第一話「戴く獣」
義足のエルヴァント
プロローグ
この世界の言葉に、エルヴァントと言うモノがある。
エル――有り余るの意。
ヴァント――主に肉や皮を指す。侮蔑の意。
異世界リーサリア。色鮮やかな鳥達が蒼天を舞い、
清く澄んだ水を求め、大小様々な獣が大きな緑豊かな大陸を駈ける。
その中央山岳地帯に位置する小さな街ルシャート。
そこにのみ語られ続ける、ある獣の御伽噺。
それは、強大な力を持つ神獣? 魔獣? 違う…珍獣である。固体名も固体名だが、別名を併せ持つ。
それはまず、この二人の会話を見て欲しい。
古ぼけた趣のある納屋で生まれた子犬達、
それを暖かく見守る年端もいかない幼子と老人の会話から。
「お爺ちゃん、この仔犬だけヘンだよ?」
「む?…これは、まさかエルヴァント? この世界にただ一匹だけ…
それも、この街に生まれてくる獣じゃな。
世の乱れを告げる獣、乱世の獣とも呼ばれておる」
「えと…乱世を招く魔獣…? それとも乱世を正す為に生まれてきた神獣なのかなぁ?」
「判らない。けれどこの獣はの…見た目どおりじゃ。醜く動きも遅い。
じゃが、他の獣とは一線を画す存在。それだけは伝えられておる」
「一線を画す…?」
「ああ。そうだとも、言葉など判る筈も無いというのに…そう。
とても勇敢で高い知恵を持つ獣じゃったかの」
「えー…賢そうに見えないよ?」
「ほっほっ…見た目と中身が同じとは限らないよ。
それよりも、この家の仔として生まれてきたという事は…」
「…? 私の顔に何かついてるの?」
「いや…なんでもないよ。クーデイル」
「むー…へんなお爺ちゃん。あ、そろそろ川にいってくるね」
「ああ、気をつけてな」
エルヴァントは乱世を告げる獣。その醜く太り垂れた肉と皮…現在の人間達の
写し身とも言われている。老人が最後に少女を見た理由。それがこれから語られる
兄と妹の物語『義足のエルヴァント』
言葉も通じない二人が乱世の世で生き抜き、ある目的を果たす物語。
さぁ、兄である主人公の視点から見ていこう。
兄として、雄として生きる醜い獣の眩い生き様を―――。