84/130
ハロウィン(14)
中井先生は、昔から何でもできる優秀な人だった。何をやっても人並以上にこなす、そんなあの人に在りし日の私は憧れ、あの人に褒められる事に何よりも喜びを感じた。
誰の賛辞よりも先生の賛辞を求めて、私は日々の研鑚を惜しまなかった。結果はちゃんとついてきて、その度に先生は褒めてくれた。そうして私はより一層努力を重ねた。
いつしか私は先生に褒めてもらうために優秀であることにこだわるようになっていたのだ。
だが次第に、先生は私のことを褒めてくれなくなっていった。
「花村」
「は、はい」
体育館から校舎へ続く渡り廊下で、帰り際の中井先生が声を掛けてきた。先生は時間を気にしているのか、時計に目をやりつつ要件を告げる。
「明日の練習試合は一年生も使っていくから、いつも以上にしっかりな。あと、良い動きするやつもチェックしておけ」
「はい、わかりました」
早口で喋り切ると先生は
「じゃあ明日、よろしくな。花村」
ありきたりな挨拶の後、返事も待たずに急ぎ足で行ってしまった。その背中に、力なく
「……お疲れ様でした」
と返す。聞こえなかったのだろう。返答はなかった。