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 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません


 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください


 以上の点をご理解の上、お読みください

目の前に居る少年は、連夜が知る"エイス"とさほど変わらなかった。それも当然で、コレは"エイス"の記憶の続きなのだ。ただ、今までと違い、「不知火キセト」は何もない真っ黒の空間の中で連夜と向き合う形で立っていた。連夜を認識しているのだ。


 「あー、えっと? ハジメマシテ?」


 「初めましてじゃない、連夜。改めて自己紹介をして欲しいのならそういえばいい」


 連夜の友達と同じような口調で十歳前後の少年が言葉を吐く。外見に不釣合いな硬さが冷たく響く。


 「不知火キセトでいいの? オレと面識あるっけ?」


 「……俺が持つ記憶の中に峰本連夜、もしくは葵縺夜との接触はない。それでも、記憶を渡しただろう。だから知っている。名前は、なぜだろう、なぜか、知っていたんだ」


 「ふーん。で、オレに見せてくれないのか? 記憶」


 「………」


 「キセト」が黙り込む。うん、と小さく頷いて連夜に背を向けた。無言で右隣を指差す。少年が指差した先には小さな扉が出現していた。連夜が扉に向き合うように体の角度を変えると、知らぬ間に扉は連夜の手が届くところにまで迫ってきていた。「キセト」は後方に位置を変えている。軽く、連夜の背に手が添えられる。子供の小さな手だった。冷たい手だ。連夜が頭だけで後ろを振り返ると行って、と子供の唇が動く。連夜はその小さな扉を潜った。小さい頃、連夜が雪を掘って作った秘密基地の入り口に少しだけ似ている通路だったように思う。四つんばいになってその道を進んだ。


 『いいかい? これから、君は不知火の人間になるんだよ。人間として、人間と一緒に生きていこう』


 出口に差し掛かったところで優しい声が聞こえた。外の様子を伺うと、狭い空間に黒い髪をした十歳ほどの子供と、その子供を抱きしめるようにして蹲る男が居る。記憶なのだから連夜のことは見えていないだろうが、そこに無遠慮に出て行けるほど連夜は無神経でもなかった。


 『分かるかい? 人間は人間を殺さない、傷つけない、救う、助ける、共に過ごす相手として認識するんだ』


 大丈夫? と女のような男は子供を抱きしめる手に力を込めた。人間になれ、と子供に何度も言う。子供はできるだけ動かないようにしていたようだが、白衣を着た男の言葉に応えるために何度も頷いていた。


 『もう一つ、君に言わなければね』


 白衣を来た医者は子供を解放する。まっすぐに目を見て、次の言葉を選んでいるようだった。


 (変わってねーな)


 連夜は視線を合わせるためだけに低く作られていた椅子を思い出す。キセトの傍で常にキセトを想っていた彼は、変わらずキセトをまっすぐ見つめていた。"椿"の記憶にあった男もそうしていた過去を、連夜は知っている。


 『なぁに? 玲先生』


 『ふふ、君に先生と呼ばれる程ではないよ。玲って呼んで。ぼくも君をキセトと呼ぶからね』


 『きせと?』


 『そうだよ、これから君は不知火キセトなんだ。君の、名前。分かるかい?』


 き・せ・と。玲は一音一音区切って、赤子に言葉を教える父親のように何度も子供の名を呼んだ。子供が真似して自分の名前を口にする。


 『きせと』


 『そうだよ、キセト。君の名前。手放してはいけないよ。どこに居ても、どうなっても、誰がなんと言っても、君はキセトなんだ。その名前さえ持っていれば、君を見つけてくれるよ』


 医者は、誰がキセトを見つけるのかは言わなかった。いや、言ったのかもしれない。それでもその答えを連夜が知る権利はなかったのだろう。連夜の世界は突然、またあの真っ暗の何もないところに変わってしまっていた。

 目の前にはまた子供が連夜と向き合って立っている。連夜が一歩近づけば、滑るようにして「キセト」も距離を空けた。何度試しても同じことが起きて、ただただ黙って連夜を見ている。


 「逃げんなよー」


 「………」


 「おーい」


 「何も、知らないくせに」


 「キセト」はここに連夜が来たことが不満らしい。エモーションと同じようなことを言って、連夜に応えようとはしない。連夜が過去の記憶を見てきたことを告げても、同じ言葉で連夜を拒絶するだけだった。記憶体が連夜に記憶を見せることを初めて拒み、連夜も困惑するしかなかった。この記憶を見終わるぐらいしか、連夜の意識が戻る方法もない。


 「話し相手ぐらいしろよ」


 「何も知らないくせに」


 「なら教えろよ」


 「えっ……、知りたいの?」


 少々子供染みた、いや外見には釣り合う言葉遣いがされた。知りたいからここにきているんだ、と連夜からすれば当然の返事をすると、子供は照れくさそうに笑う。連夜にはなぜこの子が照れているのか分からなかった。


 「さっきのは、僕が不知火に来た時の記憶。玲から名前を貰った。僕が両親に貰った名前を教えてもらったの」


 口調が崩れ、子供らしいものになっている。機械の様だった表情の作り方も自然なものになっていた。


 「次のは、その後の暮らし」


 子供が左方を指差す。そこには北の森の住居によくある気の片開きの扉があった。個室などに使われる扉で、連夜の生家のトイレの扉に似ている。


 「まさかトイレに出ないだろうな?」


 「失礼すぎるでしょ。僕の部屋の扉だよ」


 「それならいいけど」


 取っ手は時計回りにひねるもので、これも連夜の生家のトイレの扉と同じだった。その類似点に言葉に出来ない気分になりながら連夜は扉を開ける。連夜を迎えた部屋は小奇麗な部屋で、最低限の物しか置かれていない質素なものだった。不知火では珍しいフローリングの部屋で、二人の子供が居た。一人は十歳程の子で、ベッドに腰掛けているがこの部屋に慣れていない様子だった。もう一人は八歳程の子で、もう一人を気遣うように床に座って様子を伺っている。


 (短髪がキセトだな……。長髪のほうは、多分不知火イカイだろ)


 連夜は、自分が認識されていないことをいいことに二人の子供の顔を真正面から覗き込む。どちらも似たような顔をしているが、幼い方が水色の瞳をしていたことからそちらがキセトだと判断した。


 (待てよ、年齢合わなくないか? 不知火イカイってキセトより四歳下だよな?)


 体の成長に差が出ているのだろうか。だがそれもおかしいことではない。キセトの今までの食生活は、不知火でお坊ちゃまとして育てられていたイカイよりいいはずがないのだ。かろうじてイカイよりは年上に見えるだけ、兄としてのプライドも守られたことだろう。


 「あの、何か……、好きなもの。そう、好きな食べ物はありませんか、兄さん」


 やけに強調された最後の言葉が言いたかっただけなのだろう。キセトはじっと自分の弟を見つめて「シチュー」と羅沙の料理を答えた。


 「どんな食べ物なんですか?」


 兄との会話ならどのようなものでも嬉しいのか、イカイは引き下がらない。そんな弟に戸惑いつつ、キセトは料理の説明をしてやっている。作り方に入ったところで、イカイがキセトにその料理を作って欲しいと頼み、時間があれば、とキセトが答えていた。

 そんな微笑ましい光景が少しずつ離れていることに気づく。二人の子供が連夜とすれ違って部屋を出ていく。一人は兄との再会の喜びに満たされて、一人は喜ぶ弟を見て少し嬉しそうだった。空っぽになった部屋を遠くから見下ろして、連夜は隣に居る「キセト」に話しかけた。


 「もう終わりか?」


 「僕があの後のことを話してあげようか? 知りたいんでしょ?」


 「キセト」は連夜の袖を掴み、こっち、と引っ張ってある場所に連夜をつれてきた。真っ黒な何もない空間をひたすら歩き、ぽつんと存在するキッチンの前で「キセト」が止まる。一般的な家庭からキッチンだけを抜き取ったかのように、そのキッチンは浮いて見えた。


 「これ、あげる」


 「くれんの?」


 「あははっ、いい大人が涎垂らして、カッコ悪い」


 「キセト」が差し出したのはシチューだった。温かいらしく、おいしそうな匂いと共に湯気がたっている。そのおいしそうな匂いに、食欲に関しては素直に生きてきた連夜は思わずだらしない表情になってしまっていたらしい。

 キセトの料理がおいしいことは連夜も知っている。ナイトギルドの料理番は闘技戦火だったが、彼女が入隊するまではキセトが担当していたのだ。少々火を通し過ぎる傾向はあったものの、絶品と呼べるものしか出された記憶はない。ちなみに、連夜はにんじんの皮を向くだけで、にんじんが鳴きながら蠢く物体に変化してしまうので、台所に入ることを固く禁じられていた。

 そのシチューを一口頬張ると、濃い目の味付けとほくほくとした大きめに切られた具がこれまたおいしい。目の前の十歳ぐらいの子供が作ったとは思いたくない。


 「うまい」


 連夜はうまいものはうまいと素直に褒めるしかないと思った。連夜が覚える限り、キセトの料理を褒めてキセトが喜んだことはない。しかし、目の前の子供は嬉しそうに、よかった、と連夜に微笑みかけるではないか。


 「上手くなったんだよ、イカイのために」


 「弟のための腕かー。オレも妹ちゃんがいるから、妹のために何かするって気持ちなら分からなくもないけど」


 連夜にとって妹は宝だ。妹の一言に連夜はいつだって全力で応えた。おそらく、キセトもそうだったのだろう。


 「うん、うめーわ」


 「いくらでも食べて、まだまだあるから」


 「折角だけど、次の記憶がいい」


 「そっか。それもそうだね。そのために来たんだもんね」


 連夜の言葉に「キセト」は少し残念そうにしたが、すぐに笑顔になると連夜の真後ろを指差した。連夜が振り返ればそこにはまた扉がある。頑丈そうな扉で見たところ取っ手などはない。押し戸なのだろうが、素直に押すのも癪で、連夜は扉を蹴った。連夜なりに「キセト」に全て仕切られていることに対する反抗だったのだが、扉はびくともしない。連夜は初めて、何かを乱暴に扱って逆に自分の身体が傷むという経験をしたのである。「キセト」が口だけで馬鹿、と言っているのが見ずとも想像できて、振り返らずに手で扉を押した。

 扉の向こうは暗闇だった。真っ黒な世界も、不思議と暗さは感じなかったというのにここは違う。目の前も闇で覆われていて視覚からは何も入ってこない。だが聴覚に研ぎ澄まされた世界であるということがすぐに分かった。連夜が一歩踏み出し、石レンガを踏む音が異様に響いたからだ。音の響きが建物の形を浮かび上がらせ、連夜の目の前に腰ほどの岩のような障害物があるのも分かった。むやみに動くわけにも行かず、その岩の前に座り込む。

 連夜の優れた嗅覚に生物の臭いが届く。どうやら目の前の岩は生物であるらしい。さらに、連夜の勘が「それがキセトだ」と告げていた。この暗闇でただただじっとしているだけの存在が、連夜の友達だとは思いたくなかったが。

 世界に淡い光が生まれた。光は上から少しずつ近づいてくる。曖昧だったキセトの輪郭を浮き彫りにするように、確実に近づいてきている。食事を取っていたとは思えない細い体が光に照らされて、思わず息を呑む。目の前に居るのが生物であるという自信が一気に薄れていった。それほどまでにやせ細った体から太い鎖が伸びている。体にもこれでもかというほど巻きつけられた鎖と、一切顔を上げようとしないキセトが、「不知火キセト」の受けた仕打ちを示しているのだ。

 連夜の中で、ちらりと過去が映った。妹だけに理解してもらい、それでいいのだと言い聞かせていた可哀相な男の姿だ。連夜もキセトと同じように俯いて、その映像を追い出す。暗闇がいけないのだ。人を闇に落とそうとする。

 灯りが真横にまで迫り顔を上げた。連夜の隣には灯りを持つ東が立っている。空いた片手には食事を持っているようだった。


 「今日こそ食え。今日はお前が食うまで居るからな」


 灯りとして持っていた松明の火を固定された台に移し、東がその場に座る。キセトは顔を上げなかったが、連夜に全て見えているのだから、キセトにも全て見えているのだろう。


 「イカイがお前の真似して作ったんだぞ。たしかしちゅーだったか? 羅沙の料理なんだろう?」


 顔すら上げなかったキセトが少し動いた。鎖が大げさな音を立てる。湯気がたつシチューをちらりと見て、またすぐに俯いてしまった。それが気に食わなかったのか、東がキセトの腕を掴んで無理矢理立たせる。かろうじてキセトに体にまとわり付いていた薄いボロ布が風もないのに揺らめいた。キセトの細過ぎる腰からズボンがズレ落ち、長めの上着の裾から、自重にすら絶えられないまでに痩せこけた足が伸びている。東が手を離せばキセトは石レンガの床に倒れるしか出来ないはずだ。そう思わせるほどに、細い。


 「いい加減にしろ。甘ったれが。お前をここに入れた鴉様の判断が気に食わないのか? 鴉様に反抗するために、お前を心配したイカイの気持ちを踏みにじるのか? 弟の気持ちなど考えもしないのか? それほどまでにお前は偉いのか」


 「違います」


 弱りきった体とは間逆の固い声がすぐさま返される。東に支えてもらえなければ立てない状況で、それでもキセトの声はいつもの機械音のような、感情のないそれだった。


 「違うんです、東さん」


 鎖同士がぶつかる音に負けないほど強い声で、キセトは東を真っ向から否定した。だが、何が違うのかは一切口にしようとはしない。


 「何が違う」


 「……鴉様に逆らうつもりも、イカイの気持ちを踏みにじるつもりも、ありません。自分が偉いと思ったこともありません。イカイの気持ちも考えています。……それでも、いくら考えたところで人の心の内など分からないではないですか」


 東がキセトの腕を離す。支えを失ったキセトは東の胸に倒れこんだ。キセトとは違う、鍛えられた筋肉の鎧の奥に鼓動が強く響いている。他人の鼓動をここまで羨ましいと思ったのは連夜にとって初めてだった。キセトの感情が流れてきただけに過ぎないが、何がここまで羨ましいのだろうと不思議に思うしかできない。鎖に繋がれてもなお、誰かに従順でいようとするキセトのことを連夜は理解できなかった。


 「鴉様の命令だ。食事を取って自力で階段を登って来い。……外で、お前を待ってるから」


 「分かりました」


 東がキセトを引き剥がすと、食事の前に座らせ、灯りを真横に置き、東自身は暗闇の中の階段を戻っていってしまった。残されたキセトもシチューを黙々と食べる。時折、気持ち悪そうに口を抑えていたが、連夜が見る限り吐かずに食べきった。ふらりふらりと立ち上がり、震える足を叱咤しながらキセトが階段を上っていく。東が置いていった灯りは手にしなかった。連夜と灯りと空の食器がその場に残される。


 「鴉様はね、イカイと僕が一緒に居ることを嫌ったんだ。ほんとうにそれだけだったんだ。決して、この暗闇の中で、地下牢のような場所で過ごすように言ったわけではなかったんだ。鎖のことも鴉様が言ったわけじゃない」


 キセトが消えた方向とは逆の方向から「キセト」が現れてそう言う。不知火鴉をかばう言葉に素直に頷きたくなかったが、「キセト」が微笑んでいたので曖昧に相槌だけ打った。


 「イカイと仲良くなって、僕は鴉様に認めてもらえるのだと期待していたんだ。馬鹿だよね、そんなわけないのに。だから反抗心じゃないんだ。ただただショックで、食事が喉を通らなかっただけなんだ。でも知ってしまった。食事を取らなければ自分の体が弱るということに。弱った先に死があるような気がしたんだ。何時間でも何日でも食事を抜けばそこにたどり着けると思った」


 「死にたかったのか?」


 「鴉様が僕の死を望んでいたから、応えたかった。鴉様の望むことを望んでいただけで、死にたかったわけじゃなかったんだ、……最初はね」


 「不知火鴉が死ねって言ったら死ぬのか」


 「死ぬよ。誰かが殺してくれないと死ねない不便な生物ではあるけれど、鴉様が死ねとおっしゃるのならなんとしてでも死んだよ」


 「……気持ち悪い、お前」


 「でもね、鴉様は僕の死を望んでいたけれど、僕に死ねとは言わなかったんだよ。だから、最終的には生き延びた自分を僕は受け入れていた。僕が生きていても鴉様は次の使い道を示してくれたからね。鴉様は僕を嫌っていたけれど、僕を使ってくれた。僕を嫌っていないけれど遠くから見てるだけの人たちより、鴉様のように使ってくれるほうが嬉しかったんだ」


 盗み見するように一瞬だけ「キセト」の表情を確認した。連夜は人の笑顔がこれほどまで気持ち悪くなることを知った。


 「鴉様は僕のことが嫌いじゃないんじゃないかなって思ったんだ。ただ、僕という存在が許せないだけで、きっと僕のことを存在そのものとしては愛してくれていたんじゃないかって」


 「愛ねー」


 あの痩せこけた姿を見た連夜の前で、あそこまで痩せこけた本人がそう言うのだろうか。もしそれが本当に愛という感情だというのなら、連夜に愛は一生芽生えないものなのだろう。連夜が知る愛ではない。


 「……お前細いよな。あそこまでじゃないけど。オレの友達のキセトも細かったわ。やっぱりこの期間のせいか? お前が食わなくなったの」


 「未来のことはこれから見てくれれば分かる。でも、そうだね。食事を取らないということで、自分を弱められるって知ったから、怖かったんだろうね。食事を取るだけで、また『皆』からかけ離れるような気がして」


 「馬鹿じゃねーの? だからチビなんだよ」


 「う、うるさいな! チビじゃない! 僕知ってるんだからな! この後ちゃんと身長伸びるんだから!」


 「オレより低いけどな」


 「のっぽ!! でくのぼう!!」


 「あー、聞こえなーい」


 いつの間にかキッチンがあったスペースに戻ってきている。連夜の友達のキセトが、連夜より五センチも身長が低いことを気にしていたことを思い出した。連夜は長身の部類に入るし、連夜よりも低いといっても気にするほどではない。それでも、連夜に負けているというのが悔しいんだ、とどこにでもある理由で悔しがる友達の姿は、連夜にとって新鮮であり、且、面白いものだった。

 シチューをまた一口食べる。あぁ、そういえばこう返したんだ。「いいじゃないか、お前はオレより料理が上手なんだから」って。その時ばかりは機械仕掛けの表情筋が緩くなり、照れていたと。今更ながら、あれは褒められて喜んでいたのだと。


 

 

 

 

 

 

 "不知火キセト"の記憶のお話、続きます。

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