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四月一日の道化 (8)
その顔には先程の憂いもなく、只々、穏やかな笑みをたたえていた。
「ありがとう。木崎」
そして恥ずかしげもなく、大真面目に礼を言う。昔から少しも変わらない、お人よしの馬鹿者。
そんな彼を好きになった。その想いが、認めざるをえない私の真実だ。だが今更それを告げられるはずもない。
私の本当の気持ちを伝えたところで、水下が笑顔になるわけではない。それに、彼が今笑っているのは、さやかの本当の気持ちを知ることができたからなのだ。
私の役割はさしずめ、偽りの気持ちの下で泣きながら、彼を笑顔にする道化といったところだったのだろう。
それでもいいと思った。
「気にしないで。……あ、それとさ、水下」
それでもいいと思ったのに、私はそう呼びかけていた。
今日という日が四月一日、どんな嘘も蔓延り跋扈するエイプリルフールだったからだろう。
「……私、水下のこと好きなんだけど」