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 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます


 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます




 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります


 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません




 なお、著作権は放棄しておりません


 無断転載・無断引用等はやめてください



 ※ グロ表現があります



 以上の点をご理解の上、お読みください

 楽園の島では四つの大国全ての放送を見ることができる。羅沙の皇族が姿を晒した特別な放送も、明日羅のアナウンサーが原稿で読み上げるニュースも確認した。結局羅沙と明日羅は連夜に命運を託したようだ。


 「次、不知火か葵のニュース見られるか?」


 「情報収集は後にしてくれよ。いくぞ、夏盛君」


 「こっちは情報屋だぞ! 気になる! 他国のニュースなんてめったに見られないんだぞ」


 「はいはい、行くぞ」


連夜が夏盛を抱え込む。船の準備がと言い出した店員に手を振りながら、連夜は外に出た。船など必要ない。連夜にとっては目視できる距離なら跳んでいけるという判断だ。夏盛の魔力に反応してカメラもついてきているし、問題ない。先ほど訪れていた浜に着いた。靴を脱いだままだったな、とそのまま足首まで海に入る。

 連夜はそこで足を止めた。夜になると島を覆う不気味な光がよく見えたからだ。


 「夏盛君、見える?」


 「何がだよ。屈辱的な自分の姿か? 見たくもないし想像もしたくねえよ」

 

 「なんだよそれ。島を覆う魔力の膜だ」


 「まず島が見えない。カメラも……島は捉えられてないな」


 「じゃ、そこまでとりあえず行くか」


 砂を蹴るのは難しい。連夜は雪国の出身で雪の大地なら慣れているが、砂など初めてに近い。それでも、連夜の目に映る魔力の膜までは跳べたようだ。膜の上に着地しようと脚を向けるが、その膜は連夜を弾き飛ばした。連夜と一緒に吹き飛ばされた夏盛が情けない声をあげている。

 海面に叩きつけられる前に、連夜が夏盛を島へ投げる。跳ね返されたら拾いに行くつもりだったが、夏盛は膜に阻まれることなく島の地面にたたきつけられた。


 (骨折ぐらいは許せよな)


 自前の魔力で膜を張り、海面に立つ。膜の薄い部分を探そうと島を見上げるが、無意味だと首を振った。魔法ですらなく、魔力を放って強行突破に切り替えた。難なく通れたが、脅威となる連夜だけを選んで阻んだことは事実だ。敵対するものが来ると想定されている。


 (中に居るのがキセトかどうかは置いといて。ここに居るやつが原因で間違いなさそうだな)


 「謝罪はないのか!」


 「あーごめんごめん。怪我してないか?」


 「ちょっとすったぐらいだ。……ここさ、やけに寒くないか?」


 「寒いってか、うん……」


辺りを漂う魔力はキセトの物に似ている。だがキセトの物よりかなり冷たい。世界中から集められた魔力がこの島を覆っているのだろう。


 「それよりさ、ここ、世界会議島……、オレ、来たことあるかもしれない」


 「本来なら皇帝陛下とかしか来れないとこだぞ。あ、でもお前は葵の頭領の息子なんだし来ててもおかしくは……いや、駄目だ。お前が生まれた年から世界会議は開かれてないんだった」


 「懐かしいんだよ」


 「はあ、お前も気持ちとかいいんだよ。カメラ、起動させるぞ。生放送なんだからな。世界中同時中継だ」


 「ん。始めてくれ」


 夏盛がカメラを指さして何かをしている。カメラから独特の機械音がした。連夜がカメラを見上げ、先ほどまでなかった視線のようなものを感じ取り、視線を下げる。夏盛が小さく頷く。自然に体が向くのは、おどろおどろしい魔力が漏れ出してくる扉だ。夏盛ですら、その扉の奥にとんでもないものがいることはわかる。


 「行くか」


 「おう」


 連夜が扉に手をかざす。取っ手も何もなかったが、その扉は連夜を迎え入れるように勝手に開いた。

 連夜と夏盛、そしてカメラがとらえたのは、広い部屋の中央で地面に倒れこんだ苗床から生える片方だけの水晶の翼だった。苗床を隠すように折りたたまれていて全貌は見えない。

 苗床――赤黒い血肉に汚れたキセトが顔をあげる。その顔は見たことのないものだった。連夜に取っても夏盛にとっても、憎しみと苦しみを乗せたキセトの顔など初めてである。夏盛が足を後ろにずらす。連夜が夏盛の前に進み出なければそのまま体を翻させて逃げていただろう。


 「峰本。峰本……、やばい。あれ本当に焔火か?」


 「たぶんな」


 油の足りていない人形のようにぎこちない首の回り方をする。キセトの定まらない視線が、時間をかけてこちらに焦点を合わせようとしている。あの目に見られたら夏盛は今度こそ逃げようと心に決めた。

 ピキピキ、メキメキと何かを壊す音がする。何かを壊して、何かが大きくなる音。水晶の翼が苗床から命を吸って成長している音と、連夜と夏盛が同時に気づく。またピキピキメキメキと音がした。立ち上がることすらできない苗床は、床に指をひっかけ、腕の力だけでこちらに近づいてくる。


 「キセト?」


 呼ばれたことは理解しているのか、ぶれにぶれていた視線が連夜に向けてぴたっと止められる。美しい空色が、なぜか今はそうは見えない。折りたたまれていた翼が天井に向かって伸び、キセトの姿がやっと見えた。それと同時に血肉が腐った匂いが連夜と夏盛を襲う。連夜はすぐに鼻をつまみ、夏盛も脳内に記録してから連夜と同じようにした。


 「あの翼が漏魔病の原因だな。あれを壊せればいいんだが」


 「どう見ても焔火に寄生してる、何かだよな。元はなんなんだよ、あれ」


 「情報屋だろ。なんか知らないのかよ」


 「なんだ、峰本も知らないのか」


 全く知らないわけでもない連夜は黙り込む。天井に向かって伸びていく水晶の翼、恐らく結晶化によって現われた『結晶』だ。もはやキセトに連夜たちに近づこうという意思などないのだろう。腕の力で動いていた先ほどまでと違い、背から伸びた翼が傾き、それに引きずられてキセトが動いている。


 「夏盛君、そこから一歩も動くなよ。攻撃してくるぞ」


 「えっ、攻撃!?」


 翼が突然羽ばたき、水晶の欠片が飛ばされてくる。連夜と夏盛に当たる分だけ、連夜が叩き落す。翼になっている分から飛ばしてきているはずだが、翼が小さくなったようには見えない。常に魔力を収集し、使った分は即座にキセトを通して結晶化させているのだろう。


 「本当に苗床だな」


 誰が見てもキセトは悪くないとわかるので、それは連夜に取ってよろこばしい。だが、翼が小さくならないというのなら喜んでばかりもいられない。連夜が直接翼を蹴るが、びくともしていない。一片も欠けず、むしろ連夜の足を飲みこもうと広がっている。連夜が顔をしかめ、それも何らかの攻撃であることが傍から見てわかる。

 連夜は片足を切り捨てて夏盛の前に戻った。連夜の片足だった肉片は結晶に飲み込まれ、透明な石になってしまっている。連夜の足を飲み込んだ翼はどんどん大きくなっているようだ。

 連夜は片足の空白分など気にもせず、片足で立ち、あごに手を当てて「んー」などとのんきな声をあげていた。


 「触れないか……。たぶん魔法も吸収されるんだよな。どうすればいいんだろ、こういう時」


 「剣とか持ってないのか!?」


 「おっ、持ってる持ってる。夏盛君流石」


 宙から出された白い刀。鞘には過度な装飾品が見て取れる。以上に白い刀が画面の中で光る。連夜は両足を開き、刀を翼に向けて構えた。


 「さっ、再生力比べといくか、石っころ」


 それを生で見た夏盛も、画面を通して見た世界中の者たちも、連夜が楽しそうに笑う顔に見とれ、対峙する化物の異質さを一瞬忘れたという。


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