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 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません


 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください


 以上の点をご理解の上、お読みください

 晶哉が一番に尋ねたのは、過去に晶哉自身も属し、キセトも共に過ごした管理所だった。瑠砺花は町中に元奴隷と知れ渡っているので晶哉が率先して聞き込みを進めていく。


 「管理側に聞いてみたが、なんか幽霊が出るんだとさ。やっぱりここに居ると思う」


 「ふーん、じゃ、幽霊探しなのだよ?」


 「そうなるな。別に夜じゃなくても出るらしいから、おれらが居たあたりの区画に行ってみようぜ。当時は不知火人奴隷で固められて一つの区画に居たんだ」


 そう言って案内の係りの者まで置いて晶哉は歩き出す。後ろを歩く瑠砺花を気にはしているものの、歩くスピードは勝手を知っている者のそれだ。まるで自分の家を歩くように管理所内を進んでいく。それが晶哉もここに居たという証拠なのだろう。


 「んー、なんで不知火人奴隷がそんなに大量に……。時期にもよるのだけど、奴隷で一番多いのは貧しさ故に売られるってことなのだよ。だから奴隷も羅沙人が多いはずなのだけれど」


 「戦争のときの捕虜を流したからだよ。二十二年前の奪還戦争時の捕虜が多すぎてな。殺すぐらいならって奴隷に流された一部だったんだ。抵抗する力も無い子供だけが奴隷に流されて生き残った。大人の捕虜は自分たちで抵抗して、ほとんどが殺されたそうだ。ここに居たのは八人の子供。一番年上でも十二歳、一番年下がキセトで四歳だった。八人で纏まって奴隷として過ごしたんだ。プライドはズタズタに引き裂かれてた。それでもそれぞれ自分より弱い立場の仲間を守るために生き残ることにした」


 「そんなふうに奴隷になることもあるんだ……。お金のため意外だなんて考えもしなかったのだよ。キー君も元奴隷って知ったとき、お金に困るようなタイプじゃないのになんでなんだろうなぁ~って思ったのだよ」


 もう顔も覚えていない母を瑠砺花は振り返る。一緒に過ごしていた時期も親子らしいことは何もしなかったが、娘を奴隷として売ることで金を手に入れた人だ。親に対する愛情より憎しみや軽蔑が勝っている。金を手に入れるために人を売る。それが奴隷になる理由として最も多く、奴隷が人々に軽蔑された理由でもある。

 瑠砺花のの前を歩く晶哉が突然止まった。ぶつかるという醜態は晒さずに済んだ瑠砺花は、前を確認するために晶哉の背中越しに覗き込む。

 そこに居たのはエモーションなのだろう。呆気ないほどすぐに見つかった彼は、一筋縄では行かないと分かるほど強くこちらを睨みつけていた。


 「……エイス」


 晶哉が手を差し出す。自信があるのだ。自分を、「サード」を知っているキセトならこの手を取ってくれるという自信が。

 だがその自信も目の前のエモーションは砕く。


 「来ないで」


 エモーションは自分で自分を抱き、険しかった表情を恐怖に変えて一歩下がる。


 「エイス! サードだ、おれがサードなんだ!」


 必死に晶哉が手を伸ばすが、晶哉が進むとエモーションも下がってしまう。様子がおかしいと瑠砺花は晶哉を止め、エモーションをよく観察した。

 体は子供のままだ。四歳というほど幼くないがよく見ても七、八歳程度だろう。髪は長く、手入れされていないのかところどころがあらぬ方向へはねている。瑠砺花が知るキセトのあの艶やかな髪とは程遠い。恐怖で見開かれた瞳は黒く、髪も同じように黒い。奴隷が着せられるボロボロの服を着ていてやせ細った手足(といっても帝都に居た二十四歳のキセトよりは常人的な細さをしていた)があらわになっていた。


 「ねぇ、お姉さんたち、君と話がしたいの」


 「……嫌だ」


 声だけではなく首も力いっぱい横に振られてしまった。もしかして勘違いかと、確認の意味も込めて瑠砺花は晶哉を振り返るが、晶哉の目はエモーションと拒絶された自分の手しか見えていない。


 「どうして、話してくれないの?」


 瑠砺花が諦めずに声を掛けたが、エモーションは踵を返して走り去ってしまった。知らぬ施設を一人で追いかけることも出来ずその場に留まるしかない。

 しばらくして晶哉は頭を軽く振って瑠砺花を振り返った。瑠砺花は晶哉の口から言い訳か、それともまだエモーションを追いかけるという内容のセリフが出てくるとばかり思っていたのだが、その予想を裏切って晶哉は引き返すことを提案してくる。


 「一度帰ろう。拒否された以上、おれがあのエモーションに接触するのは得策とは言えないはずだ」


 「冷静過ぎて怖いのだよ」


 「自分で焦ってることを自覚してるんだ。突っ走るのが怖くもなる」


 「まぁ、ショー君が帰るって言ってるのに私が行く理由もないのだし、私はいいのだけれど」


 素直に出口に向かう晶哉の後ろについて瑠砺花は考えた。なぜエモーションは晶哉を拒否したのだろうか。

 まず晶哉が自分と共に過ごした相手だと分かっていないかもしれない。術士のエモーション、椿も自分の基盤となった記憶に基づいた姿を取り、その記憶のみから作られた仮想の人生の記憶を持っていた。体が大人だったから仮想の人生が作られていただけで、子供の姿をしていたこのエモーションにとって大人の姿をした晶哉では分からなかったのかもしれない。このエモーションの中では晶哉はまだ子供のはずかもしれないからだ。

 そして、分かってもなお拒絶した可能性もある。そうなると「晶哉だから」拒絶された可能性が大きくなる。親しいから拒絶されたとなると、話し合いの場を設けること自体が難しくなってしまいそうだ。


 ギルドに帰ると晶哉は、過去に自分が使っていた私室へと引き上げてしまい、瑠砺花は食堂で連夜に報告することとなった。しかし、ほんのわずかの間姿を見ただけだ。連夜は外見が幼かったことに注目していたが、大した成果があるとは言えない。


 「子供の姿をしてたんだな?」


 「うん。えっと、見た感じは英霊君とか龍道君と同じぐらいかな?」


 「てことは八歳ぐらいか。椿の記憶は三歳か四歳ぐらいで終わってたから、結構長いな」


 連夜が親しげに「椿」と呼んだことに瑠砺花は戸惑いを隠せなかった。瑠砺花にとってエモーションはキセトの過去でしかない。連夜にとってもそれは同じはずで、いくら過去を見たからと言ってまるで接してきたかのように、当時の呼び名を個人の名前のように呼ぶ姿は違和感を隠せない。


 「なんでそんな親しげに呼ぶのだよ?」


 「特別親しげにしたつもりはないぞ?」


 「ものすっごく仲いいみたいに呼んだのだよ!」


 「えー、それはないわ。だってオレ、キセト嫌いだし」


 「えっ、嫌いなのだよ?」


 「好きだと思ってたのかよ……。オレとキセトは確かにお友達だけど、仲良くはないし互いに嫌いだぜ」


 「えー……」


 嫌い、という割には親しげに名を呼んだり、反対だ反対だといいながら記憶体集めを手伝ったりしているくせに、と瑠砺花がぼやく。ぼやきに対する連夜の答えは「お友達だしな」と簡潔な言葉だった。


 「友達だったら助けるのだよ?」


 「オレが友達だと思ってたらそりゃ助けるだろ。見捨ててもいい奴を友とかそんなふうに呼ぶか?」


 「呼ばないのだけど~」


 「そういうこと。友達だから助けるんじゃなくて、助ける奴だから友達なんだよ」


 「レー君ってバカなくせに時々難しいこというのだよ」


 瑠砺花の意見には連夜は対応しなかった。キッチンから砂糖袋を持ってきて、スプーンで直接食べ始める。料理担当だった戦火が退隊してからナイトギルドの食事は瑠砺花が見ている。連夜に並々ならぬ想いを抱く瑠砺花は自然と連夜のつまみ食いに甘くなってしまう。今回も特に注意はしなかった。


 「レー君って甘いもの好きなのだよ?」


 「辛いのも好きだぞ。北の森は味の薄い食べ物が多くて、極端に甘いものとか極端に辛いものとかないんだよ。味の濃い物って最初は慣れなかったけど慣れるとうまいよな」


 「だからって砂糖直接食べるなんておかしいのだよ」


 「甘いもんは頭使うときにいいんだぞ~。オレは頭なんて使ってないけどさ。それで、晶哉はエモーションに対してどうするつもりなんだ?」


 「それについては何も言ってくれてないのだよ。話さえ聞いてくれたら説得する自信はあるみたいだったのだけど」


 「……オレも行くか。長引きそうじゃん。待ってるの暇だし、暇してたら仕事しないといけないからさぁ」


 仕事したくないと取ってつけたように言う連夜だが、瑠砺花にその心境は見え透けている。晶哉の目的には賛同できずとも、やはり知り合いが何かしているときに手助けしていない自分が気持ち悪いのだろう、と。連夜は仲間思いだ。敵に容赦ないがその分味方にはとことん尽くそうとしてくれている。それが気恥ずかしいのか素直に協力すると言い出せないことぐらいが欠点だろうか。


 「レー君が来てくれたら百万馬力なのだよ~」


 だから瑠砺花は連夜のその想いを邪魔しないようにするだけだった。瑠砺花にとって連夜は仲間思いのいい人なのだが、なにせ恥ずかしがり屋でその面が公になることを嫌っている人だ。いい人といわれるぐらいなら問題のある人物として扱われることを望んでいるのうな人だ。


 「レー君が来てくれたらなぁ~」


 「しょうがねぇな、瑠砺花ちゃんがそこまで言うなら行ってやろうか~」


 でも、瑠砺花が知っている中では、やはり一番仲間思いの人。

 瑠砺花がわざと下手に出ていることを分かって、なぜ瑠砺花がそうしたのかなど考えもせずにその上に乗ってきてくれる人だ。人の上に立つことに躊躇がない、それこそ血に染み込んでいる指導者の才能なのだろう。

 それでもそんな血の特性など瑠砺花には関係ない。瑠砺花がしたことだから、と部下を信頼してその身を任せてくれる優しい人でしかないのだと。


 「じゃ、お願いするのだよ、レー君」


 そして、瑠砺花がこれからの生涯すべてを費やして好んでいてもいい人なのだと。


 

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