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四月一日の道化 (7)
当の二人がお互いにそのことに気付いていなかっただけ。気付いていたのは私だけ。私だけが、自分の気持ちが報われないことを知っていた。
だから自分の気持ちを認めようとしなかった。
認めなければ、報われないとしても傷つかずに済むと思っていたから。
「今日ほどあの子の嘘に気を付けないといけない日はないでしょ。何回さやかに騙されたら気が済むの。ほら、さっさと追いかけてもう一回告白しなよ」
茫然としていた水下は、私のその言葉に鞭打たれたように走り出した。相当焦っているのか、机と椅子にあちこちをぶつけながら教室の入り口を目指す。見ているこっちにまでもどかしさが伝わってくるようだった。
勢いそのままに教室を飛び出していくかと思われた水下が、不意にこちらを振り返る。