001 -再び、日常-
この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます
これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます
ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります
「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません
なお、著作権は放棄しておりません
無断転載・無断引用等はやめてください
以上の点をご理解の上、お読みください
不可侵条約再結締より二年が経つある日、ナイトギルドにもこの二年なりの「日常」が出来上がっていた。
羅沙大栄帝国第二番隊私的軍個々隊代表ナイトギルドという仰々しい肩書きには変わりなく、隊長も峰本連夜が勤めている。変わったのは副隊長以下の面子たちだ。
まず副隊長に松本瑠砺花。二年前のように問題を起こすことはなくなり、副隊長としての仕事を問題なくこなしている。
その下に落葉蓮、西野英霊が変わらず所属し、新しく焔火龍道が入隊している。
一般からも軍の上部からの依頼も受け付けているナイトギルドはそれなりに忙しく、隊長、副隊長が直接依頼につくことも少なくない。
今日も副隊長である瑠砺花が連夜からいくつもの用事を言い渡されていた。
「あぁもう、シゲシゲの家行ってー、それで魔物狩り!? 忙しすぎるのだよ!」
一人で愚痴もこぼしたくなる忙しさだ。誰に対してでもなく怒りながら、シゲシゲこと哀歌茂茂の家がある第一層へ向かう。
茂はもともとはナイトギルドの隊員だったが、二十歳の誕生日を迎えると共に除隊して実家を継いだ。それからは跡継ぎとしてそれはもう、ナイトギルド以上の忙しさに目を回していると瑠砺花も聞いている。
「シッゲシゲ~」
早速家についてなつかしの少年の名を呼んでみるが反応は無い。暫くして大量の伝票を持った茂が駆け寄ってきた。この広い屋敷のことだ、声が届いたわけでもないだろう。気の利く使用人たちが知らせてくれたのだろう。いつものことで、二年という月日のおかげでお互いに慣れている。
「松本さん、こんにちは。そこの荷物には触れないで下さいね。すいません応接間……へ行く時間はありませんのでこの伝票持って倉庫のほうへ直接行ってください」
「『係りのものが対応しますので』なのだね。了解なのだよ~」
「すいません、では」
それだけ言い残し颯爽と去っていく茂。瑠砺花も慣れっこで一人で付属倉庫のほうへ進んだ。
二年前、瑠砺花が元奴隷身分であることが公になったときからすれば、考えられないだろう。元だろうがなんだろうが、奴隷と呼ばれた身分のものが第一層の哀歌茂本邸を自由に歩く姿など。
「あ、この荷物っぽいのだよ」
すでに倉庫の外に準備してある荷物の伝票を確かめる。確かにナイトギルドが注文したものに違い内容だ。
「ここでお確かめになりますか?」
「あ、いや、いいのだよ。ありがとうございました」
「それでは車をご準備いたしますので少々お待ちください」
「一箱だけなのだし持って帰れるのだよ? そんな重いものでもないのだし」
食い下がろうとする哀歌茂組合員を振り切って、瑠砺花は再びギルドのほうへ戻る。この荷物さえ連夜に届ければ今日は魔物退治の任務のみだ。
「のみ、って依頼でもないのだけど。南の森まで行かないと駄目なのだよ。しかも合同任務なのだしー!!」
面倒だなぁ、と呟き。
もくもくと歩き。
ナイトギルド本部の入り口を通り。
「ただいまー」
荷物を置き、
「いってきますなのだよー」
再び出かける。
もう集合時間は迫っていた。合同任務にナイトギルド代表として参加しておいて遅刻すると面目丸つぶれである。
急いでギルドのある二層を抜け、三層を駆ける。南の森の入り口に集まる人影を認めて、ナイトギルド代表ですと叫ぶ。
「間に合ったのだよ!!」
「間に合ってないけどな。あれ、峰本はどうした」
「レー君は別任務なのだよ」
今回の合同任務の責任者、サンクチュアリギルド隊長だ。ナイトギルドの人材不足のことは知っているのでそれ以上追及しなかったが、本来は連夜も参加すべきところだったのだろう。いい気分ではなさそうだ。
「私が頑張るのだよ……」
「そうしてくれ。今回は研究対象の保護だ。出来るだけ傷をつけずに精霊を捕らえて欲しい。こんな、手のひらサイズのひらひら飛んでる奴だ」
「なーんだ、戦闘じゃないのだよー」
「戦闘より走り回るぞー。相手は空飛んでるんだからなー」
これだよ、と篭のようなものを瑠砺花の前に押し出してくる。
手のひらサイズで、ひらひら飛んでいる。そしてなにより、見た目が。
「レー君だぁ……、きも……」
見た目は峰本連夜だった。真っ赤な上着、真緑のインナー、銀髪の天然パーマ。そして誰かを挑発するためだけの笑顔。
「一応自分の一番好きな人に見えるらしいぜ。おれにはぼいんのねーちゃんに見える。お前には峰本に見えるのかよ。しかも、きもいはひどいな」
「連夜君がひらひらした感じで、手のひらサイズで大量に飛んでるのだよ? そりゃ、気持ち悪いのだよ」
まぁ、それは確かに気持ち悪いけどよ、とサンクチュアリギルド隊長も同意した。瑠砺花に空の篭を渡し、結構飛んでるから、とだけアドバイスした。瑠砺花が周りを見渡すと、この合同任務についている人々が小さな精霊相手に飛び回っているのが見える。
「んー、だっるそー」
「ちゃんとしろよ、頑張るって言っただろうが。この木から奥には入るなよ。聖域だ」
「聖域?」
「魔物の住みかだよ。空気中魔力濃度が高いから、魔物が集まるんだよ。その代わり、人間が入ると向こうが怒る。そりゃもう、目茶苦茶怒る。聖域の中に入れば精霊もわんさかいるんだけど。もう一回言うぞ、絶対入るな」
「はーい」
仕方が無いなぁと瑠砺花も精霊探しを始めた。これが中々難しい。見た目は連夜そのものでも性格は全く違うらしく、見つかるところに出てこない。これが連夜ならおちょくるためだけに出てくるだろう。小さいから音もしない。視覚情報だけで見つけるしかない。
やだなぁと言いつつ、仕事は仕事だ。瑠砺花もこの広い南の森の中を力弱く歩き回ることにした。