて。何もかも混在してる状態で『君』の責任だと言えば、君が内包するものはどこまで責任を負うのか。中身があまりにも羅沙に寄っているから、羅沙という国の責任に転嫁されると困る。明日と驟雨が困る。それは僕も困る。死んでるんだけど、死んでも死にきれないよ。ちなみにその一般の女性は不知火人かな? それなら不知火も巻き込めるかもしれないね」


 「明日羅のある領地の領主の娘であった方で、自らの意志で不知火の名家に嫁入りされています」


 「うっわ、複雑っ! でも明日羅にも責任を持っていけるね。明日羅も巻き込めたら、明日羅が葵を無傷で済ませるはずがない。全部の国がダメージを負わないように、どこまでが『君』と言えるかなんて水掛け論に持っていければいいんだけど、そうもできないだろうね。引退したと言っても不知火鴉がいるし。いや、不知火鴉は父が抑えてくれると信じたいな。明日と驟雨だってやる時はやるだろうし、不知火イカイ君もそうだろうけど……。いや、抑えるべきところを抑えて五分五分に持っていきたいな、やっぱり」


 鐫は世界会議対策のために二人に話を持ち掛けたようだ。連夜とキセトだからこそ鐫のいう【道】の話も信じているが、この話を世界会議で出しても信じてもらうことが難しいのではないだろうか。キセトは鐫の意図がわかるからこそ、不安なのである。

 キセトから「お前が言え」という視線を食らって、連夜は必死に質問を絞り出した。だが、まさか鐫に「鐫様の言うことは信じてもらえない」とは言えず、違う質問になったが。


 「……キセト個人の、えっと、中にいるやつ? 全員責任はなくて、キセトだけってならないのか?」


 「それだけはさせない。させないよ、僕がね。キセト君だけが悪いなんてありえない」


 「なんで、そんなこと……」


 「バカだなぁ、君たちは。人はね、皆、悪いんだから。皆が悪いんだよ。連夜君もキセト君も僕も父もあの馬鹿兄貴も、だれもかれも、悪いんだよ。僕らはみんなが悪で、少しでもマシになろうってしているだけ。線引きをしてマシな人間をいい人だというのが社会だ。君だけを悪という線引きなんてできない。どうしてかというとね。君がこれまで生きてきたから。僕、性善説を信じてるよ。繋がりの中で人は悪に染まっていく。君は不器用なりに他者と関わった結果、現状なんだ。その繋がりが君を悪にしたのだから、君と繋がるものを無視した線引きはできない」


 「――まっ、君は安心して任せなさい。少なくとも僕と父は君を援護しよう。連夜君もね」


 連夜は「それはいいけど……」と煮え切らない。キセトがおずおずと小さく挙手し、鐫の視線を受け止めてから、ずっと聞きたかったことを聞いた。


 「その話を、信じられるものは提示できるのですか? 連夜と俺は鐫様のいう事ですから疑いませんが……。中に居る者のの存在を信じてもらえない場合、俺と繋がりがあった周囲だけで連帯責任とされかねません。そうなると、やはり不知火と羅沙が痛手です」


 「ああ、パフォーマンスは考えてるから安心して。信じさせるよ」


 「では、お任せするということになりますが……」


 「うんうん、任せて任せて! 連夜君もそれでいいよね?」


 「オレは、その前にキセトに聞きたいんだけど」


 「なになに? 今更なこと言わないでよね」


 むっとした顔すら、鐫は演技臭い。演技臭いのだが、勢いやら演出やらは上手で流されてしまう。

 連夜は流されまいと、深呼吸して、キセトが蘇ったら聞こうと決めていた質問を、やっと本人へ投げかけた。


 「キセトって、死にたいと思ってるのか? 生きたいって思ってるのか?」


 「……ずっと死という終わりを望んでいたのだと思う。でも今は、生きたい。償うべきだとか色々あるが、……恥ずかしいが本音で言うとだな」


 「本音でいうと?」


 「僕も気になるね。キセト君の本音」


 人間でありたいとは具体的に? キセトを思う人間でのあり方とは何なのか。キセトを蘇らせた連夜は確認しなければならない。


 「……龍道を見守りたいし、亜里沙とのんびり過ごしたい」


 「ふっ、あはははは! いいよ! それいいね! それができるように援護しないと!」


 鐫はキセトの在り方を認めて笑った。

 連夜もよしと頷く。キセトが見えない多数のためではなく、愛した妻と自分の息子のために生きたいというのなら、連夜に文句などない。キセトは平凡さも願っていはいるだろうが、平凡さを切り捨ててでも、そのほかから悪だとなじられても、自らの妻子を選びたいと言った。

 蘇ったから人間からかけ離れた存在だ。――確かにそうだろう。

 そもそもキセトが持つ力が人間から見れば規格外だ。――何も間違ってない。

 キセトは蘇りを望んでいない。――そりゃそうだ。こいつはそもそも死にたがりだったと認めている。

 キセトの存在は害がある。――そうだな、実際害があった。


 「でもお前は人間でありたいって言ったし生きたいって言った。オレはお前から聞いたその言葉で動いてやるよ」


 「よろしくお願いします。鐫様、連夜」



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