胡蝶の夢 (13)
暴言に加えて、再び苛立ちを孕んだ彼女の眼力に気圧された僕は、慌てふためき、その結果実に考えなしの発言をしてしまっていた。
「じゃ、じゃあ、文化祭までにしておこうかな。何なら、後夜祭のときにでも飛び降りて文化祭のフィナーレを飾るとか?」
「……本当、止めたいのか止めたくないのかわからないな」
我ながら同意見である。ただここで再度弁解をすれば、ますます彼女の機嫌を損ねてしまうことは火を見るよりも明らかだった。誠に不本意ではあるものの僕は沈黙を選ぶことにする。彼女は彼女で呆れを隠しもせずに溜息を吐いていた。結局、どっちに転んでも彼女の機嫌を損ねる羽目になったようだ。だがその後で
「でも、文化祭のフィナーレか……」
と呟きながら、彼女は向かいの校舎を俯瞰する。今も校舎に残って熱心に作業をする生徒たちの活気を見れば、当日の盛り上がりは容易に想像がつくというもの。そして最終日のキャンプファイヤーでそれが最高潮を迎えるであろうことも、今からわかりきったことだった。だが、その興奮冷めやらぬ内に飛び降りる心地など、どこの誰にも想像などつくまい。何よりそのことが彼女の心を惹いたのだろう。僕の口から出たいい加減な提案を彼女は
「それ、いいね」
と満足そうに笑って採用するのだった。
やがて迎える終わりの時に想いを馳せ、恋焦がれる、あまりに歪んだあり方の笑み。
「それならちょっとだけ、この夢も楽しめる気がしてきた」
だがそれは、彼女が屋上にきてから初めて見せた、本当の笑顔だった。
オマケに続くかもしれません
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