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 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません


 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください


 以上の点をご理解の上、お読みください


 授業参観の帰り、英霊と合流した龍道はご機嫌だった。無駄に整った外見と、小学生の親としては若い二六歳の若者であること、そしてとどめに夕日色の髪。連夜の口数も少なかったのでとても良い青年に見えただろう。

 つまり、龍道のほぼ願った通りになったということだ。龍道だって嬉しくなるだろう。英霊にいかに連夜がうまくしてくれたのかを身振り手振り語っている。


 「連夜さんもやるじゃん」


 「俺、見直しちゃった」


 英霊の言葉遣いが玲や晶哉に似てきている気がする。英霊が自然にオレを見下してくるのはどういうことか。玲のところに預けた数日でこの影響か。連夜は次に玲にあったら一発殴ろうと誓った。龍道の口が悪くなるのは連夜の知ったところではない。帰って来たキセトなり、退院した亜里沙なりが教育し直せばいいと連夜は考えている。

 子どもたちの上から目線の誉め言葉を適当に流しながら、ナイトギルドの扉をくぐる。子どもたちが一緒なので手洗いうがいを済ませてから食堂に顔を出す。


 「ただいまー」


 「ただいま。おなか減った! 瑠砺花姉、夕飯はなに?」


 「おかえりなさいなのだよ。ちょっとごたごたしてて簡単な物なのだけれど……。レー君もおかえり」


 「おう、ただいま」


 瑠砺花お手製のカレーライスが出され、子どもたちはわちゃわちゃと盛り上がっている。連夜も自分でよそって(人によそってもらうと、大体連夜にとって量が少ない)、席に座る。東雲夫人の料理もおいしかったが、連夜にとっては瑠砺花の料理の方がおいしい。身内贔屓なんだろうが。

 子どもたちに遅れ、連夜が食べ始めるのを確認してから、瑠砺花が「ごたごた」について話し出した。食事中に話さない、などこのギルドではないも同然。龍道が目を細めて連夜と瑠砺花を見てきていたが、連夜は無視だ。


 「実はシーちゃんが今日戻ってきたのだよ。で、ギィーリの情報があるからって見せたの」


 「見せたら、行くよな。静葉だし」


 「うん。それでその場所にわたしとシーちゃんとで行ったのだけれどね」


 二年前の田畑沙良によるミラージュの件に同行した瑠砺花なら、と静葉もそれを許してくれたと語る。連夜は女二人で何しているんだ、と言いたくなった。晶哉とか連れて行けよとその言葉を飲み込む。ギィーリが慕っていた田畑沙良に変な術(石家の術)を教えた悪役だ。静葉も連れていくたくないか。


 「ギィーリが病気だったみたいで。ギィーリのこと、小さい子が二人で面倒みてたのだよ。もう、子どもたちが泣きながら世話してるし、本人はうなされてるし。シーちゃんと相談して、ヒーちゃんに診てもらったのだけれど、本格的な治療が必要ってことで連れて来ちゃったのだよ。あっ、小さい子も一緒に」


 小さい子、という表現に食いついたのは龍道だ。自分だけが新参者という状況から逃れられると期待したのかもしれない。同じぐらいの歳となればそれだけでも嬉しいものだろう。


 「龍道君が期待するような感じではないのだよ。小さいと言っても十二歳ぐらいで、龍道君と英霊君よりは年上なのだし。その子たちも訳ありっぽいのだもん」


 「でも暫くギルドにいるんだろ! なら、自己紹介とかしたい! どこにいる?」


 「今はキー君の部屋に……」


 「ガキどもには別に部屋貸してやれ。あ、ガキでも男女の区別は守らせろよ。ギィーリも動かせるなら三階に移動……はあとでいいか。オレが様子見に行くからその後にしとく」


 「隊長! オレも一緒していい?」


 「だめだ。ギィーリの病気がうつるもんだったらどうするんだよ。ガキどものほうも蓮に診察させてから移動させるから、お前らから勝手に会うの禁止。はい、お前らー、手を合わせろー。ご馳走様でした」


 「「ご馳走様でした」」


 空になった皿を回収して、自分の皿に重ねる。龍道と英霊が逃げるように食堂をかけ出て行ったので洗い物係は連夜になった。

 ナイトギルドでは基本的に自分の皿は自分で洗うルールだ。だが強制力が皆無。守っても守らなくてもいいが、自分でその責任を取る。それがナイトギルドでの人のあり方。今回の皿洗いでいえば、これで連夜が不機嫌になった場合、龍道と英霊が連夜の機嫌取りをすることになるだけのことである。

 皿洗いを終えてからキセトの部屋に向かう。本棚と本ばかりの応接室に蓮が居た。机に突っ伏して眠っているようだ。疲れて眠るほどギィーリという少年の治療をする義理はないはずなのに、そこまでする理由はなんだろう。


 「ん。あ、連夜さん。どうも」


 「どうも。ギィーリの体調は?」


 「あぁ、あの人ギィーリって言うんですか。とにもかくにも魔力が足りません。魔力を外部から補給する方法が確立されてませんし、自然回復量を上回る漏出なんてどうしようもないんですよ」


 「ろうしゅつ?」


 「本当は魔法の使用などでしか体外に出ないはずの魔力が、何らかしらの理由で常に外に漏れてるんです。今、キセトさんが残した魔法学や魔力学の本をあさってたんですけど……、そういった類の本は向こうの家に持って行ってしまったようで。残っているのは基本の本ばかりなんです」


 「詳しい事はわからん。うつる病気か?」


 「病気というより、症状ですね。さっきも言いましたが、魔法を使う以外に魔力が漏出が確認できるなんて今までにないんです。私が調べたところではギィーリさんの体に異常は見られません。外部に原因があると思われます。なのでうつりません」


 落葉蓮は正式な医者ではない。天性の調薬の才能があり、ナイトギルドで医療担当をしているだけだ。ナイトギルドの外での医療行為は違法。それどころかナイトギルド内の医療行為も外に知られれば危ない。勿論、それを許していた連夜も責任を問われるだろうが。

 それでも連夜が任せているのだから、今更免許がどうこう言うつもりはない。しかし、連夜には蓮の確信めいた言い方が気になった。


 「それが間違ってないって証拠は?」


 「わたしはキセトさんを信じることにしました」


 「キセトを?」


 「これを読み込んでいたんです」


 蓮が渡したのは、手書きの書類。癖のない事が一番の癖。機械が書いたような文字。見間違えることものない、キセトの文字だ。

 連夜が目を細めたので蓮が一部を音読した。


 「『魔力は常に消費されている。消費量の増減は身体の善悪に左右されるが、外的要因にも左右される。身体の善悪による影響は自覚症状が出るに至らず、外的要因による影響は身体にすら影響を出すほどになる』ギィーリさんだけに発症しているとすれば、外的要因は石家の術と言えるでしょう。治療を篠塚さんに任せます」


 キセトが残したもの。キセトの中には羅沙中央研究所の最先端の研究が詰まっている。羅沙将敬がその知識を活用する方法をキセトに授けた。キセトは羅沙に来ても一人でそれを続けていたのだろう。そのキセトが残した意見を採用するのはいい。間違っていると連夜も言いたくない。友達の助言だ。

 だが、採用したとしても原因が「篠塚晶哉の石家の術」だと待っているのは仲間割れだけである。


 「でも、わたしは怖い。医者の端くれにもなれなかったわたしが何を言うんだ、と連夜さんはいいますか? それとも信じてくれますか?」


 「何をだよ」


 「凄い事になるっていう、わたしの勘です。原因は石家の術とかそういうものじゃない」


 蓮はキセトの残した書類を大事そうに胸に抱いて、キセトが集めた本に囲まれて、言葉を床に落としていく。誰にも届かなくていいと蓮の気持ちが伝わってくる。

 連夜の勘は、蓮の勘が掴んだ"恐怖"を掴み切れずにいた。

 

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