1_3
「確かこのあたりに…ああ、あった」
酷く慌しいレンガ造りの街中を歩く。人間だった頃の視点とまるで違う
違和感には慣れたが、この迷路の様な街並みだけはまだ慣れないもんだ。
小高い山に在るこの街は、四方を山に囲まれ、東側に割りと大きい川がある。
目的地はそう。何か騎士団っぽい駐屯地。レンガ造りの無骨な建物。
その入り口はドアも無くポッカリと大きい口を開いており、外からの日差し
が中へと差し込んでいる。少し埃っぽいのか日差しにモヤが揺らめき…
いや、中で慌しく鎧やらを点検しているからか、中へと入るとそれが伺えた。
「早くしろ! ルーガレーツ帝国軍が辿り付く前に!!」
「あ、ああ判ってるさ…て、お前、クーの所のブサイクじゃないか」
「…むか」
明らかに今、酷い事言われた気がしたぞ。ただでさえシワのよりたくった眉間
を更にシワをよせて、慌てふためく男達の合間を歩く。えーとあの子は…いた。
同じように――あらまぁ。なんて愛らしい戦乙女。
白い厚手の布地に部分的に青銅だろうか、まぁ鎧。
長い金髪束を束ねた蒼い瞳の少女。
「!? エルヴァ? ここにきちゃ駄目でしょ?」
…明らかに邪魔者扱いしてるな。俺だって戦えるんだぞ、こんなナリだが。
ここに生れ落ちて早十数年、ただ生きてきたワケじゃない。
いくつかの必殺技も開発済みだ。少しは役に立――持ち上げて入り口に
持っていこうとするなゴルァ!!!
「ほら、安全な所に帰ってなさい。大丈夫、私が守ってあげる。
私もお兄ちゃんみたいに、誰かを守りたいの。
そうすれば、きっと…きっと」
何か泣きそうな、それでいてとても強い意志を俺にぶつけてくるんだが…。
伝わらないもどかしさ。騎士として街を守りたいのか?
だとすれば、とんだおてんばだな。深湖ならまずこんな事しないだろう。
半ば諦めて他の方法を探す事にしたが、結局見つからず陽は落ちた。
小高い丘から周囲を見ると警戒の為か松明の明りがいくつも揺らめく。
「どうしたものか…」
「偵察に行かせたんだが、数から見ても圧倒的に不利なようだな」
「ん? ああゼオートか。だろうな…こんな小さい街じゃ」
俺の後ろから暗い街中に揺らぐ松明を見下ろす。
こんな時だから、だろうか一つの疑問をぶつけてみた。
「なぁ、お前は何でこの街を守ろうと?」
「ある人間の雌を守りたいからだ」
「騎士の真似事でもしたいのか?」
なんだよ、首を傾げて…ああ、騎士が何か知らないのか。
俺は軽くゼオートの方を向くとそれを伝えた。
「成る程…ならば俺はあの人間の雌を守る騎士か。…悪くない」
「然し、武器を持った人間に真っ向から戦えば死ぬぞ?」
「それだ。硬い衣服を着込んだ人間にどう戦うか…」
そいや犬だもんなぁ、対騎士の戦い方なんて知る筈もない…か、よし。
そのまま街中に浮かぶ松明に視線を戻し、考えられる限りの方法を
伝えた。
「成る程な」
「ま、外側は硬いが中身は変わらんってとこだな。
それに全部が全部硬いってワケじゃない。
隙間を狙うという手もある」
「まるで戦った事があるかのような事を言う奴だ」
鵜呑みにするか? するだろうな、どうにも切羽詰っているように
思えた。
「さて、では俺は行くぞ。互いに生きているといいな」
「ああ。生きるさ、何が何でもな」
「そうか…」
そういうと、ゼオートは闇夜に溶ける様に走り去っていった。
後は俺だ。俺は…どうしようか。考え付かないな…ん?
「エルヴァ!? どこ!?」
あの声は…俺を呼んでいる様だが、なんだろう。
闇夜の星空の光を受けて輝く金色の長い髪、とても美しく思える。
だが、顔は焦りを露にして――ぬおっ!?
「居た!! エルヴァ!」
な、ななななななんだ!? 唐突に顔に白いモノを押し付けるな!!!
「お爺ちゃんから昔、エルヴァントはとても賢い獣だって聞いたの
思い出して。お願い、これをアリエートのスクラムス伯に届けて!!」
は!? 何? この白い紙…いや遠くを指さされ…いやまてよ。
犬、手紙、遠くを指さす…成る程、伝令…いや。
救援を求める手紙か何かか。それを誰かに届けて欲しいのか。
別の指差す方向を見ると…ちょ!! 何あの軍勢!? どれだけ全力投球だよ
敵さんは!! さっきまで見当たらなかった方向、川を上っていった先
に…駄目だ。数え切れない。少なくとも1000や2000じゃきかないな。
むー…この子はこの子で逃げる気は無し。
「お願い! 判って!!!」
頼み込む様に俺を見つめて大声で…ああ、勿論やるぞ。
何処かは大方わかった、かなり遠いがもう一つ街明りがある。
そこだろうな、問題は誰に…だ。
お、懐から何か布? つか顔に押し付けるな!!! …しかも、くさ!!!
嗅覚が優れている所為か、男臭さ満載の嫌な布の臭いが脳に直撃する。
思わずクシャミをしながら顔を左右に激しくふると、遅れて余った皮が
ブルンブルンとついてくる。
ま、まぁ臭いは判った。再び目的地だろう街へと顔を向ける。
夜風に乗り、微かだがあのくっさい臭いが遠くから。
これなら行けそうだな…俺は頷き、手紙を咥え込む。
「エルヴァ…!!」
まかせておけといわんばかりのドヤ顔を見せ、彼女に背を向け走り出す。
が、数分もしない内に息切れだ。どうしたお前、犬だろ!!!
鼻はやたら利く癖に運動能力低いのかよ!! 駈けろよ天馬の如く!!!
…駄目だ。体が重すぎる、こんな体じゃ…げ。
雨まで降ってきやがったか。空を見上げると分厚く暗く重そうな雲。
じきに本降りだな、手紙がやばいぞ濡れてはインクが流れ落ちるじゃないかよ。
周囲を見回すと手短な所に、古びた納屋がありそこに駆け込む。
アレは無いのか? アレは…あったぁぁぁ!!! ビンだビン。
あの子が昔から良く川にビンを流してたからな、何でか知らないが。
在ると思ったぞ! 然し蓋を出来ないこの手が憎い、手紙を折りたため
無いこの手が憎い、憎いぞ!! ええい多少クシャクシヤにする覚悟で
口で無理やりビンに押し込み…アーッ。ヘンに曲がった!!
いや、これを繰り返せば小さくならないか。再びビンの口と自分の口で
器用かつ不恰好に手紙を折りたたみ、ついにビンの中へと押し込む事に
成功。そのまま口の部分を咥え込み、極力雨が入らない様にし
納屋を出る。が、その頃には空に稲妻が走り、視界もままならない程の
豪雨となっていた。
…つくづく、つくづく人のやる事なす事邪魔してきやがるな。
「もう泣き言か?」
この豪雨の中、奴は立っていた。雨にも濡れず…いや雨が避けている
のか? そんな闇夜に浮かぶ白い鎧を纏った細身の女がこちらを見ている。
「ざけんな、既に目的地までは攻略済みよ!!」
「ほう? その惰弱な肉体で、あの街まで辿り付くと?
仮に辿り付けたとしても、時は待ってはくれないのだぞ?」
「馬鹿かお前、他の犬なら無理かも知れんがな。
このブサイクなら水は味方に出来るだろ」
「この私を馬鹿と罵るか…いいだろう。
ならば惰弱なれど賢きエルヴァントの活躍、とくと見せて貰おうか」
そう言うと彼女は闇夜の雨に溶ける様に消えてしまう。
さて、言い切ったはいいが、結構バクチなんだよな…。
然し、あの街の距離、そして敵さんとこの街の距離。確かに時間はなさそうだ。
雨に塗れ、更に重く感じる身を押して俺は、街の横に在る川へと。
「うぉー…案の定増水してやがる」
水がまるで獣の牙のように白波を立て、ぶつかり合い鈍い音を断続的に
打ち鳴らしている。それを前にし…あ、やっぱ足が竦んでら。
くそ…くそ!! 自殺行為だろこれはただの!! 確かにこれだけ肉と皮が
余ってりゃ水には浮くだろうが…あー、何か頭上から呆れた視線を感じなく
もないが、見てるっていったしな。ここは一つ、ルートを考え直し――
「うっギャーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!?」
これは予想していなかった鉄砲水。ズバーンっとさながらレーザーキャノンの
如くぶっ飛んでくる水に合えなく飲み込まれてしまう。
このビンだけは死んでも離さん、離さんぞ!!
と、意思を強く表に出す俺の顔に何かおもいっきりぶつかった!?
岩か!? くそ! 上下左右ぶん回されて
まるで洗濯機の中だなこりゃ。入った事は無いがおそらくこんな感じだろうな!!
などと余裕をぶちかましている間に一発二発三発と、何か鋭利かつ硬いモノにブチ
あたり、身を切り刻まれる痛みが立て続けに…くそ。もう…意識が。
… …。 ん、寒いだだだ。おぉ、生きてる、生きてるぞ! 奇跡だ。
けれど、何か前足に激痛と違和感が…げ。右の前足が千切れてやがる。
くそ、川の上流に見える街を見る限り、距離的にはもうすぐの筈なんだが。
…!? 街に火の手が…時間もなさそうだ。
鼻で臭いを辿ろうとしたが…がっでむ!! 雨で臭いが流されてわからねぇ!!
く…結構時間がたったのか…血が流れすぎたのか意識がまた…。
ここで、こんな所で、選択肢を間違った…か。
無理矢理にでも体を引き起こそうとはしたんだ。だが、どれだけ根性や強い意思を見せ
たとしても、既にこの体が死に掛けているのか? 吸い付く様に泥と化した土へと
崩れ落ちる。
「ちくしょ…深湖。すまない。どうも俺は…ん?」
半ば心すらも泥まみれになりかけた時だ。
左右に揺らめく様にボヤける視界。その目の前に割れたビンがあるのに気づいた。
…はは。手紙もアウト。偶然誰かがコイツを見つけて、危機一髪街は守れました。
という展開も望めない…か。にしてもえらく古いビンだな、別のか?
朦朧とする中で、俺はビンから僅かに顔を出す古びた手紙を見続けた。
おかしい、見覚えがある懐かしい文字…まさか、日本語?
――――――――――――――――――――――――――――――――
お兄ちゃん、…だよ。
お兄ちゃんもこの世界にいるんだよね?
私に生前の記憶があるから、お兄ちゃんにもあるよね?
だから、…の言葉で手紙を出しています。
この広い世界でただ二人、お兄ちゃんと私だけが理解出来る言葉。
秘密の暗号みたいだね。
私は……って女の子です。
えへへ、金髪の女の子なんだ。
住んでいる街はルシャート。すっごい犬が一杯いる街で…
… …
私、お兄ちゃんみたいに……たいから…
…になるんだ…そして…必ず…
――――――――――――――――――――――――――――――――
古いと言う事、そしてこの雨でどんどん流れていくインク。
文字も読みきる前に全て流れてしまった。
だが、十分だ―――何が? この体が動く理由にはだ!!
偶然か? それとも…いやいい。今其処にあるという現実と共に
残る全ての力を込め、立ち上がり吼えた。
「うるぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!」
自分の右前足を噛み付き、これ以上酷く出血しない様に血止めをする。
布なんて気の利いたモノが無くても、顎の力で止血する。
少しずつ、少しずつでいい街へ、目的地へ。
そして、ずっと昔から俺を探してくれていた深湖を助けるんだ。
方向?判らない、だが…あの時見た川と街の位置、おそらくはこっちだろう。
幾度も泥を体で受け止める様に倒れては起き上がり、決して口から右前足
を離さず、目は常に前へ、前へ、滝の如く打ち付ける雨の中を。
不思議だ。幻覚でも見ているのだろうか、酷い雨だと言う
のに燃え盛る街中、追い詰められた…深湖!!!
いや、敵もかなり焦りを見せている。あいつ等が善戦してくれたのか?
それは、その焦りの対象だろう。深湖の前で敵の騎士に向けて低い姿勢で唸る
ゼオートを見ればわかるが、お前も酷い傷。よくそんな傷で…。
「この人間の雌には近づかせんぞ…」
ああ、そうか。お前が守りたいといったのは深湖か。
はは、ありがとう。…だがな。深湖を守るのは―――
「この俺の役目だごるぁぁぁぁぁぁあああっ!!!」
「騎士という者の役目とやら…見事果たしてくれる!!!」
身を起し、残りの力全てで互いの目的へと。
ただ必死。そう、ただ…守るべき者の為。
熱く滾る血とハートに反して冷たくなり続ける体。
最早痛みも感じない、恐れすら感じない。
然しそれは五感の麻痺であると思い知らされる。
地面に立っているのかすら判らない…くそ。
だが、唯一残っている嗅覚、嗅ぎ覚えのある嫌な臭いと
とても暖かい大きな何かが俺を包み込んだのだけは覚えている。
俺は、どうなった…いや、深湖は助かったのか?
暗く深い海の底にでもいるかのように、緩やかに揺れる。
右へ、左へ不規則にただ、ゆっくりと。
「呆れた奴だ。豪雨の中、増水した川に近づくなど。
安心しろ、お前とお前の友の活躍により…無事、守られた」
そうか…そうか。良かった、せめて深湖だけでも助かったのなら。
まさか、あんなおてんばになるとは思ってなかったが。
「すまないな、あのビン…手紙を横に置いたのはお前だろう?
あの幻覚を見せたのもお前だろう?」
「余りに不憫でな…これで私も降格か」
「おいおい、女神だろ? 降格ってなんだよ」
「私はバルキリー、ただの神の尖兵に過ぎない。
然し、お前の様な上質の魂…失うわけにもいかなくてな」
おいおい、俺を何かと戦わせるつもりかお前。ん? 何だよ。
「さぁ、目を覚ませ。お前はまだ死んではいない。
いつまで大事な妹と友を泣かせているつもりだ?」
「な…に?」
…確かにあの子の泣き声と、遠くだが力強い吼え声…。
そうか俺は生きているのか、あんな状態で、ふざけたタフさだなこの犬は。
然し、何かに包まれているのか、身動きがとれ…熱!?
何だ? 急にお尻のあたりから猛烈に熱!!!
三年殺しを使った報いか!? いや冗談言ってる場合じゃない。
強烈に熱い!!
「いぇあぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!」
「…え!? 嘘…エ…ルヴァ…?」
「おぉ、神よ。感謝致します」
熱い!! 布が燃えて身動きとれたはいいがケツが尻がアスがアスッ!じゃなくてアツッ!!
炎上場所が場所なだけに転げても鎮火しない!!
ふうぅぅぅぅああああっ!!!
「神父様、お水っ!!!」
「あ、ああ、ああ!」
アツい熱いあんぎゃぁぁっ!! ひたすら転げまわるしかない俺に、今度は大量の水が
かけられ、ようやく鎮火。…ああー火傷も凄そうだが、それ以上に上半身だけ毛が
あって下半身だけ毛がチリチリパーマっていうか…もう無様この上無い状態に。
「エルヴァ…ありがとう、ありがとうね」
「ぶっぎゃぁぁぁっ!!」
コラ!深湖!! 抱きしめてくれるのはいいが、尻っ火傷っ痛いっ締め付けるなっ!!
抱え込むなぁぁぁああっ!!! 俺は余りの激痛にあえなく失神したのは言うまでも無い。
む、いたた。うーん。朝か。いつもの納屋、藁の上で目を覚ました。
アレは夢だったのか? いやケツの痛みとグルグル巻きで
オムツと化した包帯が現実と教えてくれる。
何より、目の前に深湖がいる。名前は判らないが金髪の少女となった元気な深湖がいる。
…ん? あ、目があっちゃった。てか起きてたのか。
「おはよう、エルヴァ」
「ぶふるるる」
おはようと言ったつもりだが、ぶふるるる である。そんな返事に深湖は軽く笑うと、
俺を抱き起こし…ん? 何を焦っているんだ?
「凄いね…エルヴァ。 スクラムス様が騎士の爵位を君にっ…て。
プレゼントがあるらしくて家で待っててくれてるから早く行こう?」
…いやまて、言葉判らんっつーに!! 日本語で喋れ、俺だ俺!!!
だーっ通じてねぇ。互いの心は通じ合うとか無いの? ねぇ無いの!?
なんというかもう意思が一方通行。こっちの意思はまるで無視。
通じないから仕方無いが、なす術も無く深湖の家へと。
古ぼけたレンガ造りに少し木造を足した家はなんとなく趣を醸し出している。
赤茶色の屋根に一つ突き出た煙突が、なんともアンデルセン。
そんな家に入ると、銀髪に褐色肌の中年、顔の彫りは深くナイスミドルな男が
中央にある木製のテーブルに座っていた。
「おはようございますスクラムス様」
「ああ、おはようクーデリア君」
「エルヴァ、この方がスクラムス様。国王様の信頼を一身に受ける素晴らしい
領主様なのよ?」
何か説明してくれてる様だが…場の空気…いやこの嫌な臭いは加齢臭だったのか。
嗅覚が凄すぎてもうワケわからんほどに悪臭と化している。
然しまぁ、なんだな。どこぞの身分の高いオッサンとだけは何となく判る。
「さて、こんな私でも忙しい身でね。余り長居も出来ない。
ルーガレーツの事もある。今回は言葉だけだが、後日、形として贈りたい」
「お忙しいのに申し訳ありません」
「いや、この大陸中央に位置する要所ルシャートを一命を賭して守った
者に無礼な振る舞いは出来ん。例えそれが犬であろうとも」
なんだ、静かに俺達の前に立ち、腰に挿していた剣を静かに抜き取り…
何する気だよ。深湖に傷でも負わせたら三年殺し喰らわすぞオッサン。
「ソクラム領 アリエート領主、スクラムス=レイムラントが約束しよう。
後日、本国より君に騎士爵位と証を必ず届けると」
「エルヴァ…凄い」
「ぶふるる?」
何か何? 剣の切っ先をつきつけられ…これ国王が確か任命したりするときに
やる仕草だよな? 国王なのか? この加齢臭。にしちゃ貧相だなおい。
国王ならもっとこう、髭がもっさりどっさりと…うん。
その仕草をし終えると、静かに剣を鞘にしまい、深く一礼をして足早に
家を出て行ってしまった。忙しいのか? 焦っているのか?
この街が敵さんや加齢臭の国にとって、それほど大事な要所なのだろうか…。
言葉が判らないので判断しにくいが、そんな所だろうか。
で、さっきから俺の頭を、煙が出る程に撫でまくるのはやめないか? 深湖。
そんなこんな半月程が過ぎ、ようやくケツの痛みも治まってきた頃、俺は小高い
丘で街を眺めていた。あの一戦から敵さんが警戒したのか、膠着状態になってるようだ。
だが、ほんの些細な切欠があれば…また始まるのだろう。
「生きていたか、しぶとい奴だ」
「ご挨拶だなおい。お前こそ無事だったみたいだな」
「ああ、この命尽きるまであの雌を――」
「ミコってんだよ。雌って言うな。三年殺し喰らわすぞ」
「ミコ…か。良い名だ」
「当たり前だ」
暫く、二匹揃ってだんまりと街を見下ろす昼下がり。
なのだが、時折ゼオートの視線が俺の右前足に」
「義足ってんだよ。失った部分を金属で補うものだ」
「ギソク…か。貴様は人間の事を良く知っているのだな」
「…まぁな」
どうも性格か? コイツは俺に対して微妙に敵意みたいなモノを感じる。
さっきの挨拶もそうだが…深湖が俺にベッタリなので嫉妬でもしているのだろう
か? それは多分本人も判っていないだろうから、探る術もなし。
まぁ、何にせよこの義足。ご丁寧な事に物凄く小型のバックラーまでついてやがる。
邪魔で仕方無いんだがな。つかこんなブサイクにバックラー付き義足つけさせるなよ。
肉が当たって痛いんだよ!! 邪魔なんだよどう考えてもこのバックラーは!!!
と、嘆く相手も…隣にいるが意味をイチイチ説明するのはしんどい。
大きく溜息を吐きつつ、バックラーに埋め込まれた何処かの国の紋章?
の様なモノを見て、何でこんなものついてんだ? と首を傾げゼオートの顔を
見て、再び互いに無事で良かった。そう伝えて静かにいや、カチャカチャ煩い音を
立てながら、納屋へと戻っていった。
ヴァルキリー、戦乙女、確か魂を選定したり何かしてた奴だよな?
ゲームだと。俺の魂を欲しがっているようでもあり…ま、今回の活躍は神様から見て
ご満足戴けたかな? そう思いつつ蒼天を仰ぐ。
答えはイエスかノーか…それは神のみぞ知るが、そんな俺の顔はドヤ顔である。
そして、俺の目的は確か、この世界の戦乱を収める為…だったよな?
こんな体で言葉も判らない、何て無理難題なんだか。ま、一丁平らげてやるか。
この名も知らない世界。名も知らない大陸の戦乱を。