027 ――北の森に沈む夕日――
この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます
これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます
ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります
「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません
なお、著作権は放棄しておりません
無断転載・無断引用等はやめてください
以上の点をご理解の上、お読みください
区切られた窓がそこにあることは知っているが、それを見たことはなかった。彼女の世界を創世し、広げ、色づけた彼はその窓の向こうに居ることも知っていたが、その向こうは彼女の世界に含まれて居なかった。
だがそれも今日まで。
彼女が初めて見た光の世界は、彼が彼女に伝えてくれた何よりも色褪せていた。彼の声が表したあの色鮮やかな世界は、彼女の呪われた瞳が映すこの世界ではない。
「兄様……」
世界の支配者たち、賢者の一族の血を受け継ぐ彼女は、彼女の全てだった兄を思う。優しく撫でてくれたその手の感触を。彼女が見ることの出来なかった色を伝えてくれた声。
「会いたい」
彼女の目の前に座っているのが、彼女の父親であると理解している。それでも彼女が会いたいのは父ではない。兄なのだ。
葵琥珀。彼女は両親にそう名付けられていた。だが、彼女は敢えてその名を名乗らない。彼女は兄に貰ったもので全てを構築されていると信じ、自らを葵縺夜とした。兄が彼女にくれた名前だった。
兄が反抗した父などどうでもいい。兄に、唯一世界を共にした人に会いたい。あの人をこの目で見たい。
「私、もう自分で探せるの……」
兄様、自分から貴方に会いにいける。
葵の病院で過ごしていた、天性的盲目と足の麻痺を持つ夕日色の髪を持つ琥珀は、車椅子の上で誓った。
「会いに行きます」
彼女の世界を創世した兄に。
彼女の初恋の相手である兄に。
彼女に全てを分け与えてくれた兄に。
彼女を愛してくれた兄に。
彼女の兄に。
峰本連夜に、会いに行こう。