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 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます


 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます




 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります


 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません




 なお、著作権は放棄しておりません


 無断転載・無断引用等はやめてください




 以上の点をご理解の上、お読みください

 

 ~~不知火の某所~~


 「今の映像は……」


 「お爺様。これが結果です。我が兄は『人』です」


 イカイは、初めて聞いた兄の笑い声を発するスピーカーを見つめる。子どものように戯れる――兄なら殴り合いと称するだろう――に興じる青年たちの姿も見る。最初は操作もしていないのに映像が勝手に流れ始めたと慌てたが、そこに映るのが兄だと認識し、イカイは祖父と並んでそれを見ることにした。

 自らの甥が羅沙皇族として公の場に立ったことにも驚いたが、兄が人類の敵であるかのように映し出されたことも驚いた。初めは壊れた機械人形のような存在だった。途中で明らかに変わり、ある時点で意識があることも確認できた。

 勿論最後の会話も、この映像を見ている者全員が聞いた。


 「少なくとも、兄は人であることを望んでいます」


 「………」


 「不知火は兄を人として扱いませんでした。その尻拭いを峰本連夜に押し付けたんです。責任も取れないのなら、貴方のそれは主張ではないのです。世界中に被害者を出した責任は、不知火に、貴方にあると言えます」


 「………」


 「お爺様。羅沙より世界会議の提案がされています。今回の件も含め、私たちは話し合うべきです」


 「お前が決めることだ。不知火頭領はお前なのだから」


 祖父の言葉はそれだけだった。責任があることを否定もしない姿は、弱々しい。

 どうして祖父は、兄をここまで否定するのだろうか。その詳細をある医師には伝えたという。どうして、他の者には伝えないのだろうか。

 いつか、話してくれますように。それが孫としての、僕の願いである。



 ~~羅沙城~~


 「各国に世界会議の再開を打診しておきました。今回の漏魔病の被害に国境はありません。全員で話すべきです」


 羅沙大栄帝国の皇帝である明日様はそう行った。俺は映されている父の姿を見守る。


 「父さん……」


 こんな父を始めてみた。

 俺にとって父は良い父親だった。俺を見守ってくれる包容力ある大人で、様々な制限がある中で最大限いい父親でいてくれたと思う。

 小さな四角の中で大笑いしながら友達と遊ぶ父の姿に、思わず俺も笑ってしまう。

 いい父親だった、嫌いじゃなかった。でも、こうやって子どもみたいに笑える人だとは知らなかった。父親の過去を全て知っているわけではないけれど、もっと冷たくて、歳の近い友達と遊んだりしないと思っていた。


 「隊長が父さんの友達でよかった」


 「あー……、友達は大切だもんな。俺も茂がいてくれてよかったと思うよ」


 だからってこれはどうよ? と殴り合ういい大人を驟雨様は指だした。呆れているようだ。それより茂兄さんのことを友達だという驟雨様も、どこか楽しそうでいい。大人でもこんな風に笑うのだと思うと、無理に大人になろうとしていた俺は安心してしまう。


 「私は羨ましいですわ。内面を指摘し合う友人がいませんから。龍道君はお友達いますか?」


 「いるよ。涼しい顔してさらっとなんでもできる友だち」


 同い年のはずなのに、英霊は大人だ。全部わかってるって顔で予測するくせに、子どもの顔も使いこなす。追い越せないと思うけれど、ただただ負けてるという友でもない。競い合えるいい友達。

 そういう存在が一人もいないなんて、確かに寂しいかもしれない。


 「あー、わかる。茂もそんな感じだ」


 驟雨様は茂兄ちゃん以外の名前もいくつか挙げて、自由な人が多いよな、と弱々しく笑っていた。でも、その弱々しさが、安心感のようなものを醸し出していてとてもいい笑顔だったと思う。こうやって偉い人が弱々しさで安心感を出せるのだから、この国は大丈夫なんだなと思った。



 ~~葵~~


 部屋は暖めていたはずだが、隙間風だろうか肌寒い。全員に下がらせ、一人でその映像を見ていた。息子が懸命に何かする姿を見たのは初めてだ。息子が生まれて二十六年で初めてだと、今初めて意識したというのも恥ずかしい。


 「失礼します。頭領、今の映像は全世界で流れたようです」


 「そうか。わかったから下がれ」


 「はい」


 葵に居た時の息子、葵縺夜は無気力だった。妹である琥珀以外の人間に興味を示さなかった。興味もあったのかもしれないが、ワタシはそれを知ることがなかった。


 (こうやって、笑うのだな)


 画面を手で触れる。羅沙から出された世界会議の再開の申し出の知らせの紙をもう片方で握り潰す。責任を取れと、笑顔の息子に言われているようだ。



 ~~明日羅~~




 皇帝陛下、と呼ぶ声がする。夫と呼ぶことすらできない愛した男性と出会った地で、息子と友人の息子が戯れている。その微笑ましさがワタシの胸を貫いた。

 二十数年ぶりに再開した息子は、ワタシを拒絶した。強く、手を取ることすら嫌だと態度で表した。家臣の前だと堪えるが、ほろりと涙がこぼれる。目のあたりが熱くなって、ああ、誰が見ても泣いているとわかるほどにぼろぼろと水滴が流れていく。


 「羅沙から世界会議の再開が申請されました。明日羅も、停滞してはいられないのですね」


 「陛下……」


 「時津の街の犠牲も、この国の立場の弱さを引き延ばしにした結果かもしれません。進みましょう。この国に住むすべての民のために。今回の被害者たちのためにも、甘い追及をするわけにはいきません。それに、この映像を見る限り、今回の件を解決したのはワタシの息子、明日羅縺夜です。明日羅の血の功績を公にしなければなりません」


 よくもしれっとこのような事を言えるものだ。それでも言わなければ。ワタシは皇帝なのだから。

 宙に浮く画面の中で、息子が笑った。ほろりとまた涙が漏れ出る。初めて見た笑顔はあまりにも眩しくて、自分は母ではなかったのだと、ここに来てやっと自覚した不甲斐なさの塊だった。

 もうこれならば、息子に直接手を払われたあの一瞬の方がずっと楽だったに違いない。



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