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 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません


 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください


 以上の点をご理解の上、お読みください

 朝餉に揃って姿を現した在駆と静葉には個性豊かな視線が送られた。

 晶哉からは睨むというより呆れられていたし、連夜は浮き足立ったように茶化す視線、英霊からは純粋に喜びの視線、とどの視線にも二人は応えにくい。


 「二人のことはどうでもいい。在駆先輩と幻女はおれを手伝ってくれるのか?」


 とうとう静葉たちが何かを切り出す前に晶哉が痺れを切らせて聞いた。既に全員が食事を済ませていて、連夜などさて行くかと言い出していたところだ。一人だけ食べている途中だった英霊が急いでご飯を食べてむせてしまったので、冗談冗談、と連夜も休憩するつもりになっていた。


 「曖昧にしたままで最後に痛手を喰らうなんて真っ平ごめんだ。たとえ出鼻を挫くことになっても、ここではっきりさせておきたい」


 晶哉が英霊に最後の一口を食べさせながらそう言った。英霊は不知火の食事(羅沙や明日羅では質素と表現される)をおいしそうに頬張っていた。羅沙の帝都:ラガジに慣れた英霊のそういう態度は、北の森出身者にとって嫌なものではない。そこまでおいしそうに食べてくれるなら幾らでも食べてくれ、と楼家の女中たちが英霊の様子を襖の向こうから伺っているのは、その場の全員が把握していた。静葉も意図的に喜んで食べているように見せていたが、やはり味が薄いと感じていた。それを見破られたのか、英霊の純粋さには叶わなかったのか、女中たちは見ていなかったが。

 どうなんだ、と晶哉に念を押される。静葉は在駆との関係を整理するために来たと思っているし、そもそも晶哉たちが静葉を必要としたのは不知火に入るためだ。その目標は達成したのだから協力してやる理由もない。


 「ぼくは副隊長の件について、蘇りには反対の立場です。確かに副隊長の存在はぼくにとっても、母の存在証明という点において魅力的であり、それを除いたとしても不知火の男としてあの強さには憧れを抱いていました。だからといって、死んだものを呼び戻そうというのは命の冒涜です。副隊長の命をぼくらと同じ価値の一つの命と捉えるからこそ、反対の意思を変えるつもりはありません」


 「私さー、さらっと聞いただけでよく分かってないんだけど。簡単に言ったらエモーションっていうの倒してキセトの記憶の欠片を貰って集めたらキセトが生き返るの?」


 「超簡単に言うとそうだな」


 「キセトを生き返らせて欲しいって言ったのは亜里沙さん? なら分からなくもない、かな」


 静葉の視線は晶哉に向けられたままだったが、静葉の心が誰を向いているのかは明白である。在駆がわざとらしい咳払いをした後、違うと思います、と冷めた声で言った。亜里沙が出した愛のある案ではないでしょう、と在駆は晶哉を睨んだ。どうせ、貴方なのでしょう、とその視線は嘘を見抜くかのように鋭い。


 「おれの案だ。松本瑠砺花には賛同されて手伝って貰った。松本経由で峰本連夜の協力も得ている。まぁ、その糞隊長殿は十割賛同ではないから、いつ非協力体制になるやら」


 「なんで晶哉がキセトを蘇らせるのよ。理由がないでしょ、理由が」


 「……友達だったから、では不十分なのか?」


 「友達だったから生き返らせたいの?」


 静葉の言葉は晶哉に対する質問というよりかは自問に近かった。晶哉の答えより自分の中の答えを探すかのように、目を閉じて答え探しの旅に出てしまっている。

 静葉に「友人」という存在は少なくない。そのほとんどがナイトギルドとして活動していた時期に羅沙の帝都ラガジでできた人たちばかりだ。瑠砺花を代表とする同世代の女性が中心である。もっとも親しいといえば瑠砺花になるのだろう。次点に戦火あたりだろうか。流石にナイトギルド外の友人たちは、その一緒にいる時間の少なさから候補には上がらなかった。


 (瑠砺花が死んだら、私は生き返ってほしいと思うかしら)


 生き返るという選択肢がそもそも身近ではない。死というものは本来絶対的なもである。


 「友達だからって理由がどれぐらいなのか私にはわかんないわ。正直に言うと、意味わかんない。全く想像できない。私には理解できない。それが今、私の限界かな」


 「だから、どうするんだ」


 「待ってる。ずるいのかもしれないけど、晶哉がやり遂げるのかやり遂げないのか、どっちにしろ終わるのを待ってる。私は手伝わない。私の中で人は死んだらおしまいなの。それは、変えちゃいけないのよ。だから、生きていて欲しいって思うし生きていることが嬉しいの。失うと心が裂けそうなほど痛いのも、喪った人の大切さを示しているものよ。キセトが死んだことは悲しい。会いたいとも思う。でも、蘇らせるっていうのは違うから。どっちの結果でも受け入れるけど、どっちかだけの結果を呼ぼうとは思わない」


 また会いたい。それも事実。しかし、生き返って欲しくない。それもまた事実なのだ。

 どちらも静葉は望んでいるのだから、どちらでも受け入れよう。


 「晶哉や連夜の判断に任せる」


 最終的に静葉が立ち上がることはなかった。英霊も立ち上がり、連夜に手を引かれて部屋を出て行く。それを見送っていた。在駆は監視という役目のために立ち上がる。


 「では、行ってきますね」


 「……うん」


 在駆が襖を閉じたあとも、静葉によってその襖が開かれることはなかった。

 静葉は過去にキセトを拒絶した人物だ。やはり、キセトの物語に再登場するつもりなど、彼女にはなかったと言えるのだろう。

 


 




 



 

――時津と楼――

この章では、BNSHシリーズ前作の『Black Night have Silver Hope』ではすれ違いで終わっていた時津静葉と炎楼在駆の物語を取り扱いました。もちろんBNSH2の本編でもあるので、キセトの物語でもあり、連夜の物語でもあります。しかし、やはりこの章の主人公は静葉と在駆なのです。

この二人にとって「血縁者」とはどういう存在なのか、軽く感じていただければ幸いです。

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