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 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません


 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください


 以上の点をご理解の上、お読みください

 明日羅帝都に姿を現したのは、晶哉・連夜・英霊の三人だけだった。連夜が自ら記憶体の収集に乗る気になったことで瑠砺花という言い訳を必要としなくなったのである。そして、連夜が瑠砺花の同行を嫌がった。瑠砺花が明日羅を訪れることを嫌がったのだ。

 明日羅帝都には主に茶色い髪の者が多い。紺色もちらちらと見えるが、銀と黒は連夜たち以外には居なかった。それそもそのはずで、羅沙が不知火の黒を嫌うように、明日羅は葵の銀を目の敵にしている。連夜の銀髪、英霊の白髪に対して決して友好的ではない視線を人々は向けていた。

 だが連夜が考えるのはそんな視線のことではなく、英霊がナイトギルドで連夜たちに語ったことについてだ。キセトに口止めされていたと英霊は言った。なぜ口止めしたのか、怒りすら感じる内容だった。


 「用件を聞かずに呼び出されたので、まだ把握していたのですが……。何のために明日羅まで来られ、わざわざ私を呼ばれたのですか?」


 翡翠ではなくその御付に用がある。

 連夜が明日羅城の門まで来て門兵に言った言葉がそれだ。当然、門兵たちは戸惑った。

 目の間にいる男、銀髪のやけに目立つ服装をしている二十五・六歳のこの男。二年前に明らかになったことがこの男の法螺でもないのなら、彼ら兵士が命を捧げる明日羅皇帝の子息になる。信じがたいが、二年たった今でも明日羅皇帝は否定という否定を公言していなかった。

 そして門兵伝いで呼び出された時津嵐は、門で連夜を確認すると城の来客用の建物へ通した。静葉もしばらくしてから姿を現す。キセトに対しての嫌悪感でギルドを離れた静葉は、連夜たちには変わった様子は見せなかった。普通に、久しぶりね、と挨拶を交わしてソファーに全員が着席する。


 「用件っていう用件は二つ。一つは静葉に不知火まで一緒に来て欲しいってこと。もう一つは英霊からになる。英霊の話から聞いてやってくれ。話聞きながら静葉は不知火行きのことも考えてくれたらいいからさ」


 その場の全員(時津嵐・静葉、連夜、晶哉)の視線を受け、英霊は視線を下に逸らす。静葉は英霊の対人恐怖症のことを思い出し、父に視線を逸らすように耳打ちした。英霊にとってよく知らない嵐の視線がそれたことで、やっと話し出す準備を始める。

 まず初めに、とても大切そうに持っていた分厚いファイルを机の上に置いて、嵐たちのほうへ押した。


 「パパが、キセトさんがまとめた書類です。お兄さんのことが書いてあります」


 お兄さん? と時津の二人が首を傾げる。静葉は自分の兄、時津冷樹を思い浮かべたが、英霊との繋がりが見つけ出せず、それを答えとしなかった。


 「時津さんの、あっ! えっと、静葉さんのお兄さんなんですよね。その、僕、少しの間だけ一緒に居たんです。キセトさんが言わないほうがいいって言いました。だから僕、ずっと黙ってた。でも、でも……。静葉やキセトさんがナイトギルドから居なくなって一人で考えて……、話すべきだって思ったの。僕も自分の家族のこと知りたいって思った。静葉さんだって同じだと思ったんだ」


 英霊は自分が持ってきたファイルから一枚書類を出した。その書類には嵐と静葉が見慣れた男が微笑んでいる写真が貼られている。紛れもなく、嵐の息子であり静葉の兄である時津冷樹についての書類だった。

 英霊はその書類のある欄を指差す。時津の二人には信じがたいことに、そこには「羅沙へ交換奴隷として渡る」と記されている。時津の街の、時津が治めていた領地の次期領主ほどであった男が奴隷に身を落としていたという事実がそこにはあった。


 「僕は羅沙の奴隷管理所でお兄さんと出会いました。僕が幼いから、お兄さんは僕のお世話をしてくれたんです。僕はお兄さんが大好きでした。でも、お兄さんはある日突然、帰ってこなくなりました。淋しかったです。その時に何があったのか、僕もこの書類を見るまで知りませんでした。キセトさんが調べてくれたことなんです。お兄さんは死んでいました」


 やはりかと嵐が零した。時津の街が燃えたあの日ではなかったとしても、もう生存を望むことは厳しいだろうとは思っていたのだろう。それは静葉も同じで、父が生きていたと知ったあの日、兄や家族の生存を望んだことを思い出した。明日羅で、父の下で働くようになってそれが絶望的だと知ったのだが。そもそも明日羅の正規軍を使って調べているのに手がかりすら出てこない状況なのだ。街が燃えた日に死んだという扱いにしかならない。


 「英霊君、私がファイルから書類だしてもいいかな?」


 「う、うん。僕じゃ分からないことも沢山あったから、静葉さんたちが自分で見るのがいいと思う。キセトさんは全部知ってたってことだろうけど、キセトさんが黙ってたのだって理由があると思う。僕にはその理由が分かんない。でも、でも……、キセトさんはキセトさんなりに静葉さんのことを考えて黙ってたと思うんだ」


 「そうかもしれないわね」


 そうだとは思えないけれど。

 静葉の返しに英霊は残念そうな顔をした。ごめんなさい、と意味のない謝罪が返される。


 静葉が何気なしに取った書類に題名はつけられていなかった。キセトの手書きで調べられたことが詰め込まれている。


 [明日羅帝国領内時津領中央街、時津の街焼失について。実行犯の詳細は別資料に纏めることする。主な被害と時津家の者の生き残りに言及するものとする。

 街は中央の通りに沿って炎が広がったため、時津の屋敷と中央通り沿いの民家・商店は全焼。飛び火が確認されたその他建物の全て全焼した。その異常な火力は魔法により生み出された炎が原因と推測される。早朝だったため家屋内にて睡眠をとっていた者が多く、中央通り沿いの建物に済んでいた者のうち生存者は少なかったことが判明。火元は時津の屋敷であったが、時津家の者のうち数名が事前に明日羅軍や非公式の部隊によって救出されていた。当事領主であった時津嵐、当時の跡継ぎ時津冷樹、当日時津の家に泊まっていたとされる田畑沙良は明日羅の書類によって事前の救助を確認。時津静葉に置いては日課となっていた街の外(南の森)にての訓練により難を逃れた。(追記:時津の街焼失当日に街へ入った養子の存在が明らかとなった。詳細は殺人鬼ミラージュと同じ項目にて述べるとする)]


 「……ねぇ、英霊君。この書類、いつからあったか分かる?」


 「僕がギルドに入ったときにはあったと思います」


 「そうなんだ……」


 おそらく追記の部分は、沙良が起こしたミラージュの事件があった時のものだろう。だがそれ以外のことが英霊の入隊時に分かっていたとしたら。少なくとも一年は、嵐と冷樹の生存をキセトは静葉に黙っていたのだ。善悪の判断がつかない幼い英霊にも黙っておくように指示していた。

 この二年で消えたと思った嫌悪が静葉の中で煮えたぎる。何でそんなことをしたの? なぜ、言ってくれなかったの? と。


 「静葉、こちらを」


 「はい、お父様」


 嵐が静葉に渡した書類には冷樹の最期について書かれていた。


 [時津冷樹は明日羅の非公式的な部隊に救助されたため、その身を奴隷身分に落として別人に成りすました。しかし、羅沙は時津冷樹に執着し、奴隷身分に落としたことは逆効果となる。羅沙・明日羅間の同盟によって奴隷交換という単純な手続きで時津冷樹の身柄は羅沙へ渡ったとされる。

 しかし、時津冷樹自体に利用価値はなかったためか、羅沙は彼に奴隷の生活を強いた。彼を十二番とし、同管理所の二十五番の世話役につかせた。一年ほど世話役に徹底した後、当事羅沙帝都にて悪名をとどろかせていた殺人鬼ミラージュに狙われた貴族の盾として一日貸し出される。貸し出された日、その貴族はミラージュに襲われ時津冷樹は命を落とした]


 最後の文章で静葉の世界は反転した。いや、静葉がそう思っただけだったが、事情を知っている連夜や晶哉から見れば、その動揺は明らかで、元気が取り得の彼女に似合わない青ざめた表情になっている。


 「……静葉さん。僕、迷いました。このこと、静葉さんに言うべきか。凄く、すっっごく迷いました。きっとキセトさんもそうだったと思います。キセトさんは、言わないことを選んだんです。静葉さんが傷付くと思ったんだと思います。僕だって、静葉さんが傷つくと思いました。でも、傷ついたとしても伝えない訳にはいかないと、僕はそう思ったんです」


 嵐が娘を気遣う声がする。その声は静葉に届いていない。

 殺人鬼ミラージュに襲われて時津冷樹が命を落とした? そんな馬鹿な。だって殺人鬼ミラージュは。私たちは。


 「時津嵐。この場で付いていけてないのはあんただけだ。でもあんたが悪いんじゃない。だから優しいオレが説明してやろうと思ったんだけどなー。こっちのほうが上手に説明するだろうし、何より正確だ」


 連夜が嵐に書類を渡した。ファイルから取り出されたその書類には「蜃気楼」、後に殺人鬼ミラージュと呼ばれるようになった集団について書かれている。


 「……拝見しよう」


 嵐も嫌な予感と言うものがしたのだろう。その書類を取る手は震えていた。


 [殺人鬼ミラージュ、もしくは無差別殺人鬼「蜃気楼」。彼らの役九割は時津の街の護衛団とされる。その他は時津の街と交流があった、時津の領地内の街の出身者のうち戦闘経験があった者たちである。時津の街の護衛団独特の技術を駆使し、複数での犯行を突き止めにくくしていた。事件現場となった羅沙の帝都ラガジでは単独犯の線で操作されていたため、その正体を突き止めるに至らなかった。

 その集団の主犯格として、時津静葉と上田形が上げられる。時津静葉は皇帝の密命を受けた焔火キセトと鉢合わせ、対象の殺害に失敗。しかし、時津の街焼失時の実行犯の片割れの情報を手に入れ、実行犯を殺害する。実行犯は二人、そのうち一人はミラージュの最初の犠牲者となった。

 実行犯を二人とも殺害した時津静葉は無益な殺人を止める決意をしたが、上田形はそれに反発。殺人鬼ミラージュは上田形の指揮の元、殺人行為を続行した。その後、時津静葉から殺人鬼ミラージュの殺人行為の制止を依頼された峰本連夜が、上田形らを殺害。以上をもって殺人鬼ミラージュの犯行は終了した。(追記:その二年後、二度目の殺人鬼ミラージュが田畑沙良にて立てられた。主犯格は田畑沙良とギィーリと呼ばれる少年である。その少年は時津の街焼失当日に時津の街へ訪れた養子であったと思われる)]


 静葉は父から目を背けていた。父は書類を読み終えたであろう後も顔を上げない。坦々と綴られる内容は、彼にとって多すぎる。自分や自分の家族、街の住人を守っていた護衛団は所謂正義だった。それが殺人鬼になっていたという事実。その主格が実の娘と、自分の古い友人であり担当護衛だった上田形であるという事実。そして、目の前にいる峰本連夜がその友人を殺したという事実。それを頼んだのは娘であるという事実。……そして、先ほどの情報とあわせて考えるのなら、娘と友人が指揮する集団が息子を殺したという事実。

 あまりにも多すぎて、その一つ一つが重すぎて、顔を上げたら最後、この世界の全てが変わって見えるのではないかと怖かった。

 嵐が顔をあげないままだったので少し休憩することになった。静葉は嵐に声をかけようとしたが、休憩にしようと決まったと同時に嵐は席を立ってどこかへ行ってしまう。そのまま各自で休憩に入ってしまった。

 

 


 

BNSH1の序盤、殺人鬼ミラージュ編からの問題に入ります。

その真相や、時津家と楼家(アークの出身家です)の関係について。

そして最後には静葉とアークの恋愛の結末が待っています。

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