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この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます
これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます
ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります
「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません
なお、著作権は放棄しておりません
無断転載・無断引用等はやめてください
以上の点をご理解の上、お読みください
一匹も捕まらず瑠砺花がサボって帰ろうと考え始めた頃、瑠砺花の肩をサンクチュアリギルドの隊長が叩いた、エスケープすんなよ、と一言おまけ付きだ。
「あっちに精霊が集まってるところがあるんだよ。お前の氷魔法が欲しくて呼びに来たんだ」
「氷が? いや、必要ならするのだけれど」
「ちょこーっとややこしいところに居てな。頼む」
隊長の案内の下、瑠砺花が進む。すると徐々に木々が減り風や空気が熱くなってきた。
少し開けた場所の手前で静止の合図が出る。瑠砺花は目の前の光景を見て、熱いはずだと納得した。瑠砺花の目の前にあるのは炎の滝壺である。
轟々と音を立てて炎が落ちている。そして下の滝壺にあたる位置に炎が溜まっていた。溶岩ではなく炎。滝の上は普通に川が流れている。滝の途中で突然水が炎に変わっているのだ。そして滝壺を出れば、また普通の川に、水に戻っている。
「魔力濃度が濃い聖域近くだとなぁ、こういう摩訶不思議が起こってるんだよ。それを調べるのもおれらサンクチュアリの仕事なんだよな。で、あそこ見てみろ、ほら滝のすぐ近くらへん」
隊長が指差したところには精霊が集まっていた。自然に発生している炎を好んで食しているように見える。こちらには気付いていないようで捕まえるチャンスだが、隊長は首を横に振った
「炎属性なんだろ。精霊ごと滝を凍らせられるか? 熱くてこれ以上は近寄れない」
確かに熱いがそこまでではないと、瑠砺花は抗議の視線を送る。隊長が、「なら一歩前に出てみろ」と促した。瑠砺花はそっと開けた空間に足を――
「あつっ!」
何かで区切られているように、温度が違う。慌てて足を引っ込んだ瑠砺花に隊長は「な?」と同意を求めてくる。
瑠砺花は了承の変わりにまた文句を返した。
「流石に一人じゃ、無理なのだよ」
「一人でしろなんて言ってないだろ。今回の任務についてる氷魔法使いには全員声掛けてるんだよ」
「あっ、融合魔法が得意かって質問だったのだよ? まぁ、下手ではないのだけど~……」
この滝全てを凍らせるなど何人必要になるか。瑠砺花はくたくたになるまで魔力を消費した自分を想像し、ぞっとした。
「で、何人でやるのだよ」
「五人だ」
「えぇーーー!! 五人!? えー」
「やれったらやれ。いいな」
「うー、レー君に言いつけてやるー」
「ついでに今呼んでくれ。あいつなら一人で凍らせられるだろ」
確かにあの規格外の常識はずれの最強の人間なら一人でもこの炎の滝を凍らせられるだろうが、呼んでくるような人ではない。瑠砺花もぶーぶー言いながら素直に協力する準備に参加する。すでに融合魔法の準備を始めている四人のほうへ歩み寄った。
融合魔法と言っても全員で同じ魔法を使って効力をあげましょうというだけだ。一緒に詠唱を唱えるぐらいしかない。
「炎を凍らせるためだけに開発された新しい【フリーズフレア】をしてるの。コード知ってる?」
「まぁ、知ってるのだけれど」
「じゃお願いね」
四人のうちの一人がそれだけ言って詠唱に戻る。瑠砺花が元奴隷身分であることは周知の事実なのであまり接したくないようだ。一人で土の上に直接座り詠唱を始める瑠砺花。手に魔力増幅装置を握る。
こういう奴らに口で何か言っても無駄だ。反抗したいのなら五人の中で一番威力の強い【フリーズフレア】を出すしかない。それなら大量の魔力、そして連夜お手製の改造コードだろう。
連夜はこういう魔法に関して詠唱を必要としない。莫大な魔力に物を言わせて、コードも補助魔法陣も出さずに具現化させる。そのため知られていないが、コードの改造及び魔法の強化が得意なのだ。いつも暇潰しと言いつつ改造して、その結果を周りに教えている。
連夜が馬鹿なことは周知の事実だが、勘と言ってコードを改造する連夜にいつも間違いはなかった。周りを唸らせる威力を発揮できるだろうと、瑠砺花は確信している。
他の四人と合図をし、魔法を放つ。なぜか、そうしたのは瑠砺花だけだったが。
「おー、さすが融合魔法」
結果、瑠砺花がが一人で凍らせてしまった。
(レー君、私になんて恐ろしい改造詠唱渡してるの!! こんなの怖いよ!!)
他の四人がこそこそと話し出したので瑠砺花は生きた心地がしない。
待って待って、私一人でやるつもりなんてなくて。あぁそんな力を見せ付けようとか全然ないですから。ちょっと意地張っちゃっただけじゃないなんでそんなふうにこそこそ話すの? 一人明らかに怖がってるじゃない。そっちが魔法出さなかったんじゃない。そんなつもりないのに。もう、早く帰りたい。
隊長にもう帰っていいか聞こうとして、滝壺から吹く風が熱いことに気がついた。凍ったのなら風は冷たいはずだ。熱風が嫌な予感を運んでくる。
「おいっ! 氷が解けたぞ!」
「そんなはずないのだよ! だって紛れもなく【フリーズフレア】なのだもん!」
連夜の手で改造されていると言っても、元が残っている。すぐに溶けるなど、連夜のイタズラでもありえない。
「おい、アレ見ろ。人だ。人が聖域から出てくる!」
魔物の住みかである聖域から誰が出てくるんだろうか。
もしかして人型の魔物か。そうなら、領域の近くを踏み荒らした瑠砺花たちに怒っているのかもしれない。そうだとしたら、妖精狩りの面子で対処出来るはずが無い。
瑠砺花を含め、全員がそんな不安を抱えながら隊長の指差した方向を振り返った。
人か。確かに人だ。魔物じゃない。人型とかそんな話じゃない、彼は、人だ。
氷を溶かした炎の上で、涼しげに佇んでいたのは――
「キー君?」
――焔火キセトだった。