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004

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません


 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください


 以上の点をご理解の上、お読みください

 「おかえり~」


 呑気な声で迎られた瑠砺花は、声の主である連夜に苛立ちを覚えた。詰め寄ろうとして「珍しい客人」に止められる。彼が客人かどうかは怪しいところだが。

 珍しい客人と連夜が言っていたのは間違いなく彼、篠塚晶哉だ。だが、彼は一応とはいえこのナイトギルドの隊員だった過去を持つ。正式に除隊もされていない以上、客として扱うかどうかはギルドの隊長である連夜の判断のしどころだろう。


 「ショー君?」


 「森でキセトに、キセトに似たやつに会ったそうだな。帝都でいう森ってのは南の森のことだろ。南の森のどこだ」


 なぜキセトを追って不知火に戻った晶哉がここに居るのか。晶哉の質問に答えるべきなのか。すべての疑問を込めて連夜を見るが、連夜は意図的に視線を瑠砺花から逸らしている。電話での対応通り、不機嫌そうだ。

 瑠砺花は個人の判断で途中まで答えることにした。聞きたいことがあるのはこちらも同じこと。瑠砺花も情報についての取引をこの二年で少しは学んだ。


 「見たのだよ。でもどこで、とか言えない。なんでキー君が南の森に居るのか、まだ分からないのだもん。それを説明してくれたら答えるのだよ」


 晶哉が嫌そうな顔をする。瑠砺花は晶哉が変わっていないことを知った。晶哉は今も二年前もキセトのためだけに動いてるのだろう。瑠砺花の質問の答えがキセトの得になりえるのか、悩んでいるに違いない。

 晶哉が黙ったせいで場が静かになった。瑠砺花がまた連夜を見ると、今度はしっかり瑠砺花を見て手招きしていた。その手に応えると、当然のように瑠砺花の腰を抱き、瑠砺花には何も言わず晶哉に語りかける。


 「なぁ、晶哉。お前はオレの戦力と瑠砺花の情報が欲しいってことだろ。物を頼むのならそれなりに説明して貰わないとな」


 晶哉の表情に苦虫をかみ砕いたような渋さが表れる。晶哉の中で連夜に頼ることは最悪の場合のみだったに違いない。

 

 「……二年前、不知火はキセトを処刑した。ただキセトを殺すことは不可能だと思ったんだろうな。おれが田畑沙良に使った術を使ったんだ。キセトを分割し、弱体化させることで処刑を可能にしようとした、らしい。その分裂した個体をエモーションと呼び、キセトの記憶に沿って四体に分かれたと思われる。不知火側でも不知火本土にいる分しか処理出来ないからだろう。つまり、国外に居るエモーションは処理出来てないんだ。まず幼少期の記憶をおれは探してる。術士と共に過ごしたという情報から、四つある南北東西の森の聖域のどこかに居ると踏んで探していたんだ」


 「んー、北の森って、不知火と葵のある大陸全土のことのなのだよね? そこに居る可能性とかは?」


 「南の森で見たんじゃないのか?」


 「見たけど、正直、キー君の気がしないというか。知らない人を見る目で見られたのだもん。あっ、幼少期っていうのだけど普通に大人だったのだよ?」


 「幼少期、聖域で過ごした記憶だけで育ったと仮定した姿、か? そうだとしたら松本姉を知らなくても道理は合うだろ」


 「んー」


 「そういうことは置いとけ。オレはまだ納得出来ない。お前はそのエモーションを倒さないんだろ? ならオレがなんで必要なんだ。そもそもちゃんともとに戻るのか? 複数の体に分かれた記憶をどうやって一つに統合するんだ?」


 「……エモーションを殺すと記憶体になる。その記憶体を集め、一つの体に戻すことで元になるだろう。不知火の目的はその記憶体を壊すこと。おれはそれを守りつつ、すべての記憶体を集めたいんだ」


 「元の体があんのか?」


 「これだけだが」


 晶哉が出したのは小瓶だった。中に灰のようなものが一つまみだけ入っている。

 瑠砺花はなるほど、と頷きかけたものの、瑠砺花とは逆に連夜はさらに不機嫌になった。いや、不機嫌というより怒っているというべきかもしれない。


 「その一つまみの灰で? もしかして再生能力を頼るつもりなのか? あいつの能力が完全になれば体のどこかも分からないサラッサラの灰からでも全身を再生出来ると思ってるのか? お前はキセトを人間とか言ってただろうが。本心では一つまみの灰からでも蘇る化物だと思ってるってことだろ?」


 「ち、ちがう」


 うろたえる晶哉を見て、連夜の怒りが深まったことを感じる。瑠砺花の腰に添えられていた手が、回されていた腕が、瑠砺花に分かるほど力んでいる。小さく、痛いのだよ、と冗談めかして呟いた。連夜が瑠砺花を見、まわしていた腕を解く。

 瑠砺花に対するその気遣いはここ二年でよく見られるようになった。連夜は明らかに変わっていて、気遣うということが出来るようになったのだ。だが、晶哉を責める声は二年前の連夜そのもので、責められていない瑠砺花ですら、ほんの少し、恐怖を感じてしまう。


 「じゃ、その粉末を埋め込んだ体でも作るつもりか? なにで作るんだ? 粘土か? それともキセト以外のやつの死体でも使うのか?」


 晶哉は考えていなかったのだろう。自分なら、石家の嫡子の晶哉なら、キセトを蘇らせられるばかり考えていたのだろう。キセトを蘇らせるために必要な犠牲を考えていなかったのだ。


 「キセトは誰かの犠牲の上で蘇ったところで、また死を望むだけだぞ。キセトを蘇らせることは出来るかもしれねぇけどさ。出来ることとすることは違う。死人を蘇らせるぐらいなら、静かに見送ってやれよ」


 「死んでない。まだ別れただけだ! 田畑沙良だって死んでない!」


 「田畑沙良の時、お前はどう思ったんだ? まったく別の二人として生まれ変わった奴を、前の奴と同等に扱えばいいとか思ったんじゃないのか? 元に戻したいって声に応えたのか?」


 「……出来なかった。田畑沙良の場合は石家が術を使ったんじゃない! 正式に発動してない術では戻せなかったんだ!」


 「あほらしい。キセトだけ特別に思うお前がおかしい。何ともおもわねぇよ。知るか。大体、二年も前に処刑されて今になってオレに言うってのがおかしいんだ。お前、そのエモーションは二年過ごしたんだろ? それ以前の記憶はキセトから別れた物でしかねぇかもしれないけど、その二年は確かにエモーション個体の記憶だろうが。それを奪えって? オレにそう言ってるのか?」


 「……おれではどうしようもないから頼っているんだ! 幼少期のエモーションだったらまだいい。だがキセトの記憶を基にしてるってことは必ず黒獅子の時代がそこにある。黒獅子時代のキセトを殺せるのなんて、おれは同時期に銀狼だったお前しか知らない」


 「オレしかいないから、オレにしろっていうことか。嫌だね。お前らが出来ないのが悪い」


 話を聞いているだけの瑠砺花は少し違和感を覚えた。晶哉が必死になるのはキセトのためだ。それは

わかる。だが、なぜ連夜は必死に拒む? 連夜だってキセトの友人だ。そこまで拒む必要なんてない。そのためにしなければならないことに抵抗を覚えるのも分かる。エモーションというよく分からない存在といえど、現在を生きてる存在を殺せと言われているのだ。連夜が嫌がるのも分かる。

 それでも、連夜の意固地になっている態度はおかしい。連夜は人を殺すということに抵抗を覚えるような人だっただろか。違うはずだ。連夜はそうではないはずだ。何かのために何かを犠牲にすることを割り切っているはずだ。どうして、ここまで意地になるのか。

 二年という歳月が連夜を変えた。それは事実。それでも、この態度は二年の歳月の結果ではない。連夜の根本であり、連夜が瑠砺花に出会う前から変わらない部分のように思える。


 「レー君?」


 「とにかく、オレは賛成出来ない。オレは賛成出来ないことに協力はしない。したくないことはしない。オレはキセトを化物にするつもりはない。こんな一つまみの灰から蘇った化物なんかにしない。あいつは人間として死んだ。あいつの死のおかげで停戦がなった。それだけだ」


 「……松本姉もその意見か? そうだとしたら、おれは、おれは……無理なことでも挑戦するだけだ」


 「わ、私? んー、んーっと。レー君。私は手伝うでいい? それで、レー君に私の手伝いをお願いしてもいい? ショー君を手伝うんじゃなくて、私のお手伝い。嫌なら……私しばらく仕事休む許可だけ欲しいのだよ」


 「……好きにしろよ。瑠砺花の手伝いなら別にしてもいい。でも、キセトを蘇らせるのには反対だ。それだけは分かってくれ」


 「う、うん。レー君が嫌なことはしなくていいから。ほ、ほら。キー君ほど強い人と対峙しなきゃいけないから、警備? 私を守って欲しいのだよ」


 「分かった」


 やけにおとなしく連夜が頷く。

 瑠砺花は連夜が悩みを抱える一人の人間だと知っている。特に強いから、他人に出来ないことが出来るから、と何でもかんでも負かされるのが嫌いだとも知っている。だから、「嫌なことはしなくていいから」と言うしかなかった。瑠砺花に出来ることは少なく、結局は連夜に頼ることになるだろう。それでも、


 「レー君のせいにしないから」――だから、協力してね。


 言葉にはしなかった瑠砺花の思いを連夜も分かっているのだだろう。また瑠砺花の腰に手をまわして、頭を瑠砺花の体に埋め、仕方がねぇな、と呟く。


 連夜は自分のお友達が人間であろうとしたことを知っている。そのお友達の死後に、勝手に動いて、勝手にお友達を化物にしたくないだけなのだ。キセトという存在が人間として死を迎えたのならそのままにしてやろうと思っただけだ。


 (生き返って欲しいとか、思わない訳でもないんだけどなぁ)


 生き返って欲しいと願って生き返ったら、化物だと言われても言い訳出来ない。その立場に、あの人間であることに拘った友達を置きたくない。それだけなのに。


 (なんで、言葉にしないと誰もわかんねぇんだろうなぁ。考えたら、すぐ分かりそうなもんなのに)


 連夜が反対していたのは、蘇らせることが簡単な連夜だからこそそう思っただけだったのだ。


 

 

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