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014

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません


 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください


 以上の点をご理解の上、お読みください

 晶哉はあっさりと連夜の同行を認めた。自分の手を拒絶されたときにどうにもならないと考えたのかもしれない。自分が始めたことなのにまた連夜の後ろをついて行く形になるのを嫌ったのか、晶哉は一つだけ条件を付けた。


 「これから先の記憶体集めも協力すると約束してくれないか」


 晶哉にしては優しい言い方だが連夜を逆なでするには十分すぎる鋭さを持っている。

 瑠砺花は男たちの不器用さに呆れ、また口喧嘩でも始まるだろうと食堂を逃げ出そうとした。だが連夜に服の裾を掴まれそれを阻まれてしまう。口喧嘩などに付き合ってられないと振り返るが、連夜は笑っていた。


 「なぁ、晶哉。お前、長男じゃないんだろ。その話が聞きたいな、オレ」


 「それをどこで知った?」


 急激な話題の変換に瑠砺花ただ一人が戸惑う。石家の内部などまったく知らない瑠砺花にとって晶哉が長男でないからなんだと言うのか、さっぱり分からない。


 「いろんな人に忠告されたからな。お前は長男じゃないのに嫡子である。石家の伝統に合ってない。もし伝統を捨ててお前が嫡子としても、嫡子が石家の思惑に反したことをしているのはおかしい。だから、聞いとくべきかなーって」


 「……答えたくない。おれがキセトを元に戻そうとしていることは事実だ」


 それは瑠砺花も連夜も疑っていないはずなのだ。特に瑠砺花は、キセトを蘇らせた後も晶哉がキセトを助ける決意をしたことを聞かされている。


 「ねぇレー君。長男とかよく分かんないけど、ショー君は本当にキー君を蘇らせようとしてるのだよ。その後のことだって考えてるのだし……」


 「別にそこを聞きたいわけじゃねぇよ。お前がもし長男じゃないから嫡子じゃないってことになるとだな、お前の持ってる情報が正しいかどうかが分からないってことだろ。石家に偽の情報掴まされてるかもしれない」


 「おれは石家内部の人間だぞ。偽も何も、おれが情報源なんだ」


 「と、思わせといて……っていうのがないとは言えないだろ。オレが気にしてるのは、お前のやりたいことと石家のやりたいことが真逆だってこと。でもお前の行動を石家は無視してる。なんも邪魔してこないのが怪しいって話だ。お前自身を疑ってる訳じゃねーよ」


 「確かに石家がおれの行動に対して何のアクションもないことはおかしいと思っている。それとなく羅沙の石家に探りを入れてみても、おれがキセトを元に戻そうと動いていることすら通知されていなかった。利用されているかもしれない。その可能性は否定できない」


 「そうすると、利用してるのは不知火の石家か、本物の長男か?」


 「石家の方だな。本物の……すでに勘当された身のあの男がわざわざ石家のことに関わってくるとは思えない」


 連夜は顔も知らない「本物の不知火の石家の長男」を頭に浮かべてみた。

 たった今、晶哉は勘当されていると言ったか。だが石家に生まれた身であるならその命は結晶のものではないのだろうか。勘当されればそれもなかったことになるのだろうか。


 (いや、ならないな。そんなことになるなら勘当されるほうがマシだって、マスターも鹿島も思うだろうし)


 一見矛盾したことが起きている。ならどちらかが嘘つきということだろう。


 「晶哉はなんでそんなこと言える?」


 連夜の私情が、マスターたちに疑いを持つことを嫌った。連夜と共に笑ってくれた彼が嘘を吐いていたとは思いたくないと思った。


 「あの人は石家が大嫌いだからだ。石家だけではない。世界中のありとあらゆるものが嫌いだ。自分が最も弱いと考え、自分より強いものが嫌いなんだ。関わりたくもないと思っているに違いない。石家のことも『世界規模で目的を持ててしまう強い一族』として見ていると本人に言われたことがある。本当に関わりたくないのだと言っていた。それにあの人がキセトに関してマイナスになることをするとも思えない。あの人はキセトを『弱者』としている珍しいタイプだ。『自分より弱い奴は嫌いじゃないよ』とか言ってキセトのことを気に入っている様子だった」


 「なんだ、会ったことあるのかよ。その本物の長男に」


 「……キセトを気に入っていると言っただろ。キセトの近くにいつでも居たんだよ」


 「晶哉といいその兄貴といい、兄弟でキセトがお気に入りか」


 晶哉はその男と同列に扱われるのが気に食わないらしく、連夜のその言葉に対しての明確な返事はしなかった。言い訳らしきものはしていたが。


 「そもそも石家は賢者の一族の僕でもある。神の僕の結晶の僕。賢者の一族は神の力を持つ一族だからな。どうしても惹かれるんだろう」


 「あれ? オレは?」


 「びっくりするぐらい魅力がない」


 「ひでー!」


 なぜキセトなのだろう、と晶哉ですら首を傾げる。連夜もキセトもその立場はあまり変わらない。石家の本家とも言える不知火の石家の近くに居たのが、連夜ではなくキセトだったからなのだろうか。

 連夜も晶哉も黙り込んでしまった。考え込む晶哉と、晶哉の結論を待つ連夜の間に立たされた瑠砺花が連夜の袖を軽く引く。そもそも瑠砺花はこういう沈黙が苦手だ。


 「ねー、私にはよくわかんないのだけれど、レー君はショー君に協力するってことなのだよ?」


 単純な問いに連夜は数秒考えてそうだな、と肯定の意を示す。


 「今のところはそれでいいか。まだ納得は出来てねーけど。記憶体を集めてキセトを元に戻すにしても、記憶体を破壊してキセトを完全に殺すにしても、まず集めないとならねーのは変わりねーし」


 「よかったのだよ、ね? ショー君」


 「協力してくれるなら、……そう、感謝する」


 「素直じゃねーの」


 晶哉にすればかなり素直な返答と言えるのだが、連夜にはまだ物足りない返事のようだ。分かりやすく不機嫌な表情を作った連夜に瑠砺花が焦る。


 「と、とりあえずレー君に管理所に来てもらうのが一番なのだよ。エモーションは見つかったのだけれど、なんだからさけられちゃったのだし」


 「捕まえればいいじゃん。そもそもエモーションは殺さないと記憶体にならねーんだろ?」


 連夜はそれを嫌がっていた。それが他人ならそれほど連夜は嫌がることはない。一度目の殺人鬼ミラージュを全員殺して終わらせたのも彼だ。

 対象が他人なら、だ。連夜は、本人がどう言おうと友人や知人を大切にしている。自分の友達でもあるキセトの欠片に対して「殺そう」と決意するなんて、連夜には悩みもあったはずなのだ。


 「……そうだが」


 その悩みを無視して協力させておいて、晶哉たちが気が進まないとは言いにくい。


 「めんどくせ。相手が子供の外見だからダメなんて、本当に面倒だ」


 「ご、ごめんってレー君。ほら、行こう?」


 瑠砺花が手を取って連夜を立ち上がらせる。ねぇ、行こう、と瑠砺花が繰り返す。手を引かれて連夜は悪い気はしてない。しかたねーな、と呟く顔はどこかゆるい。

 管理所についた後も連夜の機嫌が良かった。だからこそ、晶哉の案内を無視して入り口付近で突然立ち止まった時、瑠砺花と晶哉で何が気に障ったのか全く予想も出来なかったのだが。


 「………」


 「どうしたんだ? エモーションを見かけたのはここじゃない」


 「いや、別に」


 「いやいや、レー君。気になったことは言うべきなのだよ?」


 「んー、じゃ言うけど。匂い、しねー?」


 「「匂い?」」


 瑠砺花と晶哉が空中を嗅ぐが連夜の言う匂いが分からない。


 「キセトの魔力の匂いに、なんか混ぜたような……」


 「魔力の匂い!? お前は魔力犬か!? 分かる訳ないだろ!」


 連夜が言う「魔力の匂い」は常人なら嗅ぎ分けられないものとされている。人間より嗅覚が発達している犬などに特別な訓練を施してやっと嗅ぎ分けられるかどうかという物だ。


 「鼻はいいんだよなー。犬科だからじゃね?」


 「えっ、レー君は人間だよね?」


 「銀狼って狼だろ。狼って犬科だろ?」


 「それって地位名なのだよね?」


 「まぁな」


 じゃ、関係ないのだよという言葉を瑠砺花は飲み込む。折角上機嫌なのだ。わざわざ気分を損ねることはない。偶然瑠砺花と晶哉の視線が合い、互いに仕方がないというように肩をすくめた。

 連夜はまだ空気中を嗅ぐ仕草を続けていて、瑠砺花の手を握って一人で進み始めた。引っ張られて後に続くしかない瑠砺花と、その後を追いかける晶哉という順番で道を進んでいく。


 「あー、やっぱり。これキセトの魔力の匂いだ。それに晶哉に似た魔力の匂いが混じってる。たぶん石家の誰かの魔力なんだろうな。その特徴的にエモーションの匂いってことだろ? こういう閉め切ってる建物の中でないとまともに使えないけど、オレの鼻が役に立つとは思わなかった」


 ちなみに、と二人を振り返った連夜はまだ上機嫌で得意げに笑っている。


 「瑠砺花の臭いは水っぽい」


 「女性の臭いを口に出さなくていい!!」


 思わず瑠砺花がキャラ付けも忘れて叫ぶ。同時に連夜の頭部を出来るだけ強く叩いた。


 「もー、嫌いっ!」


 「そんなこと言ってる間に、あれ、あのガキだろ?」


 連夜が指差した先には安っぽい長椅子とその上に体育座りをしている子供。その細い手足を隠すように短い服を引き伸ばしている。長い髪もその白い肌を隠すのに役に立っているようだった。連夜が目の前にたつと、薄暗い場所が更に影になって暗くなる。ゆっくりと子供は頭を上げた。連夜を探るように見る。連夜の瞳を覗き込み、不思議そうに首をかしげる。


 「だあれ?」


 「お前のお友達の峰本連夜だ。迎えにきたぜ、キセト」


 「お友達……」


 子供の瞳に宿っていた疑問に恐れが混じる。連夜はそれを大人に対する子供の恐怖だと解釈した。

 ごめんな、とキセトに謝る。目の前の子供ではなく、自分の友達であるキセトに。

 連夜は首を狙った。連夜の握力ならひと思いに殺せると思ったからだ。しかし、子供の首を捕まえたが奴隷用の首輪が身代わりとなり逃がしてしまう。椅子から転げ落ちた子供を足で転げさせ、今度こそ床の上で拘束した。


 「悪いとは思ってるから、今度謝るさ」


 「……僕の、友達?」


 「そうそう、友達」


 「また……、また、僕を置いていく……、の?」


 苦しそうにもがく間に漏れた声。その声は、キセト一人を化物という場所に置いてきた連夜に言ったものなのだろうか。事実がそうでないにしても、連夜にはそのように感じられ力を緩めてしまった。

 子供と言えど、将来キセトになる子供だ。その一瞬の手加減を逃す子供ではない。体の小ささを活かして連夜の手中から逃げ出した子供は、その先に大人二人を見つけた。髪の長い大人と、そして――。


 「サードっ……」


 「頼む、諦めてくれ」


 晶哉が視線を合わせるために屈みこんでから差し出した手を、願いを、子供は跳ね除ける。


 「また、またその手は掴めないんでしょう!? また、僕を置いていくんでしょう!? そうなんでしょう、サード!」


 連夜と瑠砺花が戸惑う中、晶哉は、サードはその言葉が何を刺すのかやっと理解した。いつのことを言っているのか、何を怖がっているのか。


 「違うっ! あの時は、あの時のおれには分からなかったんだ! 当然だろう! その時、まだガキだったおれに選べたっていうのか!? 自分の家か、目の前に居る友人か。選べなかったんだ! どちらも一瞬の決意で捨てられるものじゃなかったんだ! でも今は違う。今はこの手を取りに来た。今度こそ、本当だ。今度こそ離さない!」


 晶哉には過去の光景が見えた。今握る、この小さな手を握ってやれなかった過去だ。目の前に居る子供が賢者の一族だと初めて知った日のことだ。そして、刹那の時間に自らの家と友達を天秤にかけたあの時のことだ。

 友人同士だと思っていた二人を引き裂いた瞬間のことだ。


 「今度こそ、お前の手を取らせてくれ。遅くなって、ごめん」


 晶哉が子供の小さな手を自らの両手で包み込む。少し痛いぐらいに握って、思わず下を向いた。真正面からこの言葉を投げかけられるほど、この子供を待たせた時間は短くない。

 キセトを待たせたのはキセトが死んでから二年だけかもしれない。だがこの子供を待たせたのは。この頃の晶哉の友達を待たせたのは、十年以上にもなる期間のことだ。


 「ごめんな。本当に、遅くなってごめん。エイス」


 晶哉の手がまた振りほどかれた。しかし、子供は晶哉の前から立ち去る様子はない。


 「許してあげる。だからね、サード。早く、僕を、キセトを、掴んであげて」


 あげる、という上からの物言いは無意識に出たのだろう。その辺りはキセトらしくない子供は、自然な笑みを晶哉に向けている。晶哉に上を向かせて力いっぱい抱きついて、光の玉へと姿を変えた。


 「……必ず、エイス。約束するよ。必ず」


 光の玉のうち一つが意思を持ち晶哉の周りを浮遊している。おそらくそれが記憶体なのだろう。


 「なぁ、瑠砺花ちゃん。オレ、来る必要あった?」


 「えっ!? あーえっと、あったようなないような……。ってほらレー君。光がレー君のほう来たよ!」


 瑠砺花は正体不明の光に怯えて連夜の後ろに隠れた。連夜は晶哉ではなく連夜のほうへ来た記憶体を見つめる。


 「なんでオレなんだか……。一つ持ってるからそっちに共鳴でもしたかな?」


 丁度いい高さだ、と余計なことを考えながら連夜はその光の玉を握った。晶哉が子供の手を強く握っていたように、強く。

 

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