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 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません


 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください


 以上の点をご理解の上、お読みください

 

 連夜が再び目覚めた時には太陽が空高くに位置し、北の森では珍しい暖かな日差しがさす頃だった。服が連夜の私服に戻っている以外、特に変わったところも見られない。

 前回とは違って重苦しい気分ではなく、すがすがしい気分で目覚めることができた。連夜の内側で確かに積もっている記憶体もこれ以上増えることはない。椿の時代のエモーションが言ったことが本当なら、羅沙での記憶は記憶体となっていないはずだ。


 「起きたんだね、体は大丈夫かい?」


 まさにひょこっと表されるしぐさで顔を見せたのは不知火玲だった。こっちも準備できたよ、と嬉しそうに伝えてくる。


 「準備?」


 「記憶体を元にキセトを蘇らせる、おっと、元に戻す術の準備」


 「あー……」


 わざとらしい言い直しが、この男も晶哉の言葉に全て賛同しているわけではないことを示している。玲にも玲の考えがあり、その上で協力しているだけなのだろうか。


 「確認するけれど、記憶体は全部集めたんだよね?」


 「ああ。全部だ」


 「君の最終的な意見はどっちなんだい? キセトを殺しなおすのかい? それともキセトを……うん、蘇らせるのかい?」


 この術で蘇れば、キセトは人間ではないと言われても言い訳できなくなる。それはキセトが望んだことではないと今も連夜は考えている。連夜の協力を求めた晶哉のいうような大規模な戦闘もなかった今、連夜は自分が何のためにキセトの記憶体を集めていたのか、わからなくなっていた。


 「どっちでも、ないかな。わかんねーや」


 「ならさ、一度蘇らせちゃえばいいんじゃないかな? 蘇った後で、キセトが死にたかったのにとかぐちぐち言い出したら、君がちゃんと殺してあげなよ。だから今回は蘇らせるために最後まで協力してくれないかい?」


 「オレに友達を殺せって?」


 「キセトが死にたいって言ったら望みを叶えてあげて、っていうお願いだよ。勘違いしないで、細かい意味をくみ取ってよ。君にしか叶えられないじゃない。毒病になってもね、キセトは死にきれない。石家に殺されても、キセトは死にきれない。なら後は君しかいないじゃない?」


 考えてみてよ、と玲は微笑む。キセトのことを想う彼の姿は、キセトの記憶の中でも度々登場した。彼が本心からキセトを想っていることは連夜も疑っていない。その想いがキセトの思いと合うかどうか。

 だが、そんなことを言い出せば連夜の思いもキセトの思いと合うとは限らないのではないだろうか。キセトは、もしかしたら死を目の前にした後でなら生きたいと言うかもしれない。蘇ってでも生きたかったんだ、蘇らせてくれてありがとう。そう言うかもしれない。


 「いや、言わなさそう……」


 連夜の中には、そんなこと言うキセト像は存在しなかった。


 「とりあえずこっち来てよ。君がキセトの蘇りに賛同できるなら」


 「……それしかねーか」


 そもそも連夜の中から記憶体を取り出すすべも、連夜は知らないのだ。記憶体を壊すにしても一度は外に出さなければならない。

 玲に案内された場所には、いかにもな儀式の準備がしてあり、記憶体(連夜)は指定された場所に立つように指示された。晶哉が連夜をじろりと睨む。破壊しないように、と見張っているつもりなのだろうか。

 玲の指示で儀式が始まった。連夜の肌が、賢者の一族(連夜)と合わない魔力がその場を占めていくのを感じ取る。石家の術式はやはり連夜には合わない。全身にちくちくぴりぴりとした痛みが感じられる。空気に刺されているような、気持ち悪い何かだ。


 ――……話したくない。――


 「あっ……」


 そのキセトの言葉を思い出したのは、連夜の中に確かにあった記憶体の存在が感じなくなった瞬間だった。

 キセトが連夜に隠したある人物との繋がり。


 ――お爺様――


 キセトは不知火鴉をそう呼ばない。ならあの時、羅沙城の空に浮かぶ空色のバラが咲いた庭園を見てキセトが想っていた相手は誰だったのか。キセトがあの時に呟いた言葉が指す人物は――


 「羅沙将敬」


 連夜はその記憶を知らない。「花は分かる」と言ったキセトのあの時の心は分からない。連夜のすぐ傍で記憶体たちが蠢きそれぞれ口にする。「何も知らないくせに」。傲慢になっていたのは連夜だった。エモーションが四つだと言ったのは晶哉だが、そうだと確かめてはいない。晶哉も知らない、キセトにとって無視できない過去がないと、なぜそう言いきれるのか。


 (やばい)


 確かにそこに居た記憶体は形を喪い、"なにか"を作るために合わさっていく。そして、待機している晶哉からすれば全て揃ったように見えている。今から、まだ記憶体が揃っていないから待て、と連夜が言ったところで、焦っていると自覚した上で自制していない晶哉が待てるとは思えなかった。

 連夜の不安は的中した。連夜ですら支配できない世界で、玲の顔色が変わる。準備された儀式の道具が壊れていく。おそらく、記憶体を一つに戻す石家の術が壊れていく姿なのだろう。


 「待て! 待ってくれ! エモーションはまだあるんだ!」


 連夜の体すら連夜の支配下にない。制止などできず、叫ぶだけで精一杯。

 何もかも手遅れだと、連夜が理解したのは晶哉の驚いた顔を見た時だった。そんなこと考えもしていなかった、と晶哉の顔が告げている。壊れた道具たちも晶哉には見えていないのか。残念ながら、晶哉が後生大事に守っていた一摘みの遺灰もすでに晶哉の手を離れたあとだった。

 失敗。準備されていた儀式用の石家の術が、「邪魔者」の連夜をその場からはじき出した。受身を取る余裕すらなく、連夜は体のあちこちを地面に打ち付けながら床を転がる。痛みに耐えながらも上半身を起こすと、魔力の気配は消え、儀式のセットの中央に見慣れた男が倒れていた。ただし、今まで見たこともない程その体は傷だらけで。明らかに足りて(•••)いなかった。


 「こんのぉバカ!」


 真っ先に「キセト」に駆け寄ったのは不知火玲。晶哉は一歩も動けていない。玲がキセトの欠けた場所に手を当てて治療らしきことをしている。晶哉も連夜も、目の前で起こったことをただ呆然と見るしかできない。


 「峰本連夜! 君は今すぐ残りのエモーションを回収すること! 全部じゃないじゃないか馬鹿! 篠塚晶哉! バカな愚弟! 君はありったけの魔力をキセトに注ぐこと! そうしないとキセトはまたバラけるぞ!」


 呆然とする晶哉を蹴飛ばし、玲は目的地にキセトを運ぶ。形振りなど構っていないその姿に連夜も気持ちを落ち着かせることが出来た。キセトの体のことは玲に任せておけば大丈夫だ。あそこまで必死になって彼はキセトを助けようとしているのだから。

 なら、連夜は指示された通り、足りないものを取りに行くべきだ。

 連夜の勘が言っていた。残りのエモーションは一つ。そしてそこでキセトが出会った羅沙将敬は、キセトにとって愛塚亜里沙以上の存在だったのだと。 

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