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この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます
これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます
ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります
「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません
なお、著作権は放棄しておりません
無断転載・無断引用等はやめてください
以上の点をご理解の上、お読みください
焔火キセトは二年前に不知火へ渡った、元ナイトギルド副隊長だった男だ。もともと不知火人だったキセトを「裏切り者」として処分するためだけに戦争を起こそうとした不知火側の出した停戦の条件を満たすため、ナイトギルドの誰にも相談せずに姿を消した。
そして、瑠砺花たちにとって死んだ男でもある。
「なんで……」
生きているのか、生きて羅沙にいるのか、羅沙にいるならナイトギルドに顔を出さないのか。
聞きたいことは山ほどある瑠砺花だが、次の言葉が出てこない。目の前にいるのが本当にキセトかどうかもまだ疑っている段階だ。瑠砺花には連夜に見える精霊がいるように、瑠砺花にはキセトに見えるだけで他のものには違うように見えているかも知れない。
「おい、なんでナイトギルドの元副隊長があんなところにいるんだぁ……? しかも氷までご丁寧に溶かしてくれやがって」
「キー君に見える? 私だけじゃないのだよ?」
「見える見える。で、何でだよ」
「し、知らないのだもん……」
瑠砺花の隣から隠すつもりのない舌打ちが聞こえた。
サンクチュアリの隊長にもキセトに見えるならあれはキセトなのだろう。それならそれで、瑠砺花には聞かなければならないことがある。
「キー君! ねぇ! キー君!」
「………」
自分のことだと思っていないのかキセトは振り返らない。
「キー君てばぁ!!」
キセトにすがり付こうと駆け寄る。炎が身を焼く感覚がしたが、目の前にあのキセトがいるのだから気にしていられない。
やっとキセトの表情が確認できる距離に来て、瑠砺花は違和感を覚えた。
キセトが瑠砺花のことを不思議そうに見ている。初めて出会う相手がやけにフレンドリーだった時の戸惑いの表情だ。その表情自体は珍しいものではない。その表情をしているのがキセトで、向けられているのが瑠砺花でなければ。
「おいっ! 撤退するぞ! 聖域からぞろぞろ出てきやがった」
「キー君、なんで……」
また、その続きは言葉にできなかった。サンクチュアリの隊長に引きずれて森を出る。
「キー君……」
「おい、電話。お前の所の隊長に」
「レー君? あっ、そうだレー君! レー君なら知ってるかも!」
早く出ろと唱えながらコールを数回聞く。なんだよ、と挨拶もなしに電話に出た連夜はどこか不機嫌そうだ。
「森に!! キー君が!!! いるの!」
『いるのだよ~』
「ふざけてる場合じゃないの!!」
『のだよ~。まぁ珍しい客人って続くもんなのかね。とりあえず帰ってこい。じじょーせつめーだ』
「帰ってこいって!! キー君がすぐそこにいるのに!?」
『うるせー』
それを最後に電話が切れた。
「で、なんとなくわかるけど知ってそうか?」
「事情説明とは言ってたのだけど……、珍しい客人とか」
「あいつってナイトギルド本部に勝手に行くと不機嫌になるんだよなぁ……。じゃ、詳細は夏樹と東雲江里子隊長に連絡しろって伝えといてくれ」
「はーい」
「あとは解散だけだ。あの焔火もどきがいる間は聖域または森に立ち入るのは禁止しとくから、もしあの焔火もどきに会いに行くならこっちにも連絡」
もどきかどうかもわかんねーんだけどな、と言い残してサンクチュアリの隊長も去っていった。
帰ってこいと言った連夜も不機嫌だった。サンクチュアリの隊長もどこか不機嫌そうだった。ついでに言えば瑠砺花と協力して魔法を放つ予定だった四人も不信感を込めた視線を送ってきている。
「やっと、平和になったと思ってたのに」
その平和がキセトを犠牲にしたから成り立ったものだとは理解しているけれど。だからといって、キセトがその平和を壊していいという訳でもないのに。
「帰ってくるなら、もっと平和に帰ってきて欲しかった、のだよ」
瑠砺花は、平和の破壊と同時に姿を現した、妹を殺した張本人であるキセトに複雑な思いを抱きながらナイトギルドへと走った。