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焦げ茶色の短髪が太陽の光に照らされ、煌めく。
ボタンが三つ開けられた白いワイシャツから見える草太の肌は少し、日に焼けていた。
「告白? 大会の後に何人かしてきたけど……え、どうしたんだよ。今までそんなこと言ったことねーのに」
「彼女が出来たんでしょ?」
いつもと変わらないトーンに淡々とした口調の美音。木々の隙間から漏れた光を浴びているのにも関わらず、衣服からのぞく肌は雪のように白い。
胸元で綺麗に結ばれたリボンが、膝上丈のスカートが、さわさわとひらめいている。
草太は困ったように眉を下げ、重々しく口を開いた。
「出来たよ。百合香って言うんだ。美音の苦手な女の子だよ。よく俺に愚痴ってたもんな。嫌いなんだろ? 言えるわけないじゃんか」
「だから黙っててあの子に言わせたの?」
同性の友達と呼べるものが今までいなかった美音の前に突然現れた百合香。
その存在は美音の日常を壊しつつある。
人と関わることが苦手な美音は動揺した。
そして、友達の多い草太に相談していたのだ。
ただ、友達として認識し、過ごしてしまえばほんの少しだけ日常が変わるだけで何事もなく過ごせたはずなのに。
「百合香っていい奴じゃん。ちゃんと話せば仲良くなれるよ。きっと。だから、もう、俺の前で彼女の愚痴言うの禁止な」
「なん、で」
渇いた唇から言葉が発せられる。美音は混乱しながらも必死で草太を引き戻す方法を考えていた。
だが、美音が言葉を見つけるより早く、草太は自転車に乗ってしまった。
「俺、これから第三中で部活だから。もう行くね」
草太は空を見上げた。そこに灰色の雲を見つけて何を思ったのか静かに笑った。
美音は肩に掛けたスポーツバッグを両手で握りしめ、ゆっくりと離れてゆく草太をぼんやりと見つめる。
ぽつり。ぽつり。
コンクリートが水玉模様に濡れてゆく。
唐突に、草太が振り向いた。
『 』
真剣な眼差しで、何かを告げた。
美音には届かない声。
だんだんと降り出してきた雨は容赦なく美音を濡らす。
草太のことで頭が一杯な美音は雨宿りという単語が思い浮かばなかった。
あっと言う間に濡れてゆく体を一切気にせず歩き出し、土砂降りの雨の中に消えてしまった。